ユフィの正体

「王子!」


「なんだ?」


 使用人が駆け込んでくる。何でも受け持つ雑用係だ。


「シン・ヒョウガの素性について調べてきました」


「ご苦労であった。聞かせろ」


「はっ。シン・ヒョウガは両親についての情報はありませんでしたが、恐らくは孤児だったと思われます」


「それで? 続けろ」


「その後、暗殺者を育成機関で暗殺者としての訓練を受けます。15歳で実際に暗殺者を始め、その後3年間実際に暗殺者として働いていたそうです」


「どの程度、奴はできたのだ?」


「非常に優秀な成績だったと聞いております」


「優秀だったか。だが、私の見たてに間違いなどあるはずがない! なぜならSランクのモンスターを一瞬で倒せる人間などこの世に存在するはずがない! そうに決まっている!」


 王子は意固地になっていた。


「私が間違っているはずがないのだ! 絶対にない!」


「はぁ……」


「シン・ヒョウガを探し出せ! 何としてもだ!」


「探し出してどうするのです?」


「私の正しさを証明するのだよ!」


 王子は躍起になっていった。


 ◆◆◆


「これからどうするつもりなんだ?」


「神託により選ばれた他のパーティーメンバーを探すつもりよ」


「そうか・・・・・・その神託で選ばれた奴は何人いるんだ?」


「わかんない。詳しくは知らないの。数人はいるかもしれない」

 

 そんな事をしているうちだった。


「姫様」


「ん?」


「やっと見つけました」


「え?」


 一人の少年が傅く。美少年だった。執事のような恰好をしている。


「ロイ……」


 ユフィは呟く。


「知り合いか?」


「う、うん。ちょっとしたね」


「お戯れはおやめください。姫様。あなたは王国アルドノアの王女ではありませぬか。王族の血を引き継ぎ、国を守っていく事こそ使命。神託で選ばれたからと言って、危険な勇者の真似事をしている場合ではありません」


「戯れなんかではないわ! 私は使命を持って勇者になったの。世界の混乱を鎮めなければ、国の未来なんてそもそもないわ」


「ですが危険であります。あなた様の身に何かありましたら、国王様も悲しまれます」


「わ、私も子供じゃない」


「ですが女性ではあります。女性の一人旅は何かと危険であります……なんですか? 隣の黒い男は」


 黒い男。当然俺の事である。


「私のパーティーメンバーよ」


「危険であります! 姫様! 男など獣であります! いつ襲いかかってくるかもわかりません!」


「何を言っているのよ。シンはそういう人じゃないわ。前にお風呂場に入ってきた事があったけど、それは理由があっての事だし」


「お風呂場に! 覗くだけでは飽き足らず、強引に事を成そうとしたのですか!」


「違うわ! そうじゃないの! 私が嫌いな虫がいたから悲鳴をあげて、それで彼が勘違いをしたのよ」


「何にせよ危険であります! 今は体裁を取り繕っているかもしれませんが、いつ本性を現すかわかりません。男は男であります故に」


「ともかく、私はもう王国には戻るつもりはないの! 勇者として魔王を倒すまでは。世界に平和を齎すまでは王国には帰るつもりはない!」


「それは困ります姫様! 国王は大国との王子との縁談を持ってきているのです!」


「縁談? なによ! 私そんなの聞いていないわ!」


「ええ。だからこうしてそのお話を伝える為、姫様を探し回っていたのです」


「いやよ!」


「姫様がお帰りになるまで、私は断固として離れませぬ」


 ロイという執事少年は意固地になっていた。


「どうするんだ? ユフィ」


「貴様! 姫様になんという口の利き方だ! かしずけ黒づくめの根暗め!」


「いいからロイ。黙っていなさい」


「というよりはユフィって王女様だったんだな」


「黙っていてごめんなさい。それが理由で変に距離を置かれたくなかったの」


「いやいい。仲間だからと言って話したくない過去のひとつやふたつはある。それを言わせて貰えば、俺だって話していない過去なんていくらでもある」


 仲間だからといって無条件で信用しなければない。全てを包み隠さず話さなければならない。そんな決まりはないと俺は考えている。

 相手を想っているからこそ嘘をつく。隠そうとする。そういう事も世の中には存在する。真実を伝える事が、全て相手の為になるとは俺は考えない。


「そうね。それもその通りね」


「だが、こいつはどうする? 厄介だぞ」


 絶対に離れないと言っている。今後旅をしていく上で良い迷惑だ。かといってユフィの知り合いだ。殺すわけにもいかない。


「とりあえずは一旦王国に戻るわ。そしてお父様に説明をするの」


「そうだな。その方が良い」


 とはいえこの手の人間が説得に大人しく応じるとも思えない。


「いいわ。ロイ。一旦、王国に帰る」


「本当ですか!? 姫様!」


「だけど勘違いしないで。私は勇者としての旅を諦めたわけでもないし。結婚するつもりもないんだから」


「それはお父様に言ってくださいませ。私はただ姫様を探しだし、連れて行くように言われているだけです」


 こうして俺とユフィは王国アルドノアに向かう事になる。

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