第9話
「ふん……あの体型でよくやる」
冬薙の眺めるモニターの先では、手足から炎を噴出させた京太郎が大らかな体型にも関わらず飛び回って鴨脚の駆るマヒトツへと攻撃を仕掛けていた。
異能による決闘、というのは一つのエンターテイメントになりえると学園内で行われる決闘は食堂や寮の談話室で放映され、端末からは専用のチャンネルが設けられている。
学内で人気の高い
が、今回はどういうわけか職員室のパソコンや教室の電子黒板さえもがこの一試合を映し出していて、他の操作を受け付けない事態になっていた。
事の発端は食堂に有り、と聞きつけてやって来たのだが……正直言って、あの膝を擦りむいただけでベソをかく甘ちゃんだった京太郎がどれほど強くなったか見たいというのが今の気持ちだった。
「おや、火消しですか? ご苦労なことですねぇ」
気づけば隣には和装の白髪、ツイナが寄って同じ方向を見上げていた。
「あいつと一緒にいなくていいのか?」
「ええ、
どうだか、と意識を画面へと戻す。
流石に体当たりしているだけではどうにもならないと京太郎が大きく距離を取った。
背後の崩れた改札口で一瞬身を屈めたかと思うとまた向き直って突撃をする。
その間もマヒトツは堂々と仁王立ちして銃口を向けることすらしなかった。
側面へ回り込んだ京太郎の手から燃える何かが放たれた。
「印字か……!」
またの名を飛礫術、指弾。
古武術や中国武術で見られる読んで字の如く石や銭を投げる技術だ。
しかし都の拳に、
「ご主人は、努力なさったんですよ」
横を向くと、ツイナは慈愛に満ちた、それでいて哀愁漂う表情をしていた。
それは────あの右腕を見ればそれとなくわかる。
ただでさえ傷だらけだというのに、火にくべた炭のように肌の下で焔を燃やしている。
それがただの傷ではない事くらいわかる。
それすらもプラスへと利用する技巧を身につけるまでどれ程の鍛錬を要したのか、息を飲むくらいに、感じ取れてしまう。
「お祖父様に都の拳を享受させていただくだけじゃ飽き足らず、
画面の向こうでは京太郎が燃え盛る瓦礫を左膝の駆動部へ立て続けに命中させ、覆っていた装甲を剥がした。
すかさず駆動部へ渾身の蹴りが刺さるとマヒトツは膝をついた。
「そろそろ、ですかね」
「なにがだ?」
意味深なツイナの言葉を問い詰めたいところだったが、京太郎から目が離せないでいた。
いつもの人の神経を逆撫でするような下卑た笑いではなく、血潮を
少なくとも今の京太郎に、あの頃の弱さは微塵も感じられない。
「貴女と離れてから八年の集大成と言いますか、ご主人があの体型に甘んじている由縁と言いますか。
────つまるところは都京太郎のとっておき、ですよ」
瞬間、京太郎の姿が陽炎の揺らめきに呑まれた。
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