アークデーモンの襲撃

俺達は宿屋に宿泊していた。


「……マリサか」


 気配ですぐにわかった。


「凄い。ダーリン。もうダーリンは暗殺者じゃないのに」


「わかりやすいんだよ。お前の気配と行動は。何をしにきた?」


「決まってるじゃない」


 部屋に忍び込んできたマリサは俺に跨ってきた。サキュバスの衣装を着たマリサは確かに色っぽい。なぜだろうか。スモウレスラーの衣装の方が露出は高かったのに。

 

 不思議なものだ。人間というものは。必ずしも露出が高い=エロい。性的というわけではない。ただの全裸より、僅かな胸の谷間の方が性的に感じる事もある。


「マリサは今はサキュバスなの。もう我慢できないのよ。ダーリンの精液が欲しいの」


「何を言っている! サキュバスになる前からマリサ! お前はそんな感じだっただろうが!」


「うっ! ううっ! 身も蓋もないっ!」


「……だめだ。俺は寝るんだ」


「だめよっ。ダーリン、今夜は寝かさないわ」


 マリサが迫ってくる。唇が俺に接触しそうになる程近づいてくる。


 まずい。このままでは。


 ――と、そんな時だった。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「ま、魔王軍だ! きっと魔王軍のモンスターだ!」


 突如悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ? 魔王軍? モンスターか」


「い、行きましょう、ダーリン」


「ああ」


 俺達は屋外へ出ていった。ユフィとアリスの姿もあった。


 その時、俺達の目の前を闊歩する巨人のような存在があった。悪魔だ。恐らくは魔王軍の保有するモンスター。デーモンの中でも一際巨大な危険種だ。


「Sランクモンスター。アークデーモン」


「……ど、どうするのよダーリン! サキュバスになったマリサの攻撃じゃアークデーモンなんて魅了できないわよ」


「私のアイドルスキルも、あいつ相手じゃ」


「踊り子の私のバフは味方にしか効かない。あいつに通じるかどうか」


「なんだ! このパーティーは! アイドル! 踊り子! サキュバス! 回復術士! なんでこんな色物職業ばかりを選んだんだ!」


 俺は嘆いた。


「くそっ! 暗殺者から転職をしたから絶対即死スキルが使えない」


 ――その時だった。


「お母さん!」


「だ、大丈夫よ! 慌てないで」


「なっ!?」


 その時俺は、回復術士として治療した少女、その母親の姿を見た。癒す事は確かに立派な事だ。だが、その時に俺は気づいた。


 何かを殺す事。その事が必ずしも誰かを傷つける事にはならない。殺人は絶対悪ではない。時と場合によってはそれで救われる命もある。


 力がなければ決して守れない。刃は時と場合によっては人を傷つける。だが、人を守る事だってできる。


 俺はその事に気づかされた。


「倒すぞ! あのアークデーモンを!」


 絶対即死がなくても、必ず。


「俺達の力でこの村を守るんだ!」


「「「はい!」」」


 俺達は戦地へ向かう。


「回復術士に攻撃に使えるスキルはあるのか? 回復に特化したジョブだぞ」


「知ってる? ダーリン? 薬もあげすぎると毒になるんだって。植物だって肥料を与えすぎると腐るじゃない?」


「薬もあげすぎると毒? そうか」


 俺は思いついた。手にありったけの回復魔法を込める。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺はアークデーモンを殴る。細胞を異常促進させる。その結果、アークデーモンの身体は腐り落ちた。


「いける! 回復術士でも戦える!」


「流石ダーリン!」


「フレーフレー! シン!」


 アリスは踊り始めた。踊りの効果で俺の攻撃力と俊敏性は大幅にあがった。


「覚えていますか? 手と手が触れあった時――」


 アイドルのユフィは歌い始めた。何の歌かはわからない。だが、バフにより俺のステータスが大幅に向上した。


「食らえ! 百裂回復拳! たああああああああああああああああああああ!」


 俺は回復拳で殴り倒した。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 アークデーモンは崩れ落ちる。そして果てた。


