第6話 料理を覚えなさいよ

「朝、時間に余裕があるってのもいいな」


【ようやく早寝早起きの生活リズムが体に染みついてきたようね。まあ、あんたには生活リズム以外にも改善すべき点は山のようにあるけどね】


「例えば?」


【なによ、逆にわからないの?この一週間、あんたの食生活にあえて口を出さなかったけど、ひどいもんじゃない。朝はコンビニ行っておにぎり買って食べて、昼は大学の学食でしょ。夜はまたコンビニの弁当かスーパーの揚げ物のお惣菜ばっかりじゃない】


「美味いんだからいいじゃん」


【栄養バランスを考えて献立をきちんと考えて自炊しなきゃだめよ】


「それが面倒だから買ってるんだよ」


【自炊くらいちゃんとしなさいよ。栄養バランスもきちんと考えてやりなさいよ】


「料理得意じゃないんだよ」


【だったら色々勉強したらいいじゃない。料理本買うなりネット使うなり、実家のお母さんに教えてもらいなさいよ】


「えー、やる気出ないなー」


【やりなさいよ。やらないとまた静電気で……】


「ああー、それは嫌。わかった。わかったから。全く……じゃあちょっとやってみますよ」


【わかればいいのよ】


とりあえず手始めに初心者向けの卵料理からやってみるか。

今日はオムライス作ってみよう。


ボウルに卵を溶いて、牛乳、塩コショウ、片栗粉を混ぜて……

具材とごはん、ケチャップを混ぜて……


「よし、できた」


【……なによ。ただのオムライスじゃない】


「ほら、やればできるんだよ」


【簡単なの作ってどや顔するんじゃないわよ。できる料理ばっかやっても何の進歩もないわよ】


「じゃあどうすればいいんだよ」


【料理本よ。料理本を買ってきなさい。それで色々作ってレパートリーを増やしなさいよ】


「いやー、なんか難しそうじゃない?」


【やらなきゃ成長しないわよ。ほら、本屋よ。本屋。いってきなさい】


「えー、今から?」


【そうよ。早く行きなさいって】


「めんどくせぇな……」


パチッ!!


「痛いっ!!わかった、わかった。行くからそれはやめてくれ。痛いからマジで」


追い出されるように家を飛び出した俺は、近所の書店へと向かった。

うーん、料理本も色々あるけどな。


えーと……

高血圧にならない為のレシピ百選。

それから……

簡単!早い!美味しい時短料理。

ほうほう。なるほど。他には……

食べて健康。究極の栄養バランス完璧レシピ


うーん、食べて健康。究極の栄養バランス完璧レシピにするか。


本を買ってマンションへと戻った。


「おーい、アル。料理本買ってきたぞ」


【どんな本買ったのよ。ちょっと見せてみなさいよ】


「これだよ」

袋から料理本を取り出す。


【食べて健康。究極の栄養バランス完璧レシピねぇ……。あたしとしては、究極のってフレーズが嘘くさい気がしてならないんだけどまあいいわ】


「タイトルにケチつけるなよ。大事なのは中身のレシピだろ」


【あら、あんたにしては珍しく正論ね。そのとおりよ。早速今晩の夕食からチャレンジするわよ】


「へいへい……。わかりましたよ……」


今晩から料理を頑張り始めた。

最初は失敗ばかりだった。


まずい失敗料理を何度も何度も味わって、コンビニ弁当に逃げようと何度も考えた。

しかしその度にアルが静電気攻撃を食らわせてくる。


このままじゃ死活問題だ。

そう思い、必死に自炊を頑張った。


何日も何日も。


そしてなんとか豚肉の辛みそ炒め、ささみとほうれん草のごま和えといった、それらしい栄養バランスをきちんと考えた料理を少し作れるようになってきた。


「美味い!!俺、絶対成長してるよ!!」


【調子に乗るんじゃないわよ。この本のレシピ全部作れるようになってやるくらいの勢いがなくてどうするのよ】


「それがさ、最近結構楽しくてさ。新しく作れるようになってレパートリーが増える度に料理って案外楽しいなって思えるようになってきたんだよ」


【あら、自炊の楽しさに今頃気づいたわけ?】


「そうなんだよ。今までは自炊なんて面倒だし自分には無理だって思ったけど、必死になってやってみると案外できるな」


【まあ最初の頃に比べるとマシにはなったわね】


「それは俺もそう思うよ」

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