第22話 風邪
どれくらいの時間が経っただろう。
しばらく泣きながら立ち尽くしていたけど、どれくらいかは覚えていない。
落ち込みながらも、ようやくマンションへと帰ってきた。
【帰ってきたわね。丹波イリュージョンだっけ?どうだったのよ】
「…………」
無言のままベッドに倒れ込んだ。
【ちょっと。何無視してんのよ。どうしたのよ。何か言いなさいよ】
「……っさい」
【えっ?なんだって?聞こえないわよ】
「……うるさい。放っておいてくれ」
【何よ。どうしたのよ。……って、あんたびしょ濡れじゃない。体拭きなさいよ】
「……いい」
【いいって……。もう何なのよ。わかった。いいわ。あんたの記憶を勝手に覗くから】
「…………」
好きにしろ。勝手にしろ。
プライバシーの侵害だとか普段なら文句言うところだけど、もうどうでもいい。
どうでもいいんだ。
【……つまり。なるほどねぇ。あら、まあ……。そういうこと……】
どうやらアルは、俺が告白してフラれたところまでの記憶を覗いたらしい。
【……まあそういうこともあるわよ。残念だったわねぇ。しかしねぇ……あたしは成功するんじゃないかと思ったんだけど、女心ってのは難しいわねぇ】
「…………る」
【体拭きなさいって。風邪ひくわよ】
「寝る」
アルに体を拭けと言われたけど、今はとにかく早く眠りたかった。
どれくらい時間が経っただろう。
体のだるさと頭痛で目が覚めた。
「ううん……」
体が重い。頭痛がする。
体温計で熱を測ってみる。
三十八度五分。
かなり熱が高い。
「ああ……マジか……」
【ほら、みなさいよ。だから言ったじゃない】
風邪薬あったかな……。
フラフラになりながら風邪薬を探し出して飲む。
「はぁ……。最悪だ……。しんどすぎて大学も行く気力もない。休むか」
【ったく何やってんのよ。もう早く寝てなさいよ】
ベッドで目を閉じながらアルに話しかける。
「アル……。お前、俺の記憶覗いたんだろ?」
【覗いたわよ】
「告白してフラれてさ。情けないだろ?」
【そうね。雨の中で棒立ちは情けないわ。落ち込んでてもさっさと帰ってきて体拭いてれば風邪もひかなかったわ】
「正直、焦ったんだ。次のデートの誘いができる気がしなくてさ。勢いもあって」
【それで焦って告白しちゃったわけね。もう済んだ事なんだから考えても仕方ないわよ】
「はぁ……」
【今は何にも考えずにその風邪を治しなさいよ】
「ああ……そうする」
体がだるい時っていくらでも寝られるな。
大学を二日休んでとにかく寝た。
ようやく熱が下がり、大学へ行った。
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