アイドルとベッド その二

 もう日が落ちて真っ暗になっていた。

 神殿はちょっとしたお城みたいになっていて、私たちは宿泊用の部屋に泊まらせてもうらうことになった。


「じゃあもう寝ようか」


 ナナはそう言うとランプを消し、各々ベッドに入った。

 電気がない世界は不便そうだけど、アンティーク家具みたいなランプで、こんな生活もそこまで悪くないように思えた。

 ベッドは少し固いけど、掛け布団と枕はふかふかで、気持ちよく寝られそうだ。

 お家よりも大きなベッドだしね。

 月の光が少しだけ窓から差し込んでくるだけで、部屋は静かになった。

 神殿の一室だからか、部屋も神聖な感じがして、落ち着いた雰囲気だよ。


「入ってもいい?」


 ナナはボリュームを落とした声でそう言うと、私の布団の中に入ってきた。

 うん。温かいし柔らかい。


「スイがいてくれなきゃもっと不安だったと思う。スイ、ありがとね」

「どういたしまして」


 ナナに感謝された。

 私は特別なことをした覚えがないけれど、褒められるのは悪い気がしない。

 ナナは甘えん坊さんだなぁ。そしていい匂いがするんだよ。


「私も入る」


 ミユキも私のベッドに潜り込んだ。


「私もスイには感謝してるんやから。スイのお陰でちょっと旅に出ているだけの気分になるんやから」

「ふふ。もっと褒めてもいいんだぞ?」

「それはやだ」

「もう」


 ミユキもぷにっとしていて可愛いなあ。


「私はナナにも感謝だ」


 そう言いながらセイラも私のベッドに潜り込んできた。

 大きなベッドとはいえ、もうぎゅうぎゅうだ。


「私たちの中で一番英語が得意じゃん? 最初色々と交渉してくれて、ナナがいなかったらもっと大変なことになってたと思うんだよね。やっぱり私たちのリーダーのナナだよ」

「別にそんなことないと思うけど、そう思ってくれたなら嬉しいな。ありがとう」

「……」


 マホは何も言わなかったけど、一人寂しくなったのか、このベッドの中に加わった。

 除け者は確かに嫌だよね。

 寝返りをしたら誰か転げ落ちそうだけど、そうなったらその時だ。


「……私もみんなには感謝してる。ありがとう」


 マホは小さい声でそう呟いた。

 そうだ、みんなに感謝だ。

 ナナはしっかりしているし、セイラも色々と頼りになる。ミユキはツッコミとして私たちには欠かせないし、マホも私のペットとして大切なのだ。


「……何か失礼なことを考えなかった?」

「いえ、別に」


 マホは勘が鋭いなあ。


「私もみんなには感謝だなあ。みんながいなかったら、こんなに楽しく人生を過ごすことはできなかったと思うの。ナナセイラセイラミユキもマホも、みんなと同じグループでデビューできたのは本当に奇跡だよ。だから誰一人欠けることなく、明日の訓練も頑張って早く元の世界に戻ろう」

「そうだね。寝不足はお肌に大敵だし、しっかり今日は寝よう」


 ナナはそう話を締めた。

 疲れもあるのか瞼が重くなってきた。

 みんなおやすみなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る