第9話 クッキーマンサバイバル

ある日のことだった。

俺のスマホに大学の友達から電話がかかってきた。


「もしもし。……えっ、クッキーマンサバイバル? マジで?よくチケット取れたね。おー、いいね。行こう。今週の日曜日。うん、大丈夫。わかった。じゃあね」


【あら、友達とどこかへ出かけるのかしら?】


「クッキーマンサバイバルだよ。チケット取れたんだって。行くしかないでしょ」


【クッキーマンサバイバルってテレビのバラエティ番組でたまに出てるあれかしら?】


「そうだよ、あのクッキーマンサバイバルだよ。絶対に俺が一番最初にクリアしてやるんだ」


クッキーマンサバイバル。

子供達に大人気のクッキーマンの可愛いキャラクターが出てくるアスレチック型遊園地だ。しかし罠や謎解きの難易度がエグすぎて、とても子供向けレベルではない。かなりの運動能力と謎解きに必要な知識の両方が必要になる。難易度が高すぎて逆に話題となり、カップルから家族連れ、更には最近では修学旅行や遠足で来た学生まで完全攻略を目指して連日多くの挑戦者が訪れるが、今だに完全攻略者ゼロの大人気スポットだ。もちろんチケットは即完売。

ちなみに余談だが、クッキーマン人気キャラクターランキングが毎年公式サイトで結果発表されるが、毎年ファン投票で堂々の一位に輝いてるのが、チョコチップクッキーちゃんである。


【あんたには無理よ。見たところ身体能力も高くなさそうだし、頭も悪そうだし】


「うるせぇよ。しれっと色々バカにすんなよ」


【あら、客観的に見た事実を言ってるだけよ。あんたの身体能力や知能が、全ての人間の中でどの程度のものなのか精霊のあたしが見ればわかるわよ】


「俺はどの程度なんだよ」


【中の下ね】


「微妙じゃん……」


【そうよ。あんたは全体的に微妙なのよ。でも事実よ。悲しいかもしれないけど受け止めなさい】


「精霊に言われると結構へこむな」


【でもね、あきらめちゃだめよ。人間努力すれば良い方向に進んでいくの】


「精霊に言われても何の説得力もないけどな」


【まあどうせあんたじゃクリアなんてできないんだから気楽にやってきなさいよ】


「うるせぇ。見てろよ、クリアしてやるから」


そして日曜日。

俺は友達とクッキーマンサバイバルに行った。

結果は……


「アル。あんなの無理だ」


【あら、やっぱりね】


「謎解きの難易度がおかしいんだよ。円周率の百桁目の数字。そんなのパッとすぐに分かるかよ。適当に六のドアに入ったら落下して水浸しでゲームオーバーだったよ。ほんとどう考えても子供向けじゃねぇよ、あれ。小さな子供が円周率とか分かるかよ」


【ちなみに百桁目は九よ】


「えっ!?即答!?そうなの?ってか精霊が円周率わかるの?」


【わかるわよ。あたしクッキーマンサバイバルクリアしてきたわよ】


「えっ?いつ?」


【あんたに初めて会った日ね】


「ああ、そういえばちょっと出かけてくるとか言って光放って消えたよな。えっ?あの時?」


【そうよ。ちょっと気になったから人間に化けて行ってたの。とても簡単だったわ】


「ちょっと前にニュースでやってた唯一のクッキーマンサバイバル完全クリアの少年、クリア後に姿くらます。完全攻略者にカウントしない方向にってニュースやってたのって、まさかお前なのか?」


【そうね。インタビューされそうになったけど面倒だから逃げてきたの】


「マジかよ!じゃあ答え全部教えてくれよ。そしたら俺クリアできるじゃん」


【あんたね、それは不正行為よ。自分の力で解いてクリアするから価値があるんじゃない】


「いや、お前は正式なチケットなしで不法侵入してんじゃねぇか」


【あたしはいいのよ。別に人間じゃないんだし。ちょっと人間の世界を覗いただけの話よ。誰にも何の迷惑もかけてないわ】


「教えてくれてもいいじゃんか。ケチ」


【そうやって自分の実力不足が原因なのに、誰かのせいにするのはダメなことよ】


「くそぉ……」

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