村人たちに英雄として歓迎される

 近くの村を訪れた。ここに先ほどの村娘がいるはずだ。



「……よくぞ来てくださいました。旅人のお二人。私が村長です。そして娘になります」


「娘のメアリーです。この度は私の命を助けてくださり誠にありがとうございました」


 礼儀正しく頭を下げる。村娘はメアリーという名らしい。


「村長さんの娘さんだったのですか」


「はい。私の父は村長をしております」



「何もない村ですが、ゆっくりしていってください。もうすぐ夜になります。どちらにせよどこかに泊まらくてならないならないでしょう。お二人は恋人ですか?」



「え?」


 ユフィは固まった。そして顔を赤らめた。


「い、今はそうじゃないです」


『今は』なんだそれは。将来はわからないという事か。確かに将来は誰にもわからない。無論俺にもだ。そういう不確定要素の話を彼女はしているだけだろう。


「そうですか。でしたら一つ屋根の下というわけにもいかないでしょうか?」


「いえ。彼は仲間です。仲間を信頼しています。パーティーには信頼関係が必要不可欠です。私は彼の事を信頼しているのです」


「ユフィさん、俺と君はさっき仲間になったばかりです。最近知り合ったばかりの男をそんなに信用するもんじゃない」


「あなたの言う事はわかるけど、そうなると泊めてくれる家をもう一軒探さなきゃよ。多分村長さんは自分達の家に泊めようとしているの。小さな村だから宿屋なんてものもないわ」


「そうですか。ユフィさん。あなたがリーダーです。俺は従うだけです」


「ユフィって呼んで。仲間なんだから。私もシンって呼ぶから」


「そうですか。わかりました、ユフィ」


「その堅苦しい言葉使いやめて。もっとフランクでいい」


「そうか。わかったよ。ユフィ」


「そうそう。それでいいの」


「私の家は村では一番大きくて部屋も余っているのです。是非そちらに泊まって行って欲しいと思っております」


「はい。それで構いません」


「では。娘を救ってくれて、そしてミノタウロスキングの窮地から村を救ってくれた英雄達のご来客を村人全員が歓迎してくれていますぞ」


 牛一匹殺したくらいで随分と喜んでいるな。


「さあ。こちらへどうぞ」



 俺達は村の中に入る。メアリーが話を通してくれていたのだろう。


「あの人達が村を救ってくれた英雄だ」


「マジか。あのミノタウロスキングを一撃倒したらしいぜ!」


「す、すげぇ!」


 村人達が歓喜の声をあげる。


「皆私達の事を見てるわね」


 恥ずかしそうにユフィは言う。


「そうだな……牛一匹殺したくらいでこんなに感謝されるとは思わなかった」


「牛一匹って、ミノタウロスキングをただの牛扱い。Sランクの危険モンスターなのに」


「俺にとっては人間を殺すことも、牛一匹殺すことも大差ない」


「……そうなのね」


「ただ、ひとつだけ違う事がある」


「え?」


「人を殺せば憎まれる。だが、モンスターを殺せば感謝されるんだな」


「……そうね。そこは大きく違うわね」


 ユフィは笑みを浮かべた。


「宴会場で細やかながら宴会が行われます。我が村の英雄のお二人方も是非ご参加お願いします」


「はい。わかりました」


 俺達二人は宴会に参加する事となる。


 ◆◆◆



 こうして、宴会場――要するに村長の家の居間であるが、そこで宴会が行われた。テーブルには幾多の料理が並んでいた。



「うわー。おいしそうな料理」


 ぞろぞろと村人たちも宴会場に詰め寄せてきている。グラスに酒が注がれ、各人に振る舞われた。



「それでは村の危機を救い、娘メアリーの命を救ってくれた勇者ユフィ様とその仲間シン様に乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 グラスが鳴らされる。


「さあさあ。シン様も飲んでくださいませ」


 村長がグラスに酒を注ぐ。


「はあ……」


 俺は酒を飲む。だが、訓練で毒に対する耐性を身に着けているのでこの程度の酒では全く酔わない。素面と変わらなかった。


「シン様は何でもミノタウロスキングを一撃で倒されたそうで」


「……ええ。あんな牛、別に普通です」


「普通!? シン様にとってはそれが普通なのですか!?」


「ええ。まあ」


「それでも私にとっては娘の命を救って頂いた恩人です」


「そうですか……それは良かった」


「どうですか!? シン様。よろしければ私の娘を貰って頂ければ!?」


「お、お父さん!?」


 メアリーは顔を真っ赤にしていう。


「だ、だめですっ!」


 ユフィは叫んだ。


「え?」


「こほん……い、いえ。彼は私と旅をする仲間です。どこかに根付かれては困りますという事です」


「はは……そうですよね。それは冗談でも冗談にならない事を言いました」


「ええ。そうです。それに娘さんにはもっと血の匂いのしない男が良いと思います。俺のような血の匂いがする男ではなく」


「はは……そうですか」


「それにしても、このお肉。おいしいわね」


 ユフィは料理に舌鼓を打つ。


「へへっ。それは牛肉の刺身ですぜ。さっき死んだばかりなんで新鮮ですぜ」


 料理人がそういう。


「嫌な台詞ね」


「沢山肉が仕入れれたんで、たんと食べて行ってくだせぇ」


「へー。そんなに仕入れができたんだ」


 ユフィは無邪気に言う。


「……世の中には知らない方が良い事もある」


 俺は呟く。


「え? どういう事?」


 何でもない。


 食卓に並んでいる大量の牛肉料理。それが何なのかは言うまでもなかった。


 こうして俺達を歓迎した宴会は行われていったのである。

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