『絶対即死スキル』でミノタウロスキングを即死させる

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



 咆哮が聞こえてくる。



「なんだ? あれは」


 俺の目の前に見えたのは牛のような化け物だった。手には斧を持っている。ミノタウロスだ。だが俺の知っているミノタウロスよりもずっと大きい。


「に、逃げてください! あれはSランクに分類される危険なモンスター! ミノタウロスキングです! 普通のミノタウロスよりもずっと危険で凶暴なんです!」


 襲われている少女はそれでも健気にも忠告してきた。可憐な少女であった。美しい顔立ちに髪。ドレスでも着ればどこぞのお姫様だと言われても欠片の違和感もない。

 だが、彼女が着ているのはライトアーマーであり、手に持っているのは剣だ。それもそれなりに由緒のあるものだと思われる。どこかの剣聖の令嬢かと思われた。


 見ると少女の後ろにもまた、別の少女がいた。こちらの方はただの村娘といった感じだ。恐らく悲鳴をあげたのは村娘の方だろう。

 剣士風の彼女は少女を助けようとしている様子だった。


 彼女は巧みな剣裁きでミノタウロスキングの巨大な斧をいなそうとしている。だが、あまりに力の差がありすぎたようだ。彼女は失敗してふきとばされた。


「きゃあ!」


 彼女は吹き飛ぶ。何とか受け身を取ったようだ。


「下がっていてください」


 俺はそう告げ、ミノタウロスキングの前に立つ。


「な、なにを言っているんですか! あなたのような無関係な人を巻き込むわけには!」


「そこの村娘とあなたにもそう関係がありそうには見えませんが」


「私は勇者です! 困っている人を助ける義務があるんです!」


「そうですか。でしたら猶更あなたがここで死ぬべきではない。そう俺は考えます」


「で、でも! それであなたが死んだら!」


 俺達の抗弁を待つ義理は当然のようにミノタウロスにはない。


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 咆哮と共に、ミノタウロスキングは斧を振り下ろしてくる。


 しかし当然のように空振りする。


「え!? 消えた」


 彼女は俺を見失っていたようだ。俺は宙を舞う。


 スキルを発動させる。


 暗殺者には『暗殺』という職業(ジョブ)スキルがある。どんなにHPが高い敵でも即死させるという便利なスキルではあるが、通常ボスモンスターと言われる強力な敵や即死耐性を持ったモンスターには通用しない。


 だが、俺の『絶対即死』スキルはその職業(ジョブ)スキルを進化させた、ユニークスキルだ。俺の『暗殺』スキルにはボスモンスターも即死耐性持ちも関係ない。


 必ず即死させる。



 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



 断末魔のような悲鳴が聞こえる。俺のミスリルダガーはミノタウロスキングの首を正確に切り落とした。ゴロリと牛のような巨大な首が転がる。



 暗殺完了。いや、暗殺とは闇に紛れて不意を討つ事に意味する。普通に討伐完了ではないか。



「う、嘘っ! あのミノタウロスキングが一撃で!」


 勇者の少女は驚いていた。


「あ、あのっ! ありがとうございますっ! おかげで救われました!」


 村娘が礼を言ってくる。


「お礼ならそこのお兄さんに言って」


「ありがとうございます! この御恩どう返せばいいか。あなた様は命の恩人です」


「別に大した事はしていないです。殺した対象が人間ではなく、モンスターというだけでこうまで感謝されるとは思ってもみなかったです。これもひとつの発見ですね。人の役に立つのにやはり悪い気持ちはしないものです」


「?」


 村娘は首を傾げていた。


「そ、そんな。Sランクのモンスターを倒した事を大した事ないなんて。あなた、何者なんですか?」


「シン・ヒョウガ。暗殺者(アサシン)です」


「「暗殺者!?」」


「ええ。暗殺者です。最近まで宮廷に勤めていました。だが今は勤めていないのです。無職という事になります。俺は今は無職の暗殺者です」


「無職の暗殺者って……一体なんなの?」


 勇者の少女は呆けたように言う。


「ともかく、あなた達は恩人です! 近くに私達の村があるんです! よろしかったら来てください。細やかですが村をあげてお礼をさせて頂ければと思います」


 村娘はそう言ってその場を去って行った。


「それで勇者の少女。あなたはなぜこんなところにいるのです?」


「私の名はユフィ。ユフィ・アルドノア。神託により選ばれた勇者。世界を救うために旅をしているの」


「……そうですか。世界を救うために旅を。何と立派なお方だ。人を殺すくらいしか役に立たない暗殺者である俺とは大違いだ。願わくば俺もあなたのように大儀の為に闘ってみたかった。また生きていればお会いする事あるでしょう。では、お元気で」


「待って! お願いだから」



 俺は彼女に呼び止められる。



「なんですか? まだ何か用ですか?」


「あなたの力は、きっと私に、いえ、私達に必要なの」


「私達? 仲間がいるんですか?」


「神託により選ばれた勇者パーティーのメンバーは他に数名いるの。これから私はその仲間達を探して、そして魔王を倒しに行く事になっているのよ」


「へぇ。そうなのですか」


「それで、私のパーティーに加わって欲しいの。私の仲間になって欲しいのよ」


 暗殺者である俺が勇者パーティーの仲間。思ってもみなかった提案だ。


「だめかしら?」


「いえ。いいでしょう。俺も誰かの役に立ってみたかったのです。人を殺すしか能のない暗殺者ですが、そんな俺でも誰かの役に立ってみたい。勇者パーティーの一員の末席に加われるなど願ったり叶ったりです」


「ありがとう! シンでいいのねっ! これからよろしくねっ!」


 ユフィは俺の手を握ってくる。当然お互い素手だ。握手をしている事になる。


 俺の顔は赤くなっている事だろう。気恥ずかしいのだ。


「何を赤くなっているの? シン」


「いえ。あまり女性に慣れていないものでして。そう手を握られると恥ずかしいのです」


 それに顔もよく見えた。近くでよく見てもやはり美少女だ。こうまでの美少女宮廷でもあまり見た事がない。どこぞのお姫様も何人か見た事があるのだがそれよりもずっと美人だった。


「そうだったの……恋人とかはいなかったの?」


「勿論です。人並みの青春など送った事がありません。人を殺す以外に何の役にも立たない人生を歩んできましたから」


「そうだったの……ごめんなさい、いきなり詮索しちゃって」


「いえ。いいんです。こんな俺でも勇者パーティーの一員として役に立てるのが嬉しいんです」


「そうなの。じゃあ、改めてよろしくね。シン」


 ユフィは手を差し伸べてくる。


「ええ。よろしくお願いします。ユフィ」


 俺はユフィの手を握った。身構えていれば案外何とかなるものだった。


 こうして宮廷で暗殺者をしていた俺は勇者ユフィのパーティーに加わったのである。

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