回復術士としての再出発
俺は暗殺者である事を捨てた。これからはヒーラーとして生きる。そう、人の役に立てる、人を救えるような仕事をしたい。常々、そう思っていたのだ。
他のパーティーメンバーは、踊り子のアリス。サキュバスのマリサ。アイドルのユフィ。
「なんだこのパーティーは、カオスだな」
「そこ突っ込まないでよ。虚しくなるから」
「とても魔王を倒しに行く勇者パーティーとは思えん」
「てか私もう転職したから勇者じゃないし。だってアイドルだもん!」
ユフィは目を輝かせていた。
「……そうか」
そんな時だった。俺達の前にモンスターが現れた。獣人型のモンスターだ。オオカミ男。ウルフマンだ。それが数体現れた。
「俺はもうヒーラーだ。攻撃用スキルを保有していない」
「私ももう解析魔法使えないから」
「ともかくやるぞ! いけ! マリサ! 新しいお前の力を見せろ!」
「はーい! ダーリン! ちゅっ!」
マリサは投げキッスをした。ハートマークが飛んでく。
ほわほわほわーん。ウルフマンの顔が急にとろけた。恋に落ちたようだ。ウルフマンАは骨抜きにされた。
「サキュバスの投げキスには魅了効果があるようだ」
ガウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
ウルフマンBは吠え始めた。
「皆! 抱きしめて!」
ユフィはマイクを片手に歌い始めた。
「異世界の果てまで!」
歌って踊り始めた。
「「「「フゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
「……なんだ?」
小太りの中年男性が数人やってきた。
「誰ですか? あなた達は?」
「私達はアイドルユフィたんのファンクラブです!」
「そう、そして親衛隊でもあるのです!」
「ユフィたんを神のように崇め奉る! 忠実な下僕であります!」
「何を言っているんだ。要するに何なのだ?」
「アイドルは召喚士みたいにモンスターを召喚するらしいの。転職導師さんが言ってたわ。ダーリン」
「そうか。つまり、彼等は召喚獣か」
「なんですか! このオオカミ男は!」
「僕ちんたちのアイドル! ユフィたんのワンマンライブを邪魔にするつもりか!」
「もう! 許さないぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ユフィのライブを邪魔にされた怒りから召喚獣のおじさん達は怒り出した。
「アリス。踊り子の踊りで彼等をサポートしてやれ」
「はい」
アリスは踊りを踊った。この踊りは。『攻撃強化の踊り』味方の攻撃力が中程度アップする。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 力がみなぎってきましたぞおおおおおおおおおおお!」
「僕たちのユフィたんを守るんだあああああああああああああああああああああ!」
「やっちまえええええええええええええええええええええええええええええええ!」
召喚獣のおっさんたちは複数人でウルフマンBをボコボコにしていった。
「ひ、ひいっ!」
ウルフマンCは恐れおののいた。
タッタッタッタッタ。
逃亡していった。
「やったな……俺達の勝利だ」
俺は喜んだ。
「皆、怪我はないな。良かった。怪我をしたら遠慮なく言ってくれ」
「うん。ダーリン」
「それじゃあ、とりあえずは今日ももう遅い。近くの村で一泊しよう」
「うん」
「それにしても、今までよりずっと戦闘にバリエーションがあったな。これが転職の効果か」
「確かにバリエーションはあったね……」
「あのおじさん達どこへ行ったんだろう?」
「召喚獣みたいなものだから、無に還ったんじゃない?」
「そっか」
俺達は村についた。
「こら! 待ちなさい! 走っちゃだめよ!」
「やだよーーーーーーーーーーーーだ!」
何気ない日常での事だった。母親と女の子。女の子は駆け回っていた。
「あっ!」
――と。女の子は石に躓いた。ドテン! 盛大にコケる。
「もう、だからいったじゃない」
「び、びええええええええええええええええええええええええええええええええん!」
膝を擦りむいたようだ。盛大に涙を流していた。
「ほら、言ったじゃないの」
「失礼。お母さま」
「え?」
「俺に任せてください」
ヒーラーになった俺は女の子に回復魔法を使う。ヒーリング。初級の回復魔法。だが擦り傷程度ならこれで十分だ。
みるみると治っていく。女の子の顔が笑顔になっていった。泣き顔が晴れた。
「お兄ちゃん! ありがとう!」
「ああ。どういたしまして。気をつけるんだぞ。次は転ばないように」
「うん!」
「ありがとうございます」
親子は去っていった。
「良い事をしたから気持ちがいいな」
些細な事かもしれない。だが、俺が何かを殺す以外で役に立てたのは人生で生まれて初めてかもしれない。微かな事だが、それでも十分な充実感を俺は覚えていた。
「今日は食事の後に宿に泊まろう」
俺達は宿に泊まる。しかし俺はその時、村がとんでもない危機に見舞われる事になるとは思っても見なかったのである。そして、俺が転職した事が思っても見ない危機を招くとはこの時はまだ知らなかった。
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