——俺はなる!——

「良かったね師匠!」


 アニメの質問に答えられず、漫画の意見に同意出来なかったレン。あれよこれよと答えを言っても認めてもらえず、最後はモモが助け舟を出した。


「コモリン、この人のGiveギヴ凄いのよ、何とティッシュが出せるの」


 モモはレンに目で合図を送り、理解したレンが手の平からティッシュを出す。


「……ティッシュじゃ無くて【ちり紙様】だって言ってるだろ、ったく」


 鼻をかむにもお尻を拭くにも使える貴重な紙。トモダチノ国では慢性的に不足しており、調達部隊が持ち帰る数少ないチリ紙を分け合って使っていた。それも最近ではあまり見つからなくてなっている。コモリンに取っても絶対に手放せない生産系Giveギヴだった。


 ジョーを先頭に村の中に入る一行。得意げにジョーがすれ違う人を説明してくれる。

住人の殆どが『クラッパー』と呼ばれるタイプの人間だった。元々は使えた能力だったが、今は意味がなくなり、皮肉を込めたスクラップと、その状態にあらがスクラッパー戦う者とを組み合わせて呼ばれていた。


「この国だけでものお金持ちが十人は居るよ!」


 Giveギヴ人気ランキング堂々の一位に輝く【世界一の金持ち】、それは全人類の四割もの人間が願った能力。四割の人間が平等に平均された金額を手に入れた。


「今はかねに価値なんか無ぇのにな……」


 必死に重い水バケツを運ぶ中年の男性を見て、レンがボソリと呟く。デクが中年の男性が持つバケツを、自分が運ぶと言っていた。


「いやいや大丈夫ですよ。コレは妻に頼まれた水なんです、自分で出来ることは自分でやる、コレがこの村でのルールですから。気持ちだけで充分です、ありがとう」


 頭を下げ立ち去る男性。


 他にも株価を当てるGiveギヴ、テストで満点を取るGiveギヴ、物を販売するGiveギヴ等々。色々なクラッパーの人間を紹介された。


「あっ! アチコさん!」


 モモが手を振り駆け寄る。


「こんにちはモモちゃん。今日は随分と……、特徴的な人達を連れて帰ってきたのね」


「良いのよアチコさん、オブラートに包まなくて」


 清楚で知的な印象のアチコ、楽しそうに女子トークに華を咲かせている。ジョーがみんなにアチコのことを紹介してくれた。


「アチコさんはこの村で一番凄いGiveギヴの持ち主なんだよ! アチコさん、まずは僕達どこに行くべきかな?」


 ジョーがアチコに尋ねる。


「フフッ、もう決まってるんでしょ? そのまま真っ直ぐ進んでケン先生の所であってるわよ」


 お上品に笑い、アチコが道の先を指差す。


「アチコさんのGiveギヴは【強制一択アッチ・コッチ】、二択の場合必ず正解を選んでくれるんだ!」


 母親の所に行こうかケン先生の所に行こうか迷っていたジョー。殆ど決まっていたが能力を見せたくて質問していた。


 アチコはこの国唯一の、自らの足でやってきた人間だった。安全に暮らせる場所を探し、一人でコモリンの質問にもパスしている。普段はケン先生の助手をして働き、ケン先生と二人でこの国の進むべき道などを模索している。


「フンっ、大したこと無いGiveギヴじゃ無いですか。良く今まで生き残れましたね!」


 メルがアチコのGiveギヴをバカにする。


「アチコさんの凄さが分からない時点で、アンタの底が知れるのよ。次何か言ったら、一週間畑の横にカカシ代わりで埋めるから」


 ヒイッと声を出すメル。ジョー達はアチコと一緒にケン先生の家を目指す。


 そこには古い木造の学校が立っていた。横に長い平家の建物で、校長室を住居として利用しているケン先生。


「コンコンチワーっす! ジョー入りまーす」


 ジョーが独特の挨拶で声をかける。扉のノック音と挨拶を掛け合わせた、ジョーオリジナル挨拶。


「はい、コンコンチワス。今日も無事帰ってきたねジョー君、モモちゃん」


 真っ白な白髪と、長い口髭をたくわえ、ケン先生が優しい笑顔で迎え入れる。


「ケンちゃん大工さん見つけて来たよ!!」


 ジョーはレンや双子、デクとメルなど簡単な経緯と能力の説明付きで話す。不足分はモモが補っていた。


「凄いじゃないか。今最も必要な大工だけで無く、電気や水道まで連れてくるとは」


「おいっ、オレ達の名前は電気や水道じゃねえ! 次言ったらぶっ飛ばすぞ!」


「あぁ、すまんすまんつい興奮してね。コウ君、ブル君許しておくれ」


 頭をポリポリとかき謝るケン先生。


「それにメル君? だったかな」


 あまり見た目に似合わぬ名前に確認してしまう。


「……そうです」


 否定しようかと思ったがカカシになるのが嫌で受け入れるメル。


「実に素晴らしいGiveギヴですね。このご時世、一方的とは言え離れた人間に連絡が取れるのはありがたい」


 やっと自分のGiveギヴの凄さが分かる人間に、顔が綻ぶメル。用途は違ったが。


「さすがご老人、良く分かってらっしゃる。どこぞの小娘とは違いますね!」


 メル、一週間のカカシ生活が決定した瞬間。


「ねっ、ケンちゃん。大工さんは見つかったから次はどうしたら良い?」


 ジョーは次なるミッションに心躍らせる。


「そうだなぁ、ちょっと待っておくれ」


 ケン先生は瞼を閉じ、思考に耽る。脳内では様々な書物が飛び交い、答えのある一冊を導き出す。ケン先生のGiveギヴ正典漫画ブック・ザ・アンサー】によって。


「大工を仲間にした。すでにコックは居る……航海士はアチコさん、考古学者はまぁ私がするとして次は……医者か音楽家じゃな!」


 トモダチノ国には医者がいない。今の所ケン先生の知識でどうにかなっているが、今後のことを考えると医者は必要だった。


「アチコさん、先に探すはどちらかな?」


 アチコがGiveギヴを使わずに答える。


「医者です」


「そっか! じゃどっちに進めば会える?」


 ジョーがアチコに尋ねる。アチコは今度はGiveギヴを使って答えをだす。


「北ね、でもちょっと遠いから今回は私も着いて行くわ」


 道案内としてアチコが立候補する。


「アチコさん行くなら私も行く」


 心配元のメルも埋めるし、レンも居るから大丈夫だろうと安心するモモ。


「僕も絶対行くよ!」


 ジョーが手を上げ、医者探しのメンバーが決まる。出発は一週間後に決まった。


「ところで大工だとか航海士とかってマンガの……」


 コウとブルが疑問を口に出す。最後まで言い終わる前に、ジョーとモモが止める。


「思っても口に出してはダメ! もし口に出したら最後……、この物語は終わるわ」


 口を自分の手で塞ぎ、コクコクと頷く双子。


 危ない危ない……。

 



 

 

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