第8話 逃亡剣士三十六郎
「ふぅー、休憩ー。テレビでも見ようかな」
テレビをつけてチャンネルを変えていっていた時だった。
【あらやだ、そうだわ。忘れてたわ。ちょっとチャンネル変えないで。さっきのに戻して】
「さっきのってどれだよ」
【…………はああああ!】
俺は何も触ってないのにチャンネルが変わった。
「えっ、なに」
【あら、間違えたわ。これじゃないわ。……はあああ!!】
またチャンネルが変わった。
「何したんだよ」
【何って。あたしは精霊よ。念じるだけでテレビのチャンネルを変える事なんて造作もないことよ】
お前はリモコンか。
「それでさ、何だよ。これ」
【あんた知らないの!?逃亡剣士三十六郎よ】
「いや、知らない」
【三日月幸弘主演よ。みーくんよ、みーくん】
「みかづきゆきひろ……。あー、まあ俳優の名前は知ってるけど。あの渋い人ね」
【十六流剣術の師範十六郎と、その弟子の三十六郎が次々と現れる刺客達を倒しながら日本全国を逃げ回るアクション時代劇よ。この間の話で師匠の十六郎が死んで、十六郎を殺した黒幕が主人公の三十六郎の兄弟子である二十六郎である事が分かったっていう見ごたえたっぷりな回だったのよ。もう続きが早く見たくてたまらないわ。これ再放送だから観たけど、もう一度観るわ】
「いや、再放送なのかよ。観たんならもういいだろ」
【何言ってんのよ。もう一回観る事でまた新たな発見があるのよ】
「……まあ別にそれでいいよ。今は特に面白そうなのやってないしな」
【あんたも観てみなさいよ。ハマるわよ】
「そんな途中の中途半端なところから観てわかるかよ」
【案外わかるわよ。今やってるのは、香川県に逃亡してうどんを食べてたら刺客に襲われる回ね。うどんがまた美味しそうなのよ】
「へぇー、いや全然興味ないわ」
【いいから一話だけ観てみなさいよ】
「あー、まあ観てみるか。今はぼーっとテレビでも観て掃除で使った体力を回復させたいしな」
ああ、確かにうどんが出てきた。
讃岐うどんか。確かに美味しそうだ。
「……アル。今日の晩飯は、うどんにするよ」
【あら、まあ。簡単なご飯だけど今日は許すわ】
こんな感じで精霊アルとの日常は続いていった。
この精霊、口うるさいのが難点だけど、一人暮らしの寂しさを紛らわせるという本来の目的が達成できたし、まあよしとするか。
随分と想像していた展開とは違うけどね。
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