第4話 悔しいけど当たってます

「あ、いやいや。こんな平凡な人間といてもつまらないでしょ。何も暇つぶしにならないし……。それにそんな長期間いて……ね?」


【何言ってんのよ。一年なんて一瞬じゃない】


「いや、精霊基準で考えないでください」


【あんた寂しがり屋さんでしょ。だから金魚を飼おうとしたんでしょ?キン太なんてベタな名前までつけちゃって。なんだか見てて可哀そうになってきたから、ちょっとの間、一緒にいてあげるわ】


精霊に哀れまれた……。

こんな人間は俺くらいなのかな。

なんか辛い。


「あ、いやいや。でも精霊も忙しいんじゃないですか?」


【暇よ。暇だから遊びに来たって言ってるでしょ。することがないのよ。平凡でダメダメなあんたを正しく躾けるのも良い暇つぶしになりそうでいいわ】


どうしよう。

ペットとして買ってきたやつに、逆にペットのような感じで扱われている。


「いや、平凡でダメダメって。そこまでダメな奴じゃないでしょ」


【どう見てもダメダメじゃない。部屋は整理できてなくて散らかってるし、さっきみたいに昼間からウトウトして昼寝するなんて生活リズムが乱れている証拠よ。どうせ自炊もろくにせずに栄養バランスも考えずにコンビニで好きな物ばっかり適当に買ってご飯済ませてたりするんでしょ】


当たってます。

悔しいけど当たってます。

掃除は明日でいいや。今日は疲れてるからまた今度ってのばかりです。

次の日が大学でも一限目が休講だったりすると、寝る時間が十分あるから夜遅くまでゲームしたりネット見たりして遊んでます。

自炊も最初のうちは頑張ってたけど、次第に面倒になってきて最近はコンビニがないと生きていけません。

好きな物ばかり食べて栄養バランスなんて考えてません。

はい、悔しいけど当たってます。精霊さん、あなたのおっしゃるとおりです。


「い、いや……。そ、そ、そんなことないし。今まで大学の講義にだって一度も遅刻したことないし」


【まだ大学始まって一ヶ月でしょ。それで遅刻してたらあんた……。もう救いようがないわよ。自慢するようなことじゃないわよ。それが普通よ、普通】


くそ……。

精霊のくせに正論すぎる。


「いやいや、これからも遅刻なんて絶対しないし」


【あら、そう。そんなだらしない生活してて、どこまでやれるのか見物ね。さてと、あたしも少し出かけてくるわ。また帰ってきたら遊んであげるわ】


アルがそう言い終えると、水槽が突然強烈な光を放って発光しはじめた。

そして光が収まると、水槽の中にアルの姿はなく、空っぽになっていた。


「なんだ今の光は……。不思議な感じ……。あれやっぱり本当に本物の精霊なのか……?」


その日は、それからアルの姿を見ることはなかった。

よくわからないが、長い時間夢を見ていたのかもしれない。

やっぱり寝ぼけてたのかも。

忘れよう。

そう思い込んで、またダラダラと夜遅くまでオンラインゲームをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る