風呂場にて
クレスティアはエレメンタルマスターである。
基本的に使役するのはエレメント(精霊)という事になる。だが、例外があった。
同じくエルフである兄妹を使役していた。ダークエルフの兄妹である。
兄の名はアカムといい、妹の名はルカである。
二人とも精霊魔法を使う。だが、その精霊魔法の使い道が異なっていた。二人の職業は異なっている。兄が前衛の剣士職であり、妹が後衛の魔術師職だ。
「いかがされましたか? クレスティア様」
「始末して欲しい人間がいる」
「始末して欲しい人間? 誰でしょう?」
「大帝国にいるといわれている剣聖リーゼロッテ姫だ」
「リーゼロッテ姫ですか。わかりました」
「かならずや始末して見せましょう」
兄妹は頷いた。
薄暗い洞窟、クレスティアの寝床での出来事であった。
◆◆◆
その日、俺達は王城に泊まる事になった。前衛の兵士のところに行くのは明日だ。だが、状況は良くないらしい。四天王の一角であるクレスティアを相手に兵士達は防戦一方だ。戦線を維持するのが限界で、時間稼ぎ程度しかできないらしい。
他にも幾人か冒険者を雇用したらしいが、当てになるとは帝王も判断していないという事だった。
という事は俺達だけが頼りという事だった。
俺は大浴場で入浴していた。良くない気配がする。何か起きそうだ。四天王に侵略されているこの大帝国は戦地であるといっても過言ではない。
いつ何時、何が起こっても不思議ではない。
――と、その時だった。大浴場の戸がガラガラと開いた。
「全く、マリサか」
俺は条件反射的にマリサか誰かだと思っていた。だが、違ったのだ。
何かが起こるとは思っていたが、そういう方向性では決してない。
大浴場に入ってきたのはリーゼロッテ姫だった。当然のように全裸であった。彫刻のような見事な裸体を惜しげもなく晒している。
「リーゼロッテ姫」
「リーゼとお呼びください」
「はあ……リーゼ。なぜ、大浴場に」
「決まっていますわ。シン様のお背中を流しに来たのです」
「背中くらい自分で流せる」
「流せませんわ。いくらシン様でも手が伸びるわけではありません。必ず、届かないところが存在します。ですから、私が隅々まで洗って差し上げようと」
「はあ……好きにしろ」
「ええ。好きにさせてもらいますわ」
リーゼは笑みを浮かべた。
こうしてリーゼは俺の背中を流し始めた。最初感じたのはスポンジの感触だった。だが、次第にもっと柔らかい感触に変わった。弾力のある感触だ。
「……はぁ……はぁ」
息を切らしている。リーゼは泡立てた胸で俺の背中を洗い始めたのだ。背筋に心地よい感触が走る。
「リーゼ、何をやっている?」
「気持ちよくありませんか?」
「気持ちはいいが、なぜそんな事をする?」
「お父様からこのようにすれば男性は喜ぶといわれまして」
全くあの帝王め。確かに喜びはするだろうが普通の男だが。
「……わかっております。シン様。見てわかります。あの三人の中に心に決めた女性がいらっしゃるのでしょう?」
……いや。そういうわけではないが。俺自身よくわからない。事恋愛関係の問題に対して、対処できるスキルを持ち合わせていないのだ。
「ですが、私はそれで構わないのです。シン様がおそばにおいてくれればそれで」
「本当に傍にいるだけでいいのか?」
「え?」
「傍にいるだけで満足できるわけがないだろう」
守護霊でもあるまし。
「はい。満足はできないと思います。私は大帝国の王女です。ですから強い子をこの身に宿したいと考えています。それでシン様」
「なんだ? 何となく言いたいことが予想がつくが」
「私にお慰みをくださいませんか?」
「お慰み?」
「はい。シン様の子をこの身に宿したいのです」
「妊娠したいって事か。俺の子」
「はい。そうです。その通りです」
「駄目だ」
「なっ、なぜですか? すぐに済む事ではありませんか。無論一度で済むとは限りませんが」
「リーゼは神託により選ばれた勇者パーティーの一人だ。妊娠すると大体10カ月は行動不能になる。旅をするのは困難だ」
「そ、それは確かにそうかもしれないですね」
「俺達は魔王を倒す旅を続けなければならない。その中の一人にリーゼも必要なんだ。だから、今、そういう事をするわけにはいかないんだ」
「で、ではシン様。その魔王を倒す旅が終わったら構わないのですね」
「……ま、まあ。特に否定する要素はなくなるな」
「でしたら、約束してください。魔王を倒した暁なら必ず私と子作りをすると」
「うっ……」
「シン様!」
強い瞳でリーゼは言ってくる。
「あっああーーーーーーーーーーーーーー! やっぱり、リーゼ! いないと思ってたら、ダーリンに抜け駆けしてたのねっ!」
マリサの叫び声が聞こえる。
「やっぱりこうなるんですね」
「これも神の運命です」
その他三人も入浴してきた。何となく慣れてきた。慣れとは恐ろしい。自然な事になっていく。年頃の女性との入浴が本来当然のことのはずがない。
「ねぇ! ダーリン、リーゼと何を話してたの!」
「別に、なんでもない」
「……私がシン様の子を授かりたいとお願いしていたのです」
「ば、馬鹿! 適当に誤魔化そうとしたのに!」
「あっ! ずるーい! マリサもダーリンの精液欲しい!」
精液言うな、生々しい。
「けど駄目だと言われたのです」
「なんで?」
「妊娠すると旅に差し障ると」
「そうね。確かに」
「……というかリーゼは旅をする事を了承したんですか?」
「ええ。構いません。魔王は私達共通の敵でありますから」
リーゼは強い口調で言う。
「ふーん。そっか。じゃあ、話が早くて助かるね」
「それに、さっさと魔王を倒して成し遂げたい事があるのです」
「成し遂げたい事?」
「それは――」
その時だった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
突如城から悲鳴が響き渡ってきた。
「な、なになに!」
「一体何なの!?」
「いいからとにかく風呂からあがるぞ」
「うん」
俺達は風呂をあがった。急いで声がする方に駆けつける。
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