「はぁ……なかなかに手こずったな」


 俺は溜息を吐く。いつもワンパンで倒していた相手にこうまで手間を取られるとは。


「……ん?」


「ありがとうございます。あなたのおかげで私達の命、いえ、村の皆の命が救われました」


「お兄ちゃん! ありがとう! お兄ちゃんはこの村の英雄だよ!」


 昨日会った親子が俺に礼を言っていた。


「いえ。礼を言いたいのはこちらの方です。俺は自分の存在意義に気づいた。転職して気づいたんです。俺のやってきた事には意味があったのだと。外からしか見えないものもある。そう気づかされたんです」


「「?」」


 親子はきょとんとしていた。意味の分からない話だったろう。まあいい。これは独り言に近いものだ。


「ダーリン!」


「戻ろう。ドゥーマ神殿に」


「……え?」


「俺のやるべき職業は回復術士ではない。暗殺者だ。そう気づかされたんだ」


「……わ、私もサキュバス向いてないかなって思った。だってダーリン以外の人でも誘惑するようになったら嫌だもん」


「私もやはりアイドルではなく、勇者でいたいです。世界を救うのは勇者でないと。アイドルが救うなんて変です」


「私も、もう少し露出の少ない衣装がいいです。周りの人の視線が気になります」


 皆、それぞれ今の職業に不満があったようだ。こうして俺達はドゥーマ神殿に戻った。


 ◆◆◆


「おやおや。お前達はさっきの」


「転職導師のお婆さん、俺達を転職させてください」


「はいさ。何の職業に。何となくお前さんたちがここに来るのは早そうだと思ってたんだ」


「俺は元の暗殺者に転職させてください」


「元の職業でいいのかい? 上位職なんていうのもあるよ」


「上位職?」


「真・暗殺者(アサシン・クリード)なんていう職業があるんだよ」


「アサシン・クリード。なんて良い響きだ。それに転職させてください」


「はいさ。それで、残りはどうするんだい? どうせ他も転職したいんだろう?」


「私もやっぱり魔法職がいい!」


「それだったら、大魔導士(ウォーロック)なんかおすすめだよ」


「じゃあそれで!」


「私は勇者がいいです」


「勇者も上位職があるのは知っているかい?」


「え? あるんですか?」


「ああ。大勇者という職業だ。今までは覚えられなかった必殺スキルを覚えれるようになるよ」


「じゃあ、それでお願いします」


「それでそっちの娘は」


「私はもっと露出の少ない、それでいて皆の役に立てる支援系の職業がいいです」


「だったら普通に神官系でいいんじゃないかい? 大神官なんかおすすめだよ。癒しと守りの魔法に特化したジョブだ」


「そ、それでお願いします」


「ほいさ。それじゃ、皆決まったね! そおおおおおおおおおおおおおおおおおれ! 転職魔法ーーーーーーーーーー! ほわああああああああああああああ!」


 俺達は転職導師に魔法をかけられ、転職した。衣装も変わる。俺は暗殺者っぽい恰好。だが、前よりも若干かっこよくなっている。そしてマリサとユフィもだ。なんだかそれっぽくなっている。大きく変わったのがアリスだ。スタッフに司祭服。アリスは神官になったようだ。


「悪いな。アリス。本来ならお前は神託に選ばれたんだ。本来ならば暗殺者としての役割はお前に譲るべきだった」


「ううん。いいの。そのジョブはシンの為にあるジョブだと思うから。私はシンの、ついでに皆の役に立てればいいの」


「それではありがとうございます! 転職導師さん!」


「ちょっと! お代を忘れんといてくれ! 上位職は一回金貨10枚! 普通の転職は5枚。合計35枚だよ」


「そうですか。ありがとうございます」


「いえいえ。まいど、まいど。またごひいきに」


 こうして俺達は王国ケセウスを救った報奨金を大分減らしたのであった。こうして無事転職を終えた俺達は魔王討伐の為、次なる目的地へと向かったのである。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る