アイドルとベッド その一
お風呂に上がったら夜ご飯になった。
コスメは日頃の行いのお陰か運良く? バッグに入っていたからなんとかなったけど、服は着ていたものしかなかったので、こちらの世界の服を借りた。
民族衣装を着るみたいで新鮮な気持ちだ。
「スイ、似合ってるやん」
「みんなも似合ってるよ。写真を撮りたいね」
「記念に撮っておこうよ。電池が心配だけどさ」
「でも、ナナが一番似合ってるなぁ。少し悔しいぞ」
「そう? うふふ。ファンの人も喜んでくれるかな?」
ナナはそう言われると、くるりと回転した。花柄の刺繍の入ったワンピースにスカーフがひらりと揺れて、異国感溢れるものだった。
スタイルがいいからかな? 本当に着こなしている。
スマホで写真を撮った。
セイラの言う通り電池が心配だけど、モバイルバッテリーもあるから数日は大丈夫だろう。
あんまりここでの生活が長くなってしまうと色々と大変だなあ。
「みんなの前に早く戻りたいね」
「そうだね。邪神退治頑張らなきゃ」
「私のメテオでぶっ倒してやるんだから」
「じゃあ私もファイアで燃やし尽くしてやるよ」
「スイはともかくセイラの発言は物騒すぎやわ」
「大丈夫。オフレコだから。はは」
この写真がいい記念になるといいなぁ。
みんな可愛く映ってる。
食堂には大きなテーブルがあり、何名か給仕の人がいて、既に食事が並べられていた。
ヘルシリアさんたちが用意してくれた食事は質素なもので、サラダ、パンと色々入ったスープ、お肉や豆を煮込んだものだった。
「うん、デリシャス」
「お口に合ったようでよかったです」
サラダもパンも元の世界と変わらず、スープも色々な出汁が出ていてあっさり飲みやすく、毎日食べても大丈夫そうだった。
それに煮物!
なんのお肉か分からないけど、スペイン料理に出てきそうなトマトの味がよく染み込んでいて、とても美味しかった。
「食事は少し不安だったけど、これだったら大丈夫そうだね」
ナナも味に納得しているみたいだった。
「でも、シャンプーとか生活周りの物はこれから不安やね」
「確かに。髪が少し軋んじゃうもんね。私の自慢の黒髪が」
「セイラはそんなに髪が長くないからいいじゃん。一番可愛そうなのはマホだよ。マホは黒髪が売りなんだからさ」
マホは黒髪が綺麗で長くて可愛いのだ。この生活が長く続いていけば、チャームポイントがなくなってしまうかもしれない。
「……大丈夫。私にはまだ魅力があるから。くくっ」
マホはそう言うと口角を少しだけ上げた。マホの笑った表情は久しぶりに見たかもしれない。
「なんだろうその魅力。でも面倒くさいから聞いてあげなーい」
「……そのうち分かるよ。くくっ」
なんだかマホの笑いは不気味なものだった。
「今日はご飯食べてしっかり寝て、明日からの訓練も頑張ろう」
ナナがそう言うと、スプーンを運ぶのを途中で止めてセイラは言った。
「ナナの今の顔を見ると、デビュー前の合宿を思い出すね。あの時と同じ感じ」
「分かるー。セイラは変わったよね。昔は近寄りにくかったからさ」
「そう? まあ性格は丸くなったし、あのときは必死だったし。みんなを引っ張らなきゃという気持ちも強かったかも」
「研修生の大先輩やったしね。なんか言ったら怒られるんかな? という感じで」
「本当は全然そんなことなかったのにね。私はあのとき凄くお世話になったなぁ」
当時のメンバーではセイラのスキルがずば抜けていて、私は振り付けの細かい間違いとかリズムとかをよく教えて貰っていたなあ。厳しかったけれど、丁寧に教えてもらったお陰で今があるのだ。
「スイは昔酷かったよね。今だから言えるけど、本当に二年も研修生やってたの? ていう感じやったわ」
「ミユキ酷いよ。確かに最初は足を引っ張ってたけどさ」
「スイは仕方がないよ。結成したときはまだ小学生だったんだしさ」
「ナナ、優しい」
「でも、ナナも大概やったけどね」
「うう、心に傷が」
そんなうちにスープは飲み干してしまった。ポトフみたいで、身体に良さそうな味だった。
「ヘルシリアさんたちは食べなくていいの?」
「私たちはみなさまが食べ終えてからで大丈夫です」
「じゃあ早く食べてあげないとね」
ヘルシリアさんは私たちの側に食事中ずっと立ち放しだった。
一緒に訓練したんだし、彼女もお腹はぺこぺこだろう。
よし、残りも早く食べてやるぞ。
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