資金稼ぎのため、クエストへ

事の発端はそうだった。マリサだった。マリサが装備を新調したいと言い始めたのだ。


「装備を新調したい?」


「そうそう。マリサ達、ずっと初期装備のままでしょ。せっかくジョブチェン(ジョブチェンジの略)したんだから、ぱーっと装備も変えたいと思って」


「はぁ……」


「ねぇ。ダーリンもそう思うでしょ?」


「しかし。俺達は転職導師に結構金をとられて、あまり金がないぞ。このままではまともな装備を買えない」


「そこはそう、増やせばいいじゃない」


「増やす?」


 マリサはにやりと笑った。この近くにはマオカというギャンブルで有名な国があるらしいのだ。


 以上が事の始まりである。


◆◆◆◆◆


 俺達は大きな人だかりができている施設にいた。目の前には競争をしている馬が数十頭いた。

 客層のガラは良くない。アルコール依存者のブルーワーカーが多い。中にはまともな人もいるだろう。一概に判断するのはよくないのはわかっている。


 マリサは馬券を握りしめていた。


「2-1! 2-1! 2-1に全額ぶっこんでるのよ! お願いだから来て!」


 マリサの目は血走っていた。こいつ、博打癖があるのか。ギャンブル依存症の気があるかもしれない。


しかし運命は非情だった。マリサの願いも空しく、3ー1で決着した。


「あっ、ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 マリサの溜息が響く。


「くそっ! 外れたっ!」


「つ、次だっ! 次で取り返してやるぞっ!」


 他のギャンブラーたちも血走った目で新聞に目を通す。次のレースの予想をしているようだった。


「……勇者パーティーが博打ですか」


 ユフィは嘆いた。


「け、けど! よくある展開じゃない! ここのカジノ、すっごい豪華な景品があって、すっごい装備も手に入るんだって!」


「……うまく勝てればいいですが、実際マリサは負け続けではないですか。大分お金を減らしましたよ」


「ぐっ! それを言われると見も蓋もない! 次! 次はカジノで逆転するからっ!」


「結末が予想できている気がする」


「ええ……」

 

 マリサに率いられ、俺達はカジノに向かった。


 ◆◆◆


「く、黒! 黒! 今日黒が来ている気がする!」


 マリサが選んだのはルーレットだった。黒に換金したチップを全額賭ける。


 しかし無情にもボールは赤。ルージュの方に止まる。


「あっ、ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 マリサはうなだれた。


「だ、ダーリン! おかわり! おかわりさせて!」


「もう無理だ。さっきのベッドで俺達は無一文だ」


「む、無一文! も、もうギャンブルできないって事!?」


「お前もう、金を増やしたり装備を新調する事じゃなくて、ギャンブルする事が目的になってないか?」


「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! もしかしてダーリン、マリサを博打癖のある難のある女だと思ってる? い、いやっ! ダーリン! マリサとの婚約を見直さないで!」


「いつマリサとシンが婚約したのでしょうか?」


「その点は放っておく。それより、もう金がないんだ。行くぞ」


「い、いやああああああああああああああああああああああ! もっとギャンブルしたいのおおおおおおおおおおおおお!」


 駄々を捏ねるマリサを引きずって、俺達はカジノを後にする。


「お兄さん、お姉さん、カジノ負けたアルね」


 怪しげなサングラスをした男が現れた。


「良かったらワタシ、お金貸すアルよ!」


「本当! 貸して! 貸して!」


 マリサの目が輝いた。恐らくはこういったギャンブル依存者に目をつけた闇商人だろう。ギャンブルの国であるが故に、そこに目をつけた商売人も多いのだ。


「金利はいくらだ?」


「無金利アルよ」


「無金利だって! ダーリン! 借りよう! 借りよう!」


「馬鹿。よく考えろ。契約書を見せろ」


「くっ……」


 闇商品は契約書を見せた。


「ほら! ここの文字! 小さな文字で遅延した場合の延滞利子が月30%と書いてある。膨大な利子だ。どうせギャンブルで負けて返せないから延滞利子を払うハメになる。そういう計算だ!」


「でもギャンブルで負けたらお金なくなっちゃうじゃない。どうやって返済するの?」


「もうひとつ小さく書いてある。返済のため仕事への斡旋をする。その場合の拒否権は認められない。ボカしているが女だったら風俗か何か、男だったら内臓を売らされるかするんだろう」


「ひええええええええ! あんた、マリサをハメようとしたのねっ」


「くっ。バレたらしょうがないアル。カモは他にいるアル。次行くアル」


 闇商人は次のカモを探しにいった。


「仕方がない。旅の為に金が必要だ。冒険者としてクエストに出よう」


 俺達は冒険者ギルドへ行った。


 ◆◆◆◆◆


「いらっしゃいませー。マオカの冒険者ギルドへようこそ」


「クエストを受注したい」


「はい。どんなクエストでしょうか」


「手軽にお金になるおいしいクエストをお願い」


「資金稼ぎクエストですね。わかりました。こちらなんてどうでしょう?」


「ゴールデンキングスライムの討伐クエスト?」


「はい。ゴールデンキングスライムは非常に高価で取引されるモンスターです。なにせその身体は純金で出来ておりますので。定番の資金稼ぎクエストになります」


「ダーリン、やろうやろう!」


「はい。ただ、ゴールデンキングスライムは非常に硬質なため、ダメージが通らないモンスターだとされています。その難度はSランク相当になります。こちらのクエスト、お受けになりますか?」


「はい! やります!」

 

 マリサは即答した。


「マリサ……お前、賭けたくてどうしようもなくなってるだろう? 金が欲しくて」


「ギ、ギクッ! や、やだなぁ、ダーリン。そんな事ないよ! マリサはパーティーの金銭事情を心配してお金欲しいなー、って思っただけで」


「そもそも金銭的に困難な状況になったのは誰のせいだと思っているのでしょう?」


「おおっ。神よ。この哀れな魔導士。マリサを救いたまえ」


「アリスさんキャラ変わりましたね」


「ええ。神官職にジョブチェンジしましたので」


 俺達はクエストに向かう。資金稼ぎクエスト。ゴールデンキングスライムの討伐クエストへ向かう。





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