——難解な門番——


 ジョー達は、山間の窪地にある国の入り口へと着いた。そこには手作り感のある囲いがあり、等間隔に並んだ杭と、工事用のロープが張り巡らされていた。


「ようこそ我が『トモダチノ国』へ!!」


 ジョーが声高々と国の名前を言う。


「そう呼んでるのあんただけだから、みんな寄せ集め村って呼んでるっての」


 モモが冷たく言い放つ。


「確かに国ってよりは村だな」


 レンが笑って言う。


「ふんっ! 何ですかこのさびれた場所は」


 メルがブツブツと文句を垂れ流す。絶対にコモリンとか言う男に嫌われて、帰ってやると決意していた。


「アレっ? なんか変っすよこの場所。さっきから入ろうとすると足が真逆に行っちまうっす」


 コウが不思議がり、レンに言う。ブルも同じようにクルクルと回っていた。


「凄いでしょ! コモリンのGiveギヴ閉鎖空間オンリー・ロンリー】。最初は自分だけの空間を想像したらしいんだけど、それじゃ生きて行けないことに気付いたみたいで、自分と気に入った人や認めた人は入れるように創造したんだって。今はこの囲いの中が、コモリンにとっての部屋なんだ!」


 コモリンの家族は出先で死んでしまっている。食料が無くなり、自宅で死にそうになったコモリンは、助けを求めて部屋を出た。その時にジョーとモモに出会っている。それから何度か試し、試行錯誤して、囲いさえあればコモリンが自分の居場所として認識でき、能力を発動出来ることに気付く。今では立派にトモダチノ国の門番として貢献していた。


「意識誘導してるそうよ。目で認識出来ても、入ることは出来ない。だからこの中はモンスターも来ないし、敵も来ない。安心して眠れる場所よ」


 モモがジョーの説明に付け足す。今の世の中、安心して眠れる場所がどれほど貴重か、外で生きてきた人間なら痛いほど分かる内容だった。


「だが仮に、コモリンの認めた人間の中に、悪人がいた場合はどうするんだ?」


 レンが気になり質問する。


「その時は私かジョーがぶっ飛ばしてる。今回も若干一名怪しいしね」


 モモはあからさまにメルを見ながら言葉を発する。


「だとしても危ないだろう。一度取り決めた人間だけでひっそりと暮らすのが、身を守るベストな選択だろ?」


「そうなんだけどね。パパの方針なの『元々の悪人か、この世の中で仕方なく悪人になったのか、一緒に暮らしてみないと分からない』ってね。実際外で悪いことしてる人達も、自分の身が安全だと分かると変わったりするの。だから取り敢えず一旦受け入れてる」


 素直に父親の言葉に従うモモに、感心するレン。


「まっ、どっちみちコモリンに認められなきゃ入れないけどね!」


 ジョーがあっけらかんと言い放ち、入り口の横にある一際大きな木に登って行く。木の上にはこじんまりとしたツリーハウスが建てられていた。パンっと窓が開け放たれ、中から顔を出すジョー。


「今回は結構濃いメンバーなんだ、どうかな?」


 ジョーが部屋の中に居るコモリンに聞く。


「分かった、見てみるね……」


「おけ! 今からコモリンに質問されたら答えてね、じゃまずブル君とコウ君行ってみよー!」


 ツリーハウスの窓からジョーが叫ぶ。


「「おうっ! 何でもきやがれ!」」


 声がハモるブルとコウ。


「……あなた達にとってマンガとは?」


 ギリギリ聞き取れる声で質問するコモリン。


「マンガ!?……そうだなぁ、俺に取っては教科書みたいなもんだな。マンガから色々教えてもらったし」


 ブルが答える。


「そうだな、字を読めるようになったのもマンガだったしな! 良いこと言うなブル、教科書だ教科書!」


 コウが同意する。


「……合格。通って良いよ」


 コモリンの言葉にハイタッチする二人「お先に入っときます兄貴」と言って中に入って行く。


「じゃ次はデク君! 頑張って」


 デクがビクビクしながら前にでる。図体に似合わず臆病なデク。もし合格しなかったらどうしようかと不安な表情。


「……合格、通って良いよ」


 質問もされずに合格するデク。コモリンはデクの様子に共感する部分があり、直ぐに通す。


「良かったねデク君! じゃちょっと怪しいメル!」


 何故かメルだけ呼び捨てのジョー。


「ふんっ! 私は別に仲間に入りたいなんて言ってませんからね。そんな上から姿も見せないで、偉そうにしてるような奴の質問。私は答えませんよ!」


 不合格になりたいメルは、コモリンに悪態を吐く。


「ぶっ飛ばしてこようか?」


 コモリンにジョーが聞く。ドキッとするメル。


「……ううん良いの、確かに姿を見せないのは偉そうだったね」


 窓に姿を表すコモリン。前髪で目が半分ほど隠れ、丸い眼鏡をかけている。一年の殆どを室内で過ごす為、肌は透き通るように真っ白い。歳は十八歳、可愛らしいが姿を表した。


「そっそっそっ、そのTシャツは!?」


 男だと思っていたメル。豊満な胸に引き伸ばされたらTシャツへと目が釘付けになる。

バッと黒いコートを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外すメル。そこから現れた女のキャラクターが描かれたTシャツは、コモリンと全く同じキャラクターTシャツだった。


「そのTシャツは『ホームレス魔法少女クララ』!!!」


 感動し、ワナワナと震えるメル。


「……魔法を撃つなら?」


 突如『ホームレス魔法少女クララ』の決め台詞を質問するコモリン。即答するメル。


「金をくれっ!!」


 不合格になることも忘れ、答えを言うメル。


「……文句無し。満点合格、通って良いよ」


 嬉しそうに笑うコモリン。


「やったーー!!…………あれ??」


 ガッツポーズをして喜ぶメル。現実に意識が戻り、ハッとした表情を浮かべる。


「何だ何だ? 随分と簡単そうだな」


 アッサリ通されるメンバーを見て余裕の笑みを浮かべるレン、意気揚々と前に出る。


 レンがコモリンに認められるまで、一時間かかった。 

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