第14話 敵は本能寺にあり
(すごいことになってきたな...)
ちょこんと体育座りをして寝間着のままことの成り行きを見守る奈穂。
頭上では身振り手振りを交えながら、コンソールを操作し次の一手を出し合いしのぎ合う二人の姿があった。
「回避!回避!たかが基地航空隊の攻撃機などにヤラセはせんよ!」
そう言いながら方向を指示する墨子。指示する先には--―あまりにも大きな艦船--―まるでタンカーのようなそれは『赤城』という空母であることを奈穂は携帯端末で知る。
『空母赤城:もともとは巡洋戦艦として建造されたが、航空母艦に改造。支那事変にも参加。特に太平洋戦争の初戦、真珠湾攻撃では機動部隊の旗艦として活躍』
そこまで見て奈穂は息を呑む。
『...ミッドウェー海戦でアメリカ急降下爆撃機の攻撃を受け大破の後、自沈』
目の前で爆撃、雷撃を巧みな回避運動でかわしていく赤城。何度もその状況と携帯端末を見比べる奈穂。
「そうだね。この程度の攻撃でやられるほど弱くはないよね。史実だってここは持ちこたえているし」
にやっと笑みを浮かべ知恵は眼下の奈穂をみやる。形態端末を手にきょろきょろしている奈穂を。
「史実と違うのは...こちらは一切攻撃部隊の爆装転換をしていない。二次攻撃隊はいつでも出撃可能だ。目標は当然...そちらの三空母になるがな!」
知恵を指差しながら、そう言い放つ墨子。しかし知恵はゆるぎもしない。
「この学園を志すものなら、当然の決断だろうね。まあ日本の敗因はそれだけではないけど」
水面に描かれる何本もの軌跡。日本の艦船、特に赤城を目指してその線は伸びていく。回避運動を続ける日本艦隊。まるで自分の手足のように墨子は艦隊運動を指揮していた。
「...決して手は緩めないよ。そっちが攻撃隊を発艦できなければ同じことだからね。ハンデをつけてあげようか?秘密の情報だけど、今さっき、我が空母艦隊から100機以上の攻撃隊を発進させた。さあどう出る?墨子さん?」
「...見えた!」
右手を右耳につけ何やらつぶやいていた墨子はそう叫ぶ。
「利根4号機より報告あり!空母見ゆとの報あり!」
両拳を突き上げる墨子。力を貯めるようにそしてそれを放出するように。
「戦艦榛名、霧島を前方に展開。直掩の零戦は以後、全力で制空権の獲得を目指す!警戒の駆逐艦隊もこれを海上より援護。ここで沈んでも犬死ではないぞ!...其の疾きこと風の如く、侵掠すること火の如し...!」
空中にいくつもの火球が現れる。全力で円運動を行う戦艦。そして花火のごとく対空砲火を行う駆逐艦船。時間にしてはわずかだったが、あまりにも激しい応酬。榛名の甲板が火を吹く。駆逐艦のいくつかも。しかし空中に敵の機体は一つもない。そして日本の空母4隻は全くの無傷である。すべて同じ方向にかじを切り全力で攻撃機を送り出すための速度を出そうとしていた。甲板には魚雷を満載した攻撃隊がずらりと並ぶ。
「肉を切らして...骨を断つ!第二次攻撃隊全機出撃!目標は敵空母『エンタープライズ』『レキシントン』!」
ビクッと反応する知恵。
晴れ渡る空に日の丸の翼が翻る。
歴史は少女の手により変わろうとしていた--―
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