第十九章 大真面目な結婚式ごっこ
六十二話 当時の私たちを知っている?
二年前と同じように、先生と水族館の中のレストランでお昼を食べてホテルに急いで帰ってきた私たち。
当時はみんなが戻ってくる前に帰らないと「病欠&療養していた」アリバイを作れないというヒヤヒヤした理由だったけど、今日は午後三時から約束を入れていたからね。
思っていたよりも時間がかかってしまったけど、それでも部屋で一息を付ける余裕を持って昨日のチャペルに二人で向かった。
「お待ちしていましたよ」
昨日から私たちの対応をしてくれているスタッフさんだった。
チャペルの中に入れてもらうと、さすがブライダルフェアということで、あちこち普段は見られないところも見せてくれている。
ここで式を挙げた人たちのリストもずっと残り続けているという。
「私たちにはまだ早いかもですけどね」
「えぇ、そうかも知れませんね。でも幸せそうなお顔になっていて、安心しました」
「えっ?」
水谷さんとネームプレートがついている。どこかで会っているの? それに私たちの関係にも気付いている?
私の顔が緊張モードに入ってしまったのを感じたのか、水谷さんは私の手を取ってくれた。
「二年前の雨の夜、海岸で泣いておられたことをはっきりと覚えていますよ。あの時の私は仕事帰りの私服で原田さんは学校の制服でしたよね」
「あっ……」
思い出した。
あの日はまだ旅行初日で、夜の食事をしたあとに翌日の自由行動について聞かれたんだっけ。千佳ちゃんと話していたことにクレームをつけられたかの、普段なら流してしまうくらいのどうでもいいきっかけだったと思う。
でも、朝から学級委員とあちこちで呼ばれ、バスの中で人数を数えたり、荷物置き場の確保やらバスの号車の旗を持ったり、一息つけていたのは飛行機やバスの中だけで……。
みんなが嫌がる面倒なことを拾っていくことには慣れていたけれど、私だってせっかくの沖縄で、団体行動時間でないホテルの中くらい友達と話してもいいじゃないとその時には珍しく反抗心が出てしまって。
千佳ちゃんが反論しようと言いかけたのを抑えようとして、「私の友達に手を出さないで!」と叫んだんだっけ。
一番近くのドアから、制服姿のまま傘も持たずに雷雨となっていた表に飛び出してしまった。
砂浜の海岸でしゃがみこんで、一人泣いていたところに話しかけてくれた人がいた。この人だったんだ。当時のお礼も言えていない。
「あのとき、こちらの先生が真っ青な顔で名前を呼びながら駆けつけてきて、連れて行かれました。すぐに分かりましたよ。先生の中でこのお嬢さんはすでに特別な存在なんだって」
「恥ずかしいもんだなぁ」
先生も頭をかいている。こんなところに二年前のことを知っている人がいたなんて。
「きっと、ホテルのスタッフの中にも気づいた人は居たんじゃなかったかな。私にお二人が来られたことを連絡してくれたくらいですからね」
ホテルの宿泊者名簿はずっと残っているし、修学旅行はまだ二年前。
いろいろと細かい事件を起こした私たちのことは業務日誌にも書かれていたという。
そして水谷さんは、先生が探すときに叫んでいた「原田!」というのを覚えていて追記してくれていたというんだ。だから、予約の段階から「原田結花」の名前がキーワードになっていて、「以前に宿泊あり」の私たち二人がこのホテルに再来することは分かっていたと。チェックインしてから数分後にはこのチャペルの水谷さんにも連絡が入ったというんだ。
「皆さんにお礼を言わなければならないですね」
「大丈夫です。みんな気づかれないようにサプライズを仕掛けるのが好きな人たちばかりですから」
そんな状況が分かっている人たちがサポートしてくれるのだったら、私たちの微妙な関係を説明する必要はない。
「さぁ原田さん。あの時にはできなかった、お二人の『結婚式ごっこ』の準備を始めましょうか」
水谷さんは私たちが安心したのを確認して、私の肩を叩いて笑ってくれたんだよ。
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