ダークエルフの兄妹

「いったい何なのよ!」


 俺たちは騒ぎの中心へ向かう。そこにいたのはダークエルフの男女であった。

 美少年と美少女のペアである。何となく兄妹のように思えた。


「ルカ、あれがリーゼロッテ姫?」


「うん。アカム。あれがリーゼロッテ姫」


「へー。思っていたよりも可愛い見た目してるじゃん」


「写真見てなかったの?」


「見てたけど、強いっていうから、もっとごつい見た目を想像してた」


「その原理からすると刺客に来た私も可愛くないって事になるけど」


「そうだな。それはちがいねぇ! がっはっは!」


「何者だ! 貴様ら!」

 

 リーゼは聖剣エクスカリバーを引き抜く。


「リーゼロッテ姫! 四天王の一人であるクレスティア様の命によりお前を殺しにきた!」


「な、なんだと! 私を殺しに!」


「っていうか、ルカ! なんだ周りの女と黒い男は!」


「わかんないわよ。クレスティア様の説明にはなかった」


「誰だ! てめぇら!」


「勇者ユフィとそのパーティーだ」


「勇者ユフィ? 聞いた事あるなぁ」


「アルベド様を倒したパーティーの事よ。四天王の一角だった」


「ああ! アルベド様を倒した! けど、この大帝国攻略も攻めているうちに勇者ユフィのパーティーが来るかもっていうクレスティア様の計略だったから何も問題ないか。予定通り! 予定通り! がっはっは!」


「そうね。予定通り。リーゼロッテ姫と一緒にいるのなら話が早いわ」


「ああ! まとめてぶった切ってやる!」


 アカムという少年は剣を構えた。


「気をつけろ。あいつ等、精霊術士だ」


「ご明察」


 アカムという少年の方は剣士風の装備だし。ルカは魔導士風の装備だ。おそらくは見た目通りアカムが前衛でルカが後衛のペアとみて間違いはない。


「行くぜ」


「私の首を獲れるというなら獲って見せなさい」


 お互いに剣を構える。


「「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!」」


「エクスカリバー!」


「炎殺剣!」


 聖なる光を放つエクスカリバーに対して、アカムの剣は真っ赤に燃えた。光と炎が全く互角のエネルギーをもってぶつかり合う。


「魔法剣士か」


「ご明察。それが俺の職業だ」


 魔法剣士。魔法使いと剣士を両立させた職業。さらにその魔法剣士を極めた者だげが到達できる頂きがある。それが魔法と剣の同時使用。魔法剣である。


「ルカ! やっぱこいつ結構強い。俺と同じくらいかな。バフかけて」


「はーい」


 ルカはアカムにバフをかける。ルカはオーソドックスな精霊術士のようだった。


「炎の精霊の恩恵『攻撃強化大』水の精霊の恩恵『防御効果大』風の精霊の恩恵『俊敏性強化大』地の精霊の恩恵『魔力強化大』」


 ルカはそれぞれの属性の精霊に働きかけ、アカムにバフをかけた。


「よっしゃぁ! バフもりもりだぜっ! パワーアップ!」


 アカムの体から力が漲っているのを感じた。


 だめだ。あれではいかに剣聖であるリーゼでも些か分が悪い。


「雷殺剣!」


「ちいっ!」


 今度は雷魔法の魔法剣だ。魔法剣の脅威がリーゼを襲う。


「きゃあっ!」


 リーゼは力負けして吹き飛ばされた。


「へへっ! 女の子らしく可愛い声で鳴くじゃねぇか! けどこれで終わりだぜ」


「そこまでにしておけ」


 俺はアカムの前に立つ。


「ん? なんだてめーは」


「気を付けて! お兄ちゃん! そいつちょっと普通じゃない! 精霊が怖がってる!」


 精霊術士であるルカは何かを感じ取っている様子だった。


「お前……お前が噂の暗殺者(アサシン)か。アルベド様を殺ったっていう!?」


「だとしたら? 尻尾を巻いて逃げるか?」


「誰がだ! 身寄りのない俺たち双子を拾ってくれたクレスティア様! いわば俺たちの命の恩人だ! そのクレスティア様の脅威となりうる男! その男をこの俺が先にぶっ殺す! 未然に危機を防ぐ! これ以上の恩返しの機会があるか!」


「そうか……仕方ない。相手になってやろう」


「へっ! 人間のくせにっ! その余裕のある表情が気にいらねぇんだよ! たあっ!」


 アカムは天高く舞った。


「氷殺剣!」


「また魔法剣か」


 今度は氷魔法の魔法剣だ。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 キィン!


「……ちっ!」


 俺はオリハルコンダガーでそれを受け止める。しかし、ダガーが凍り付いてしまった。ものすごい冷気であった。


「ははっ! これでもうダガーが使い物にならないだろ!」


「心配ない。今の俺は二刀流だ。一本のダガーは無事だ。そして一本あれば十分だ」


「……その余裕が気にいらねぇって言ってんだよ! はあっ! 地殺剣!」


 突如、俺の地面に小規模のクエイクが起こった。床が割れる。


「はっはっはっ! 死ねぇ! 暗殺者!」


「向かってこなければ、死ぬ事もなかったというのに」


「な、なに!?」

 

 俺はスキルを発動する。


「絶対即死」


 最凶の刃がアカムを襲う。


「お兄ちゃん! 精霊の身代わり!」


「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 アカムは悲鳴をあげた。宙を舞って地面についた。


「終わったか」


「大丈夫!! ダーリン」


「俺はいい。それよりリーゼだ。アリス。回復魔法をかけてやってくれ」


「大丈夫!! お兄ちゃん」


「あっ……ああ……けどもうHPが1しかねぇ。今度攻撃食らったら死ぬ」


「何? 俺のスキルを食らって生きているだと」


 今までそんな奴はいなかった。


「嘘! ダーリンの攻撃を食らって生きているやつなんて今まで一人としていなかったのに」


「おかしい。スキルは間違いなく発動していた。攻撃を食らう前に何か魔法を使用していたな。一度限りの蘇生魔法か何かか。確かに死んだあとすぐに蘇生させれば矛盾しないな。あるいは代わりとなる何らかの命を捧げたかだ。俺の攻撃をかばったのか」


「へっ。やるじゃねぇか。けどもうこれ以上の交戦はしねぇ。俺はまだ死ぬわけにはいかねぇ。クレスティア様の役にたたねぇと」


「そうか! 逃がすかっ!」


「光の精霊の加護! 目くらまし(フラッシュ)!」


「なっ!」


 強烈な光を精霊が放った。その瞬間にダークエルフの兄妹は逃げたようだ。


「逃げたか。素早いな」


「ダーリン、どうするの?」


「もうこの城にはいない。逃げ足の速い連中だ。捕まえるのは困難だろうな」


「どうするの?」


「クレスティアという四天王と兵士が交戦している事だろう。クレスティアを倒しにいけば必然あいつらは邪魔をしてくる。その時に殺る機会はある。見たところHPを全快まではできないようだ。かろうじて死ぬのを防げるというだけで。対策のしようはあるさ」


「そう……」


「いろいろあったが今日は寝よう。もう今夜これ以上の追撃はこないさ。そんな余力もおそらくは敵にない」


「うん。わかった」


 こうして俺たちは慌ただしい夜を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る