新たに現れる恋敵

「それで待遇の相談にはなるが」


 帝王は俺たちに告げる。


「一人当たり金貨50枚。それでもし敵将――魔王軍四天王の一人を討ち取った場合、さらに50枚を出す。これでどうだ?」


「まあ! じゃあ金貨400枚もくれるんですか!?」

 

 マリサは目を輝かせる。


「おいおい。それは倒したらのはずだぜ。もう倒したつもりかよ。すげー自信だな」


「だって、マリサ達にはダーリンがいるんだもん。ダーリンが負けるはずがないんだもん」


「やめろマリサ。だきついてくるな。帝王の御前だぞ」


「はーい!」


「それでシンの旦那。周りの女とはどういう関係なんだ?」


「どういう関係? 仲間ですけど」


「それはパーティーとしてだろう。男女の関係としてどうなってるんだ? 恋人か? はたまた性奴隷のようにして、ハーレム築いているって事なのか?」


「俺と彼女達はそんな関係ではありません」


「そうか。別にシンの旦那がハーレム築いていようがいまいが。むしろ築いていた方が話が早くて助かった。英雄色を好む。俺もしょっちゅう浮気をしまくってきて女房に逃げられた口だ。強い男っていうのはそれだけ女を惹きつけるからな」


「何を言いたいんですか?」


「シンの旦那。あんたに頼みがあるんだ」


「頼みですか? 今回の魔王軍との抗争とは関係なく?」


「ああ。無関係の頼みだ」


「なんでしょうか? 聞いてみないことにはわかりません」


「頼む! 一生の頼みだ! リーゼを貰ってくれ!」


「……はい? 貰うとは」


「決まってるだろ! 嫁だよ嫁! リーゼを嫁に貰ってくれって言ってるんだよ!」


「「「嫁!」」」


 まあ、何となく話の流れ的にそうなりそうな気はしていた。何となく。そういう流れだとは思っていた。


「なぜそうなるのですか? 俺は王族でもなんでもない。ただの冒険者ですよ」


「決まってるだろ。あんたが強ええからだよ。リーゼの旦那は弱い家柄だけの王族じゃなくて、強い男にしたいって前々から思っていたんだ」


「ですが、娘さんの気持ちはどうなっているのですか? 勝負に負けたというだけで親の言いなりになるというのは些か彼女の気持ちを軽視していると思います」


「リーゼは俺の娘だ。俺たちはよく似ている。血筋だからな。本人に聞いてみるのがいいだろう? リーゼ。シンの旦那の事、どう思っているんだ?」


「……はい」


 先ほどから黙っていたリーゼが口を開く。頬が赤い。風邪でもひいているかのようだ。


「私はシン様の事をお慕い申し上げております。シン様さえ、よろしければお傍に置いて欲しく思います」


「ま、待て! なんでそうなる! 俺たちはさっき一回闘っただけだろう!」


「一回で十分であります! シン様はとてもお強いお方だと! 私はかねてより自分より強い男性と結ばれたいと思っていたのです。そして私が初めて敗北を喫した男性と生涯を添い遂げると」


 リーゼの目は星のように輝いていた。


「がっはっはっは! だそうだ。俺たちは親子だもので。気持ちはよくわかるんだ」


「はい。お父様」


「リーゼ……君はそれでいいのか?」


「はい。シン様? ご迷惑でしょうか? お傍に置いていただくだけで構わないのです。最悪、体の関係だけで構いません。私は強いお方の子を産みたいのです。たまに抱いてくれるだけで構いません」


「……どういう事なの?」


「新たな恋のライバル出現って感じ」


「私達の恋模様は前途多難だと神はおっしゃっております」


「だめよ! ダーリンはマリサのダーリンだから!」


「はい。ですから私は二番目、三番目でも構いません。極まれに気が向いた時にだけ愛を注いでくれればいいのです」


「うーん。マリサが正妻ならいっか! 許す!」


「ありがとうございます」


「いいわけあるか!」


 俺は叫んだ。




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