アイドルは旅をする

 市場でご飯食べたら観光して路面電車に乗って温泉に入ってロープウェイに乗り、山の上から夜景を眺めたんだ。

 赤レンガの倉庫は中々雰囲気がよくて、人も平日の割には多かったなぁ。

 ぐるっと港を散策したあと、レトロな路面電車に揺られてスマホで見つけた近くの温泉に行ってみたらこちらはびっくり。

 温泉とあったけど銭湯みたいで、地元のおじいちゃんおばあちゃんばっかりだったよ。

 私たちはアイドルなので、一般の人たちと温泉に入るのは本当は駄目なんだけど、せっかく旅行に来たんだから、それぐらいは許してくれるよね?

 因みに芸能人だからって変装はしないよ。

 事務所からは『芸能人』としての自覚を持つために、帽子を被ったり、マスクをしたりしろって言われるけど、それって可愛くないじゃん?

 私たちはいつだってオシャレで可憐でいたいのだ。

 それに、一般の人が私たちに気が付いたときのリアクションを見るのも何だか嬉しいし。

 みんなで温泉に入るのは中学生のときの修学旅行みたいで、とても楽しかったなぁ。


 それと夜景!


 ロープウェイが登っていくと、見下ろす風景も段々とキラキラとしたミニチュアみたいに小さくなっていくの。

 そして、山の上から望んで広がった景色は、ステージのときに見下ろすサイリウムみたいで、でも哀愁? 暖かさ? 灯火が滲んで映るからかそういう空気もあって、とても綺麗だったよ。

 陸地よりも風が強くて、肌寒くなるのだけど、それもなんだか気持ちがいいくらい。

 写真も一杯撮ったし、ブログネタもしばらく困らない。


「ねえね、それじゃ夜景映らへんやん!」

「私が可愛いからなんとかなるよ」

「このヤロウ」

 ミユキと寄り添って写真を撮った。

 夜景よりも私たちの方が目立ってる写真だった。

 でも、ミユキの表情も可愛く撮れてたし、よしとしよう。


「みんなで一緒に写真撮ろうよ」

「そうだね。あの人に写真撮ってもらおっか」

「私声掛けてくるね」


 バラバラになっていたメンバーをナナが集めている間(私たちは自由なグループなのだ)、私は近くにいた若いカップルに声を掛けた。

「あの、すみません。写真撮ってもらえませんか?」

「いいですよ」

 男の人は感じのいい人で、私のスマホを快く受け取ってくれた。

 女の人は対照的に、私に警戒心を抱いているようだ。

 けどそれは仕方がないよね。だって私可愛いし。

 でも、私がアイドルだってことに気が付いてもらえなかったのはちょっと悔しいな。

 みんなに顔が知られているアイドルが少しだけ羨ましい。


「はい、チーズ」

「「「ありがとうございます!」」」


「いい感じだね」

「マホ、表情が薄い!」

「マホはいつもそんな感じだからいいんだよ」

「ナナはマホに甘いよね」

「ええ、なにそれ。嫉妬してるの?可愛いんだから」

 ナナにポンポンと頭を叩かれた。

 何だか悔しいけど、こうやって私はナナに手懐けられてるんだ。


「うん、今日の私も調子はいいぞ」

 セイラは自分の写真を見て、満足してるみたいだった。

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