第15話 第三次ポエニ戦争
奈穂はじっと、携帯端末の時刻に見入る。そこには現在の時刻と目の前で展開している戦いのリアルタイムの時刻―――一つは日本時間であり、もう一つはアメリカ太平洋時間が刻々と変化していた。すっかりと日は昇り、もう早朝とも言えない時間―――10時にならないくらいの時間にズラッと日の丸の甲板に並べられた艦載機が艦内へ収容されていく。先程の剣幕からすぐにでも航空機同士の大戦が始まるのかと思っていた奈穂はちょっと拍子抜けするのを感じた。しかし、眼上に浮遊し対峙し合う二人の少女―――墨子と知恵の緊張感はただごとではなかった。お互いに固まったように不動の体制でなにかに備えているようだった。その状態が30分も続いたであろうか。遠くからの小さな点が、どんどん墨子の機動艦隊に近づいていく。息を呑む奈穂。アメリカ時間10時15分。史実であればその時まであと数分のことである。急降下爆撃機ドーントレスが加賀に爆弾を投下し、その瞬間にこの海戦の趨勢が一瞬にして決した、その時。
「でも。違うんだな。今回は」
知恵が奈穂の気持ちを読んでいたように、そう言い放つ。近づく点を指さす知恵。点は無数の点となり、また面となる。
「史実では雷撃隊、艦爆隊の波状攻撃だったけどね。今回は―――雷爆一体の一斉攻撃を実施するよ。100機近くの大編隊だ。僅かな直掩機と貧相な対空兵装でどのくらい耐えられるかな?史実以上のワンサイドゲーム...4隻一斉に沈めてしまうよ!」
奈穂はまた携帯端末で検索する。史実の攻撃では時間差がついての攻撃だったことを知る。当然墨子も承知のことだろう。
目を閉じる墨子。観念したのであろうか。しかし、その刹那目を見開き、狂ったようにコンソールを操作する。
バラける4空母。その空母によりそうように支援部隊の重巡、戦艦そしていつの間にかけつけていた警戒隊の駆逐艦が空母ごとに密集した輪形陣を形成する。
「第二形態。『墨守』の陣。雷撃はすべて戦艦部隊が引き受ける。空母は1隻たりとも沈まさせぬよ」
4つに艦隊が分裂したことでアメリカ攻撃部隊も分散を余儀なくされる。その間隙をぬって精鋭の零戦直掩部隊が戦闘力に劣る雷撃隊、艦爆隊を撃破していく。無論、日本艦隊も無傷というわけにはいかない。数隻の駆逐艦が撃破され、煙を上げる。戦艦も何弾か被弾し、戦艦榛名は中破の状態に追い込まれた。しかし―――空母は全くの無傷である。このまま行けば、歴史が―――変わるかもしれない。
「...」
その状況を無言で眺める知恵。時間の経過とともに現有戦力はどんどんすり減っていく。しかし奈穂は気づく。天頂から悪魔が舞い降りることを。
「上だ!」
思わず口に出す奈穂。墨子が上を見上げる。
「遅い」
一言言い放つ知恵。ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて。
青空を切り裂くような不気味な音。それは―――SBDドーントレス急降下爆撃の一団。突如現れたその部隊は2つ。まずは空母加賀に6機が垂直に突っ込む。激しい対空砲火を抜けまるでV字のように機体を翻すドーントレス。
たった一瞬がまるで永遠のように感じられた次の瞬間。
轟音とともに火柱が上がる。空母加賀の甲板に―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます