　まばゆい光が晴れると、周辺に広がる青い空間。大きな青いキャンバスの上に投げ出されたような解放感を奈穂は感じた。

「ここは...」

　思わず口に出す奈穂。周りを見回してみる。空中に浮かんでいるように感じる自分。フィジカルＶＲ空間の効果だろうか。下の青いキャンバスが波打っているように見えた。これは、海。そして自分がいるところが空であることを認識する。

「北緯28度13分、西経177度22分...いわゆる”ミッドウェー島”になるね」

　知恵のその言葉に、奈穂は反芻する。ミッドウェー島。確か太平洋戦争の戦場であったことを思い出す。思い出したくもない中学の歴史の授業で習った語句を。

「ここで孫さんと私が...雌雄を決する！」

　上から聞こえる大きな声。普段からは想像もつかないような知恵の剣幕を感じた。

ひらひらと知恵の衣装が揺れる。白い制服。それは先ほどまで着ていた部屋着とは全く異なっていた。胸の金色のロープらしきものが揺れる。下こそ、スカートだったがそれは軍服のようであった。

「知恵ちゃん...その恰好は...」

「これはフィジカルプロジェクション＝コスチューム。このシミュレーションをする際のユニフォームだよ。歴史にあった衣装が自動的に選択される。カッコいいかな？」

　ひらりと踵を返す知恵。そして一息おいて宣言する。

「私が担当するのはアメリカ第１７任務部隊及び第１８任務部隊」

　さっと腕をたなびかせるとそこには青色の３Ｄ画像が浮かび上がる。青く四角いユニットが３つ。

「空母は第１７任務部隊所属『ヨークタウン』、第１６任務部隊所属『エンタープライズ』および『ホーネット』他艦船は以下の通り」

　青いユニットが立体的に流れるように浮かび上がる。それを説明する情報の洪水とともに。

「たいしたものじゃねぇか」

　別方面からの声。墨子のものである。

「大日本帝国連合艦隊第一航空艦隊・機動艦隊参る！」

　これまた青い軍服をまとった墨子。同じように身をひるがえすと赤いユニットが４つ登場する。

「空母は第一航空戦隊『赤城』および『加賀』、第二航空戦隊『飛龍』および『蒼龍』他艦船は...こうだ！」

　同じように赤いユニットが頭の上に現れる。

「史実では太平洋戦争のターニングポイントとなったこの戦い、ひっくり返して見せるぜ！」

　意気込む墨子。それに対して目も合わせず、知恵はつぶやく。

「史実以上の...一方的な勝利を！」

　それがゲームの開始を意味していた。

　奈穂はようやく理解する。このアリストテレスシステムの真の意味を。ただ単に歴史をシミュレーションするだけではない。歴史の”登場人物”となって歴史を動かす。それは史実通りかまたはそうでないか。生徒同士がバトルで勝負を決めるというシステム。これがこの学園の流儀であるということを。

　もう一度まばゆいほどの光があふれる。その光が晴れたときに始まる———何十年ぶりかのミッドウェー海戦が———

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