アイドルなのでレッスンはお手の物 その三

「では、そろそろ再開いたしましょう」


 まだ魔力はそこまで回復していないけれど、メニューはもう最後だから頑張らなくっちゃ。


「的となる石を並べましたので、魔力を保ったまま所定の位置まで走り、魔法を当ててください」


 私たちの前にはそれぞれ3つの拳程度の大きさの石が一定間隔で並べられた。魔力を開放しながら的の前まで移動し、魔法を放つ訓練だ。


「先生、質問です」

「セイラ様、何でしょう」


 セイラは授業みたいに手を挙げて質問をした。


「使う魔法は何でもいいのでしょうか?」

「はい。みなさまが使えるものでしたら」


 ヘルシリアさんはそう答えると、疑問符を浮かべて言葉を続けた。


「複数の魔法を使える人間はこの国にはおりませんが、女神様はいくつか魔法が使えるのでしょうか? 私は一つの系統しか魔法を使えないのですが」

「普通は何種類も使えるものじゃないんですね。試してみよっかな?でも、夕暮れまで時間もないしな」


 私はメテオ以外にも魔法が使えるのかな?

 確かに色々と試してみたいけど、時間もないしまた今度かな?

 すると、ナナが別の提案をした。


「私が前使ったの回復魔法だったから、今回は違うの試してみるよ。それで上手くいったら、明日みんなが違うの試せばいいんじゃない?」


 うん。それで決定だ。


「そうやね。それでいいと思う」

「じゃあそうしよう」


 ミユキとセイラも納得し、マホも頷いている。


「では、スタートしてください」


 ヘルシリアさんの呼びかけとともに訓練はスタートした。


 まずは一個目だ。

 魔力を開放して狙いを定める。

 そして石を爆発させるイメージ。


 せいやっ! ドッカーン。


 よし、ひとつめはクリアだ。

 最初の訓練で消耗したせいもあるけど、あと二発が限界かな?


 次は二個め。

 最初に魔力を開放させたのを維持したまま、石の前まで移動する。


 そしてもう一発。


 ドッカーン。


 うん、上出来だ。

 でも、魔力がやばいかも?

 限界か? いや。そんなはずはない。

 最後まで徹底的に頑張るのがアイドルなのだ。


 足を動かして最後の地点まで移動する。


 そしてイメージする。


 頭がクラクラだけど、外しちゃだめだ。

 ちゃんとイメージを描ききる。


「はぁっ!」

 ドッカーン。


 思わず声を出しちゃったけど最後も成功だ。

 やるじゃん私!

 魔法メテオを打ち終わるとたまらず膝に手を置いてしまうくらい疲れたけど、今日の訓練は終了だ。

 他のみんなはどうだったのかな?

 私がそう思って周囲を見渡すと、他のメンバーも同じタイミングで訓練が終了したようで地面に座り込んでおり、中央にいたヘルシリアさんは涙を流していた。


 えっ、ヘルシリアさん急にどうしたの? 何か傷つけてしまうことあった??


「あの、ごめんなさい。でも、何で泣いたのか教えてくれる? 私馬鹿で分からないから」


 私はヘルシリアさんに駆け寄ると、反射的に謝罪した。

 こういうときは私が悪いことが多いから、謝るのが癖になってるのだ。

 私も大人になったんだよ。


「いえ、スイ様は何も悪くありません。むしろ感謝したいほどです」


 えっ、感謝? よかったぁ。私が原因じゃないのね。

 じゃあ誰のせいなの? まさかミユキが水の魔法でもぶつけちゃったのかな?

 あの子、どんくさいところもあるしな。

 すると、ヘルシリアさんは涙を静かに袖で拭った。


「私はみなさまの魔法に感動したのです。普通の人間であれば、こんな訓練を初日からこなせません。それを見事成し遂げることができました。本来であれば、私一人で魔物と戦わなければなりませんでした。それは死と同義でもあります。私は死ぬことは恐れていません。何もせずに死ぬよりは、戦って死ぬことのほうが遥かに価値があります。ただし、私が死んでも何も残らないこと、それがとても恐ろしかったのです。でも、今回は女神様と一緒に戦える。これほど強力な魔法の支援と共に戦うことができるのです。こんな脆弱な私にも希望を持っていいのだと、心から嬉しかったのです」


 そっか、そうだったんだね。

 ミユキ、疑ってごめん!

 でも、そりゃ私よりも年上っていってもまだナナやミユキと同い年だし、そんな過酷な環境で戦わされたら、私じゃとてもじゃないけど耐えられないや。


「そうだったのね。でも、大丈夫だよ。私たちはみんな味方だし、もうちょっと訓練を頑張って、必ず力になってみせるから」


 私はそう言ってヘルシリアさんを抱きしめた。

 そして、辛い女の子には頭を撫でてやるのだ。いつもされる側だけど、私だってできるんだぞ。


「うん。私たちも一生懸命やるから、一緒に戦おう」


 ナナがそう言うと、みんな頷いた。

 みんな疲れて汗が髪にくっついてるけど、公演直前の気合が入ったときみたく、キラキラした表情をしていた。


「ありがとうございます、女神様」


 ヘルシリアさんは再び涙を流すのを堪えつつ、私の腕の中でそう呟いた。


「で、ナナは違う魔法使えたのかな?」


 私は自分の訓練に夢中で、他の人の様子を見る余裕はなかった。

 他のメンバーも同じだったみたいだ。


「風の魔法が使えたよ。びゅーっと石を飛ばせたんだから」


 ナナは得意げにそう言った。


「じゃあ、私たちも他の魔法が使えるってことなん?」

「私でいけたんだから、みんなもできると思う」

「じゃあ別の魔法何にするか考えなあかんね」

「早く試してみたいなー。でもお腹がペコペコだ」

「私もスイと一緒。今日はもう魔力が尽きた感じだから、明日試してみなきゃね」


 今日はもうお腹が減って魔力も尽きてしまい、できるかどうかすぐに試せないのはちょっと残念だなぁ。

 すると、涙を流し終えたヘルシリアさんはタイミングのいいことを言ってくれた。


「神殿ではお食事を用意しておりますので、これからお身体を癒やしていただければと思います」

「やったぁ、ご飯だ!」


 異世界のご飯ってどんなのだろう?外国っぽいしパンとかパスタなのかな?

 アニメとかの食事はどれも美味しそうだから、きっと期待できるよね?


「食事かぁ。それも楽しみやけど、先にシャワー浴びたいねえ」

「確かに。汗かいちゃって髪がべたべただもん」

「セイラは汗かきだもんね。ヘルシリアさん、神殿にはシャワーはありますか?」

「シャワー?」


 ナナが聞くと、ヘルシリアさんは困った表情をした。


「そうか。この世界にはないのかも。お風呂でもいいんですけど。もしくは水を浴びれるところとか」

「それでしたらございます。そちらもご用意させていただきますね」

「「「「「やったぁ」」」」」


 私たちは素直に喜んだ。


「じゃあ先にお風呂に入って、それからご飯を食べようか」

「「「「賛成! 」」」」


 よし、訓練でいい汗かいたので流しちゃおう。

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