——勧誘——

 縦横無尽に飛び回るモモ。次々と倒されるモンスターの群れ。舞うように低空飛行で蹴りを繰り出す姿は、桃色のつばめだった。


 ジョーも負けじと敵を倒す。両手両足を使い、時間差を補うように順繰りと攻撃する。五秒溜めると右手で攻撃し、次に溜まった左足でゴブリンの顎を蹴り上げる。左肘で水月を打ち、右の回し蹴りで三体のモンスターを一度に蹴り飛ばす。空手の演舞のように、一撃繰り出しては構える。


 合計十七体のモンスターを撃破し、次の獲物を探して後ろを振り返る。そこには一際大きなオークが立っていたが、頭上から降り立ったモモがオークの頭を深く陥没させる。両脚は折れ曲がり、皮膚が体の中心に引っ張られ、両手を上げバンザイの体勢で息絶えたオークの姿だった。


「ラスイチゲットー。何体か数えてないけど私の勝ちでしょ」


 ゆっくりとモモがジョーの元に歩いてくる。頬に付いた返り血を手の甲で拭い、ピッと地面に飛ばす。その後方には両手を上げるオークと横たわるモンスターの死骸。


 死屍累々ししるいるいのなかを歩くモモの姿に、背筋が寒くなるジョー。


「お姉様、お疲れ様です」


 どこに持っていたのか、真っ白いタオルを差し出すジョー。どうにかして勝者の権利を行使される前に機嫌を取っておきたい。


 その時、パチパチと拍手する音が聴こえてくる。ジョーとモモが振り向くと、そこには二人の男が立っていた。一人は背が低く、ブクブクと肥え太り、真っ黒なシルクハットをかぶっている。クルンと曲がった口髭を生やし、いやらしい笑顔を浮かべていた。その隣には痩せ細り、白衣に身を包む黒髪の姿。


「お見事です! 失敗作とはいえ全て倒されるとは想像もしていませんでしたよ!」


 両手を左右に大きく広げ、手の平を空に向けて太った男が話す。芝居がかったモノの言い方だった。隣に立つ男は、ジョーとモモのことなど興味が無いといった様子で、白衣のポケットに両手を入れ、そっぽを向いている。


「さてさて、まさか話もせずに戦闘を始めるとは思ってもいませんでした。随分と交戦的な子供のようですね」


 手に持つ杖をクルクルと回し喋る。


「まずはご挨拶を。わたくし周りからは『エンチョ』と呼ばれています。どうぞお見知り置きを」


 帽子を取り、左足を後ろに下げる。贅肉の詰まった腹を折り曲げ、紳士的な挨拶をするエンチョ。


「わたくしの隣におりますは、この病院の支配者『ドクター』です」


 紹介されたにも関わらず、二人を見ようともしないドクター。


「僕の名前はジョー! 隣におりますは、僕の支配者にして暴虐非道なモモねぇ!」


 脇腹を、割と本気で殴られるジョー。


「それはそれは、なんとも仲睦まじい姉弟ですね!」


 ( 今の見てないの!?) と叫びたいが声が出ないジョー。


「ご挨拶も済みましたし、そちらの御用件をお伺いしても宜しいですかな?」


 口髭を摘み、クリクリといじくるエンチョ。常にニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、値踏みするように見ている。


「要件は二つ。一つ目はそのニヤニヤした顔から髭を引っこ抜いてぶち蹴る。抵抗しないのなら生き埋めの刑で終わらせてあげるわ」


 腰に手を当て、地面を指差すモモ。髭を触る指が止まるエンチョ。


「二つ目が、そのスカした白衣着たおじさんが、Giveギヴを使って命をもてあそぶのを今後一切やめること。そしてヒナちゃんに土下座して謝るなら、あんたも生き埋めで許してあげる」


 ドクターを指差し発言するモモ。それでも全く興味を示さないドクター。


「ホッホッホ! 素晴らしい自信をお持ちのようですね! いやはや先程の戦闘を見れば納得できます。どうでしょう、無駄な争いはやめての組織に入りませんか? お二人なら喜んで歓迎いたしますよ」


 エンチョは両手を前に広げ、招き入れるように発言する。


「あんた達Giveギヴ狩りだったのね」


 組織の発言に、心の中を一抹の不安が色を落とす。


( 敵は想定より大人数かもしれない……)


 レンのことが心配になる。レンは強かったが基本性能は人間。未だに降りて来ない状況に、敵と遭遇している可能性を考慮するモモ。


「いえいえ、そのような低俗な集団ではありません。我々は有能なGiveギヴをお持ちの方をスカウトしております。無理矢理連れていったりはしませんよ。拒絶するなら殺すだけです」


 貼り付けた薄ら笑いをやめ、本性が表に顔を出すエンチョ。背筋が寒くなるモモとジョー。アレは人を殺すことに躊躇ためらいの無い顔だった。返事に一瞬迷いが生じるモモ。この場にはジョーもレンもいた。


「ねえねえっ! それって勝つ前提の話でしょ? 僕達は強いよ、二人揃ったら誰にも負けない。それにお灸を吸えって頼まれてるしね!」


 据えるを吸えると勘違いしているジョー。モモの肩を叩き、呟く。


「僕達は強い」


 モモの中から迷いが消える。ジョーが言う僕達にはレンも入っていた。幾度となく戦闘訓練を繰り替えし、レンの強さはジョーが一番分かっていた。


 顔を見合わせ頷き合うジョーとモモ。ジョーは右手を、モモは左手を前に突き出す。


「「ぶっころばす!!」」


 なかなか意見が合わないジョーとモモ。


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