七話 学生お気に入りのお店で!?
「はい、お待たせー! 簡単なものでごめんね!」
菜都実さんが、このお店でもトップの人気を誇るカルボナーラと温めたバケットをカットしてカウンターに出してくれた。
お母さんが慣れた手つきでそれをテーブルに運んでくる。
「いただきます!」
やはり出来立ては美味しい。シンプルな味付けだけど、逆にどんどん食が進む。
昼間の運動でおなかも空いていたせいか、一気に平らげてしまった。
「ごめんなさい……。お行儀悪かったですね……」
恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた私を見て、菜都実さんは大声で笑った。
「ううん。あんなに美味しそうに食べてくれたんだもん。作り甲斐もあるって! 今度から結花ちゃんの時はこっそり大盛りにしておかなくちゃね」
デザートにパンナコッタとアイスティーを持ってきてくれた。
「ねぇ結花ちゃん?」
「はい?」
菜都実さんがテーブルの上の食器類を片付けてから、私の正面に座る。
「身体の方は大丈夫?」
ついさっきまでの豪快なイメージとは違う。そう、茜音さんと同じようなすごく優しい声だ。
「はい。お母さん、皆さんに相談していたんですよね」
間違いない。この暖かい雰囲気は茜音さんと同じ。こんな素敵な友達がいるお母さんが羨ましくも思ってしまう。
「夏休みのお仕事で体力もついたみたいです。お医者さんに聞いても日常生活はほとんど支障ないってことです」
「そっか。じゃぁ、佳織?」
「うん? 菜都実が決めてくれていいよ?」
話は前々からつけてあったのだと思う。お母さんも同じように肯いてくれた。
「よし、そっか……。茜音から聞いたんだけど、九月になったら、今のお仕事は終わりなんだって?」
「はぃ」
それは最初から決まっていたことだもの。夏休みが終われば、休職していた先生も復帰して、私の役目は終わる。せっかく紹介してもらって、みんなとも仲良くなれたのにと少し寂しい気持ちになっていた。
もちろんいつでも遊びに行くことは出来るし、歓迎してくれると茜音さんは笑顔で答えてくれた。でも、生活スタイルは再び平日の昼間に家にいることになってしまう。
「そこでなんだけどね。結花ちゃん、その分をうちで働いてくれないかな?」
「い、いいんですか?」
「もちろん!」
菜都実さんは笑顔で即答してくれた。
きっと、私の体調を取り戻すこと、そして対人恐怖を取り除くリハビリを茜音さんが担当してくれて、その後は次に進めるようになる時期が来るまで、お母さんも安心できるここでの居場所をつくるように話がしてあったのだろう。
「お店としては狭いけど、やっぱり配膳とか手伝ってくれたら大助かりだし。結花ちゃん可愛いし、うちの看板娘になれると思うんだ」
菜都実さんには二人のお子さんがいるけれど、二人とも独立や進学で家を出てしまったのだという。
「最初は、慣れるまで夕方までにしよう? 来年の春に十八歳の誕生日が来て、いろいろ出来るようになったら、夜もお願いするわ」
本当なら通っていた高校ではアルバイトは禁止だった。そうか、今の私にそれはもう関係なくなっているんだ。あとは年齢だけだ。
「私で出来るでしょうか?」
心配顔の私を安心させてくれるように、菜都実さんは両手を包み込んでくれた。
「佳織の娘だもん。それにあれだけきちんと挨拶できれば大丈夫。接客業はそれが一番大事だからね」
「は、はぃ……」
「佳織も、いいよね?」
「菜都実がいじめたら、すぐに引き上げるからね」
お母さんも笑って、私は翌月からユーフォリアでお仕事をさせてもらえることになった。
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