アイドルは世界を救う(仮)
「落ち着かれましたでしょうか?」
私たちが魔法の確認を終えると、カラフルな色合いのスカーフを被り、腰に剣を携えた女剣士が部屋に入ってきた。
「ええ、あなたの言っていたとおり。信じられないけど私たち全員が魔法を使えたわ」
「それはよかったです。そして、お疲れにも関わらず、いきなり私たちが無理を言って申し訳ありませんでした」
女剣士は綺麗な角度で私たちに頭を下げた。
「そんな、頭を下げないで。私たちもまだ今ひとつ状況が掴めてないけれど、魔法が使えるくらいなんだから、あなたたちが言っていたこと全てが無関係とは思えないから」
「そうよね。それに、もとの世界に戻る上でもね」
ナナが女剣士の謝罪を止めると、セイラは言葉を絆いだ。
「改めて私たちの紹介をするね。私はリーダーのナナ」
「私はセイラ」
「ミユキです」
「……マホです」
「スイだよ」
女剣士は私たちの名前を聞くと、胸に手を当てて自分の名前を名乗った。
「では改めまして。私はヘルシリア。この国の守護者です」
「守護者! なんだか凄そうな仕事だなぁ」
私がそう感想を漏らすと、ヘルシリアさんは私を見て、少しだけ微笑んでくれた。
背が高くてカッコいいんだけど、優しそうな人だ。
「この国で数少ない魔法を使える人間ですので、守護者をやっています」
「ヘルシリアさんも魔法が使えるんやね。守護者ということは戦ったりすんのかな?」
ミユキは目を輝かせてそう言った。
ミユキはカッコいい女の人が好きだからね。
「はい。それでも森の魔物たちと戦うのは不十分ですけれど」
「森の魔物?」
セイラが疑問を口にすると、ヘルシリアさんは状況を説明してくれた。
「神が我々を見捨てたあとも、この地に根を張り生活をしておりました。神が見捨てたといっても、簡単に我々がくたばってしまっては、本当に神に見捨てられてしまいますから。けれど、その生活が大きく揺らいだのが八十三年前。森に邪神が現れたことです」
「邪神?」
「邪神は人をさらいます。使い魔を放って我々を襲って男を殺し、女や子供をさらうのです」
「わぁ、とんでもなく悪いやつだね」
みんなヘルシリアさんの言葉を聞いて渋い顔になった。
邪神? 使い魔??
出たよ、異世界ワード。
それにしても最低な奴だ。弱いものいじめをするやつは本当に最悪だ。
「我々もこれは神の試練だと受け止めて抵抗しておりました。しかし、人間は無力でした。抵抗も虚しくどんどんと人の数は減っていき、試練は過酷なものとなりました。すると、当時の長老は仰っしゃりました。『我々は無力である。ただし、神を信じる力だけは本物だ。だから祈りなさい。さすればやがて女神が現れ、我々に救いの手を差し出してくれるだろうと』そして祈り始めたのです。それから毎日欠かさず、何十年と。そうして現れたのがあなたたちなのです。だから我々はあなたちを女神と考えますし、力を貸して欲しいと願うのです」
そっか。そんな歴史があったのね。
どうしてそれが私たちだったのか不思議でならないけれど、それだけ苦労していたんだったら、私たちはどう見ても人間なのに、助けを求めてしまうよね。
可愛そうだなぁ。
何か手助けできるんだったら、力を貸してあげたいね。
「それで、力を貸すというのはどういうことなんですか? 魔法で戦うとか?」
「はい、セイラ様。七日後に行われるその邪神との決戦に力添えをお願いしたいのです」
「でも、私たちが魔法を使えるのは分かったけど、勝てるものなの? だって私たちアイドルやで?」
ミユキは目元にシワを寄せて疑った。
「確かにそうだよね。今だと一回魔法使えば疲れちゃうし。スポーツとも違うでしょ?」
ナナも困った表情でミユキの意見に同意した。
「でもさあ、ほっとけないよ。困ってる人をみたら笑顔に変えるのがアイドルじゃん」
「スイの気持ちも分かるけど、命あってのアイドルだからね? 多分魔物と戦うってそういうことでしょ? そんなに甘くないと思うよ」
セイラも反対みたいだ。
でも、私が思うアイドルは、ただ歌ったりダンスをしたりするだけじゃない。
どんな人たちにとっても魅力的で、そして元気を与えるのがアイドルだ。
こんな異世界に来てもアイドル精神を貫くことこそ、真のアイドルになれると思うのだ。
すると、ヘルシリアさんは部屋に私たち以外に人がいないことを確認すると、首を横に振った。
「長老たちは女神様が邪神を倒してくれると信じ切っておりますが、私は同じ考えではないことを予めお伝えします」
「えっと、どういうことですか?」
みんなの頭に疑問符が浮かぶと、ナナはみなを代表してヘルシリアさんに聞いた。
「邪神とは私が戦います。女神様には支援、そして希望になってもらいたいのです」
「支援?」「希望?」
セイラとミユキはヘルシリアさんの言葉を口ずさんだ。
「まず、魔法では殆どの魔物を倒すことはできません。倒せるのは低級のごく一部。ダメージを与えることはできますが、殺すには剣に魔力を通して叩き切る必要があります。だから邪神を倒すことはできないでしょう」
みんな少し驚いた表情になった。
そうなんだ。私のメテオも魔物には通用しないのね。
ちょっと残念だな。
「この国の多くの人間は勘違いをしておりますが、魔法は万能ではありません。そして、私は魔法が使える人間です。女神様たちの魔法を少し拝見させていただきましたが、今のレベルだと命を失うだけです。同族の多くが魔物との戦いで死に絶えました。しかし、それでも魔法は私たち人類の数少ない希望でもあります。それに、女神様の魔力は私たちよりも上です。多少の訓練を行えば、力になれると思うのです」
「だから支援ということなのね」
「はい、セイラ様」
「じゃあ、希望っていうのは?」
セイラは支援という言葉に納得すると、もうひとつの意味を聞いた。
「この国、エルパソの民は長き邪神との戦いにより疲弊しております。この戦いがあと数年も続けば、滅亡も免れないでしょう。そんなタイミングで女神様が現れた。これは本当に奇跡だと思うのです。女神様が声を掛けるだけで、乾いた砂漠に雨の恵みが降り注ぐように民の士気は漲るでしょう」
「私たちが声を掛けるだけで、本当にみんな元気になるんかな?」
「コンサートのMCと同じじゃない?」
ミユキが疑問を口にしたので、私はそう答えた。
コンサートでファンのみんなにメッセージを届けると、大したことでなくてもみんな笑って元気になってくれる。
本当は私たちが力をもらっていたりするのだけど、あまり難しく考える必要はないんじゃないかな?
だって私たちはアイドルだもん。
私がそう答えると、ヘルシリアさんは皆の目を見て、そして静かに頭を下げた。
「私たちはできること全て、女神様の力になれるように努力します。だからどうか、私たちエルパソの民に力を貸していただきたい」
その場には少しだけ沈黙が訪れた。
私たちはみんなの表情を確認して頷いた。
「本当に力になれるのかは分からないけど、私たちでよければ協力します」
ナナはヘルシリアさんにそう告げた。
「では」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
私たちはヘルシリアさんに頭を下げた。
うん。困ってる人に手を差し伸べるのはアイドルだったら当然なのだ。
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