国王マジックとの一騎打ち

闘技場で俺達は対峙する。目の前にいるのは魔道国の国王であるマジック・マギカだ。マリサの父親だ。


「ダーリン! 頑張ってーーーーーー! 私達の愛を勝ち取る為にーーーーーー!」


 マリサは黄色い声をあげてくる。


「なんか、この娘(こ)を見ているとすんごいむかつきますね……」


 ユフィは頬をピクピクさせる。


「降参します」


 俺は宣言する。そもそもなぜ俺が闘わなければならないのか。それが疑問だった。この闘いは無益だ。相手は人間だ。モンスターではない。話の通じる相手だ。


「ええええええええええええええ! 早いーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 マリサは嘆いた。


「ふざけるなっ! そんな根性でどうするっ! 本当に好きなら、父親でもなぎ倒してもぎ取っていくもんだろう!」


 マジックは怒鳴った。


「えっ……でも」


「マリサに何か不満があるというのか! 私の自慢の娘だっ! 貴様! まさかマリサの恋人でありながら、他の女に浮気をするつもりではないだろうなっ!」


 この人は面倒くさそうだ。色々否定すると余計にこじれる事だろう。俺は溜息をついた。さくっと終わらせるか。とはいえ、人間相手だ。ましてやマリサの父親だし、殺すわけにもいかないだろう。


「では、開始の合図をしてくれ。マリサ」


「はーい! よーい! ドーン!」


 ドーーーーーーーーーーーーン!


 マリサは魔法を発動させる。爆裂魔法の一種だろう。空中で大爆発が起こる。


「はああああああああああああ! 絶対凍結地獄(コキュートス)!」


 マジックは魔法を唱えた。いきなり唱えられたのは氷系最上位魔法である絶対凍結地獄(コキュートス)だ。


「きゃあああああああああああああ! 危ないっ! ダーーーーーーリン避けてっ!」


「うざいですね。この娘は」


 ユフィはピクピクとしていた。


 言われなくも避けるに決まっているだろう。俺は迫り来る冷気を避けた。


「ふっ。やるなっ!はああああああああああああ! 次はこいつだ! 召喚魔法! 火竜(レッドドラゴン)!」


 魔法陣が展開される。


「なっ!?」


「さあ! この困難に打ち勝ち! そして娘との愛を勝ち取るのだ!」


 愛はさておき。俺の目の前に現れたのは巨大な火竜であった。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 火竜は叫ぶ。


「いけ! 火竜(レッドドラゴン)! ドラゴンブレスだ!」


 放たれたのは炎のブレスであった。強烈なブレスが俺に襲いかかってくる。


「はっははははははははははははははは! どうだっ! ひとたまりもあるまいっ! んっ!」


 俺は天高く飛んでいた。そして降り際に火竜に襲いかかる。スキル発動「絶対即死」。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 火竜は一撃の元に絶命した。


「ば、馬鹿なっ! そんな! 火竜(レッドドラゴン)が一撃でっ!」


「きゃあああああああああああああああああああああああ! ダーリン、すごーーーーーーーーーーーーーーい!」


 マリサは夢中で叫ぶ。


 俺は一瞬にしてマジックとの距離を詰め、首筋にダガーを当てる。


「詰みです。魔道国国王マジック様」


「……み、見事だったよ。君の力、しかと見せて貰った」


「いえ。国王様も見事な魔法でした」


「そうだったか。だが完敗だ。認めなければならない。君の実力を。そして、マリサとの関係をだ」


「……パ、パパ」


「あんなに小さかったマリサもついに嫁入りか。ついにどこかの男のものになるのか。私は寂しいよ。うわあああああああああああああああああ!」


 大の大人が。中年が大泣きを始めた。


「パパ、結婚してもマリサはパパの子供よ! 別にちゃんと会えるわよ」


「うっ……ぐすっ。そうかっ。パパはマリサがいなくなるんじゃないかと寂しくて、寂しくて。ぐすっ」


「そうよ。パパ。マリサはパパの娘に生まれてきて良かったと思っているわ」


「ぐすっ。ぐすっ。シン君……マリサの事をよろしくなっ」


 こうまで話が進んで、実は付き合っているという認識すらありませんと言ったらどうなるか。

 

 また無用な争いを生むであろう。黙っているのが得策か。


「ええ。はい、まあ……」


 魔道国国王マジックとの一戦には決着がついた。しかし、マリサとの関係性というものは一段とややこしくなっていた、そんな気しかしない。


 上手く距離を取る方法を考えよう。俺達はまだお互いの事をあまりにも知らなすぎる。真実の俺を知っていく事で、マリサは自然と嫌いになるかもしれない。距離を置くかもしれない。


 俺は白馬の王子様などではない。もっと血に塗れた醜い存在なのだ。


 その結果として、パーティーが上手く機能しなくなってもそれはそれで仕方ない。集団の中で軋轢は当然のように生まれるからだ。


 だが、ひとまず今日のところはこれで終了だった。その日もまた終わろうとしている。

 俺達は王城に宿泊する事となったのだ。

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