アイドルなのでレッスンはお手の物 その二
神殿の裏手にある空き地で、ヘルシリアさん指導の元、魔法の特訓を行うことになった。
「魔法の基本は魔力をコントロールすることです。魔力をコントロールして操作し、奇跡を起こすのです」
ヘルシリアさんはそう言うと目を瞑り、息を吸い込んだ。
「これが魔力を身体に纏わせた状態です」
確かに何だか雰囲気が変わっていた。何かの達人みたいな空気があり、近づいただけで倒されそうだ。
「では、身体の奥に意識をやり、やってみてください」
「「「「「はい!」」」」」
私も目を瞑り、やってみることにした。
これってサイヤ人みたいになればいいんだよね?
ふっふっふっ、そういうのは私得意なんだよ。
伊達に何年もアイドルやってないからね。
「スイ様、流石でございます。私はこれができるようになるまで1年掛かったのですが、1回でやり遂げますか」
はははっ、私が一番乗りだ。
ヘルシリアさんに早速褒められたぞ。
「できてるん、かな?」
「私も」
「……」
「できてるよね?」
横に並んだ4人を見ると、みんな雰囲気を変えていた。
くそっ、早速追いつかれた。
「みなさま、流石女神様でございます」
しかし、結構これ疲れるんだよね。
この状態になると、何でも成し遂げられそうな気がするんだけど、テストで時間がもうないのに問題を解かなければいけないような、そういうストレスをずっと感じるのだ。
えっ、勉強してないのが悪いって?
そういうこと言わないの。
「では、動きながらその状態を維持する訓練に入ります。私の後を付いてきてください」
ヘルシリアさんはそう言うと歩き出したので、私たちはその後ろを追いかけた。
「うわぁ、しんどくない?ただ歩いているだけなのに」
「ふふふ、私は負けないもんね」
私はミユキに余裕な表情でそう言ってやった。でもそれはやせ我慢だ。
本当はミユキと同じように辛いけど、みんなに負けるのは嫌なのだ。
「では、速度を上げます」
ヘルシリアさんはそう言うと、ジョギングくらいの速度で走り出した。
ヘルシリアさんは表情を変えずに涼しそうに走る。
それとは対称的に、私たちの表情はみんな苦しそうだ。
「では、休憩に入りましょう」
5分程走って足を止めると、私たちはその場で倒れるように大の字になった。
「疲れたー」
「同じく」
「はーはー」
「はぁはぁ」
ミユキは走り終わって苦しそうで、ナナとセイラは声も出せないくらいぜえぜえ言っていた。
「……」
マホセイラモと同じ表情で、とても辛そうだ。
すると、ヘルシリアさんはコップに水を入れて差し出してくれた。
「最初の訓練でこれだけできる者はおりません。流石女神様でございます」
「へへへ、ありがとうございます♪」
ヘルシリアさんに褒められちゃいました。
うん、いつでも褒められるのは嬉しいな。
私は褒められて伸びるタイプなのだ。
それなのにあの糞マネージャーはいつも私に怒ってばっかなのだ。
ヘルシリアさんには小関とマネージャーを交代してもらいたいよ。
「スイ、心の声が漏れているよ」
くそっ、またやっちまった。
ナナは怒られることがないからいいよね。
「魔法は止まった状態でできるだけでは使い物になりません。動きながら使えてこそ、初めて魔物に有効な攻撃を加えられます。少し休憩して体力と魔力を回復させましたら、動きのある訓練をやって本日は終了したいと思います」
「「「「「はい! 」」」」」
やった!
あとひとつのメニューで終了だ。
この休憩時間で魔力を回復させないと。
「ヘルシリアさんっていくつなんですか?」
ミユキは水を飲みながら、同じように静かに佇む彼女に聞いた。
すると、その返答は私たちにとって驚きのものだった。
「私は18歳でございます」
えっ、ええ!
「同い年やん! そんなに若かったんや」
「ミユキ、失礼だよ」
セイラはそう言って注意したけれど、確かに私も驚きだ。
大人な雰囲気だったから、20代中盤ぐらいに思ってたけど、ナナとミユキとまさか同い年だったなんて。
「失礼しました。でも、私たちよりずっとしっかりしていて、そういう風に思えんくて」
ミユキが申し訳なさそうにそう言うと、ヘルシリアさんは小さく笑った。
「まさか大人っぽく思われるなんて、初めての体験です。長老たちからはいつも子供扱いでございます。だから私はそう思われて嬉しいですよ」
ヘルシリアさんはそう言ってニコリとした。
うん、破壊力抜群だ。
彼女はスカーフも相まってミステリアスで色っぽく、私たちには表現できないものを持っている。
これではファンを奪われてしまうかもしれない。
危機感を持たなくては。
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