魔王城での出来後

魔王城。それは魔界の奥深くにある城であった。


ヴェールに包まれた不気味な男。魔王の眼下には四人の強者たちがいた。


彼等は魔王の四天王である。


「世界の征服計画の進捗を聞かせよ」


「はっ。征服は順調であります」


 一人の男が答える。


「そうか。それは何よりだ」


「ですが魔王様。ひとつだけ懸念要素があります」


「懸念要素?」


「勇者ユフィの存在です。勇者ユフィは仲間を増やし、今も勢力を増やしているとの事です。その刃はいずれ、魔王様の元へ届くやもしれませぬ」


「クックックっクック! アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハ!」


 魔王の哄笑が響き渡る。


「勇者? 仲間? 所詮は数人の事であろう! 魔界全土を支配し、全世界の征服を企んでいる魔王が高々数人の、しかも人間を恐れるだと! 片腹痛いわ!」


「申し訳ございません。出過ぎた進言。愚かな発言をお許しください」


「よい。許そう。して、世界の征服計画はどうなっている?」


「はっ。次の手ではありますが」


 一人の男が前に出る。ローブを着た不気味な男。


「アルベドか」


 男の名はアルベド。男と言って良いのかはわからない。魔王の四天王の一角であるアルベドは人間ではなかった。生物とすらいえない。骨で出来た身体はスケルトンのようだ。だがスケルトンよりは上級のモンスターである。彼はリッチだった。

 そう、不死者(アンデッド)なのである。


「魔王様。次の侵略計画は人間の王国を襲う予定です。ケセウスという国。アンデッドの大軍で攻め入り、支配します」


「そうか。存分にやれ」


「はっ。早速向かわせて頂く次第です」


 魔王の四天王の一人であるアルベドが率いる不死者の大軍はケセウスへ向かって進軍していった。


◆◆◆


 覚えているだろうか? この男を。


「酒だ! 酒もってこい!」


 カインという王子である。暗殺者シンを追放した男を。


「まあいいや。零れたコップは元には戻らないという。だけどなんだ。いくら強いって言っても暗殺者一人クビにしただけじゃないか! 我が王国は万全だ! こうして私は昼間から酒を飲める! そして!」


「きゃ! やだもうっ! 王子ったら!」


「もう、王子ったらスケベなんだから」


 カインは女を何人も侍らせていた。


「こうやって良い女を侍らせ、好き放題にできるんだからな! いやいや! ここはこの世の楽園だ! 王子に生まれて本当によかった! いやぁ! きっとこんな幸せな毎日が今後永遠のように続くんだろうな」


 今まで続いてきたんだ。だからあんな暗殺者一人いなかったとしても別に構わない。


幸せな時間は今後一生続くのだから。王子はそう信じて疑っていなかった。


「王子!」


 そんな時だった。一人の兵士が駆け込んでくる。


「なんだっ! 見てわからないのか! 私は今、お楽しみ中であるぞ!」


「それが王子! 緊急事態なのです! 大変なことが!」


「なんだ? 申してみろ」


「アンデッドが! アンデッドの大軍がこの王国に攻め入ってきているのです!」


「なっ、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 カイン王子の悲鳴は城中に轟く程であった。

 

 幸せな日常はある日、ある時、一瞬にして崩れ去ってしまうものであった。



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