第13話 眠れない
それは真夜中の事だった。
電気を消した暗い部屋の中、俺は葛藤していた。
「うー……うー……んーー、くそーーー」
【何よ、さっきからうーうーうるさいわよ。気になって眠れないじゃない】
「えっ?お前寝るの?」
【寝なくても平気よ。気分の問題よ。夜は静かに過ごしたいじゃない。それでどうしたのよ】
「寝る時に寝やすいベストな体勢を発見したのに、少しトイレに行きたくなった時の葛藤。トイレには行っておいた方がいいと思うんだけど、このベストポジションを動かして崩したくないという時の心理。精霊のお前に理解できるか、アル」
【つまり今、寝やすい丁度良い感じだから動きたくないわけね】
「そうだよ。……はぁ、仕方ない。トイレ行くか」
トイレで用を足してまた布団の中へと戻って眠ろうと目を閉じる。
どれくらい時間が経っただろう。
「…………やっべ。全然眠れねぇ。テレビでも見ようかな」
【ダメよ。余計眠れなくなるじゃない。また生活リズム狂うわよ。頑張って寝なさいよ】
「頑張ってるよ。はぁー……」
【目を閉じて呼吸することだけ考えなさい】
目を閉じて呼吸することだけに集中した。
そのまま朝になってしまった。
長い夜だった。
結局あまり眠れなかった。
「あああー、もう朝だよ。寝不足だよ。今日も大学なのにきついなぁ……」
【眠らないとダメなんて人間は不便ね】
「そういえばアルは、いつも俺が寝てる間、何してるんだよ」
【テレビ見たり外に出かけたりしてるわよ】
「いや、勝手にテレビつけるなよ。ってか気づかなかった」
【一応、あんたに気を使ってあげて、ヘッドフォンして観てるから音漏れはないわよ】
「精霊がヘッドフォンするのかよ」
【ちなみに昨日は、外に出かけてたわ。二十代の若い人間の男に化けて、深夜のコンビニで漫画の立ち読みよ。一度やってみたかったのよ】
「はいはい、そうですか……。とりあえず大学行ってくるよ」
【そう。頑張って勉強してらっしゃい】
今日の講義は、鬼崎の授業じゃないからな。
かなりゆるい加藤先生の授業だ。
自由席だし、一番後ろの席に座って寝てても大丈夫だろう。
一番後ろに座った俺は、すぐ寝ようとした。
それとほぼ同時に隣に女の子が座った。
いつもは一番後ろではなく、真ん中くらいの席に座るから気づかなかったけど、凄く可愛い女の子だ。こんな子もこの授業受けてたんだ。
これはやばい、超タイプだ。
可愛すぎて横目で何度も見てしまう。
眠気が吹っ飛んでしまった。
今日はラッキーだ。良い目の保養になった。
大学の講義が終わり、家へと帰った。
「ただいま」
【あら、なんかテンション高い気がするのは気のせいかしら】
「えっ?わかる?隣の席にかなり可愛い女の子が座っててさ、ラッキーだったよ」
【それでどんな話をしたのよ】
「えっ、声なんてかけてないよ。可愛いなと思って横目でチラチラ見てただけだよ」
【なんで声かけないのよ。せっかく隣になったのにチャンスじゃない】
「いやいや、そんなことできるわけないだろ」
【何よ。もっとガンガンいきなさいよ】
「いやいや、そんなことできたら彼女とかいるから……」
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