——デカ鳥とデカ犬——

「そうですか、残念ですが仕方ないですね。では私のコレクションの中から選りすぐりの二体を出しましょう! 存分に楽しんで下さい」


 エンチョが叫び杖を振り上げる。エンチョのGiveギヴ異形嬉戯ナカヨシ・コヨシ』が発動し、二体のモンスターがどこからともなく現れる。


 緑の体表に被膜で覆われた大きな翼をもち、トカゲのような顔立ちで目玉が赤く、その目でギロリとジョーを捉える。その姿は大きく、体長は四メートルを超える。


「ワイバーンだ! カッコいい!!」

 

 ジョーが大声で叫び、はしゃぎだす。


「それに隣は地獄の番犬ケルベロスだよ! 最高にイケてるね!」


 紺色の毛に覆われ、三つの頭を持つモンスター。口からは鋭い牙が見え、獲物を見つけよだれを垂らしている。


「ホッホッホ! 自慢の子供達です。貴方達の拳は私に届きますかな?」


 エンチョは二体のモンスターを撫で、恍惚こうこつとした表情で見つめている。


「あんたって、あぁいうの好きね」


 ジョーがモモに飼いたい飼いたいと、しつこく頼み込んでいる。あまりに煩いので喉にチョップを入れ黙らせるモモ。


「私がデカ鳥やるから、ジョーはデカ犬やりな」


「あ゛ぃ……」


 涙を流しながら返事を返すジョー。

 

「さぁ始めましょう! 楽しいショーの第二幕ですよ」


 エンチョが手にした杖を振ると、同時に動き出す二体のモンスター。


「集中しなっ!」


 モモはワイバーンの噛みつきを懐に潜って交わす。そのまま地面に両手を着き、右脚でワイバーンの胸のあたりを蹴り上げる。二十メートルは吹き飛ばすつもりで蹴り上げたが、十メートル程上空で、ワイバーンは翼を広げ静止する。


「流石にかったいわね!」


 ジョーはケルベロスと相対し、三つの顔から繰り出される攻撃をなんとか避けていた。モモと同じように懐に入ろうとするが右の前足で振り払われる。咄嗟に後ろに飛び退き、避けようとしたが避けきれず、緑の閃光が走りシールドが発動する。シールドごと飛ばされ、球体の中でゴロゴロと転がるジョー。


「どういうことだ?」


 エンチョがジョーのシールドを見て疑問に思う。少年のGiveギヴは強化系だと先程の戦闘で確認していた。


 ポケットから無線を取り出し、狙撃手に連絡を入れるエンチョ。


「他にも仲間がいるのですか?」


 シールドの能力者が近くにいるはずだと思い、確認する。


『私が確認したしたのはピンクの髪の女の子だけよ。スコープで見てるけど近くにはいないわ』


 無線機から聴こえる女性の声が応える。返事を返し、無線を切るエンチョ。


( 遠隔からのシールドか? だったら強度は然程高くはないでしょう)


 些末さまつなことだと割り切るエンチョ。事実モモとジョーは苦戦を強いられている。


 モモは何度も攻撃を繰り出すが、自由に空を飛び回るワイバーンに攻撃が当たらない。


 ジョーに関しては避けるばかりで、ケルベロスのスピードに翻弄ほんろうされていた。


「ふぅっ、ストレス溜まるわね」


 地面に着地して空を見上げるモモ。二十メートル上空をクルクルと旋回しているワイバーンの姿を睨みつける。


 ジョーも何度か隙を突いて攻撃していたが、図体の割に素早い動きのケルベロスに全て避けられていた。


「モモねぇ、こっち手伝ってよ!」


 疲れて動きが鈍くなり、シールドが発動する頻度が増えていたジョー。ベットリと汗をかき呼吸も荒くなっていた。


「コッチも的が動いて手こずってるのよ。どうにかしなさいっ!」


 ドンッと音を鳴らし空へとジャンプするモモ。ジョーはモモからの助けを諦める。


( 師匠の言付けなんだけど、今は仕方がないか)


 ジョーはレンに、攻撃は極力避けるよう指示されていた。理由の一つにGiveギヴが二つあることはアドバンテージであり、敵に隠すべきだと教わっていたからだ。


( もうバレてるし良いよね!)


 ジョーはケルベロスの攻撃を、交わすことをやめる。目を閉じて集中し、深く深く息を吸い込む。ケルベロスはシールドを前脚二本でガッチリと掴み、三つの口を大きく開きガウガウッとうなりりながら噛み付く。鋭い牙と爪はシールドが防ぐが、よだれだけは素通りし、ジョーにポタポタと落ちる。


( もっとだ……うぇっ! まだ足りない……うぅ!)


 汗に濡れた身体に、ケルベロスのよだれがまとわりつく。獣臭が鼻をつき吐きそうになるジョー。


 再度攻撃を避けられ、着地したモモがジョーの様子を見て気付く。


「アレをやるのね。だったら私もモタモタしてられないわ」


 モモは尻をアスファルトにつきそうな程沈める。太腿がはち切れんばかりに膨らみ、筋肉が浮き出る。勢いよく蹴り上げ、アスファルトに蜘蛛の巣状にヒビが走る。空気を切り裂き上空へとジャンプするモモ。


 ワイバーンは慌てて羽をたたみ間一髪でモモの突進を避ける。そのままモモはグングンと上空へと昇っていった。


 高度千メートルの高さで止まるモモ。


「避けれるもんなら避けてみなデカ鳥」


 モモは真っ直ぐと爪先を伸ばし、自由落下する。腕をたたみ空気抵抗を減らす。重力に引っ張られグングンと加速していく。


 ワイバーンはモモを見失っていた。上空に高く上がったモモが、太陽と重なり見えなくなっていたからだ。ワイバーンはどうにか避けようと八の字に旋回する。その動きを見てモモは両手を使い位置を調整する。


「何度も避けられて、あんたの動きは把握してるのよ!」


 丁度モモが高度千メートルに達した時、ジョーの準備も整っていた。


( ……一分)


 ケルベロスをシールドの中から見つめ、ニヤリと笑うジョー。右の拳にも力が入る。


 折角溜めた力も当たらなければ意味が無い。ジョーは拳ともう一つ『声量』を溜めていた。ゆっくりと口を開き、三つの顔目掛けて音の大砲を放つ。その音は六つある鼓膜を破り、脳を揺らす。白目をむいて口から泡を吹くケルベロスに、ジョーが別れの挨拶をする。


「ごめんね、倍々バイバイ!!」


 八十キロ近いジョーのパンチ力。六十倍になったその攻撃力は約五トン。易々とケルベロスの筋肉質な腹を貫通し、大きなトンネルを開ける。


 ジョーが倒したケルベロスの死体の上に着地するモモ。トントンッと軽やかに降り、ジョーの元へくる。


 少し遅れてワイバーンが落ちてきた。ケルベロスと重なるように生き絶えたワイバーン。その胴体にも、ポッカリと大きな穴が空いていた。


 ジョーとモモがハイタッチして振り返る。そこには青褪めた顔をした、エンチョの姿があった。





 


 


 





 

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