第18話

 道に沿って歩いていく。


 途中とちゅうにあるだんご屋を横目にする。まばらであるも客らしき人がいることから営業中であることがわかる。帰りに寄ることにしよう。そう考えながら道に沿って前へと進む。


 しばらく進むと再びの鳥居とりいが見え、本格的な敷地内に入る。


 砂利場じゃりばが増え、続く参道さんどうがなければ向かう方向がわからなくなりそうなほど広大こうだいだ。


 進む先にある小さな橋を渡ると、立派りっぱ随神門ずいしんもんが見えた。


 後続こうぞく邪魔じゃまにならないよう立ち止まり感嘆かんたんの声をあげ見上げる。


「立派なモノをお持ちで」

「その表現はどうなんだ?」


 気づいていないのか、不思議そうに俺の顔をのぞき込んでくる。


 門をくぐると、広い庭に出た。


 社務所しゃむしょ授与所じゅよしょ御社殿ごしゃでん――大きな神社なら当然あるだろう建物がそろっている。中心に大木だいぼくがあるのもまた、お決まりだろう。この場合、御神木ごしんぼくと言った方が正確かもしれない。


 長い歴史を感じる。


 御神木に隠れてわかりづらいが、続く先に拝殿はいでんがある。


 横並びで同時に7人程が参拝さんぱいできる広さで、この神社がいかに立派なのかを物語っている。


 せっかくなので参拝していく。


 終えてから、後続こうぞく邪魔じゃまにならないよう移動しながら雑談にこうじる。


純慶すみよしさん、なにお願いしましたか?」

「これからも元気でいられるように、だな」


 父さんのこともあるし切実せつじつだ。自分の力だけではどうにもならないだろう。だからこその神頼かみだのみ。


「わたしはなにをお願いしたと思いますか?」

「さぁ、なんだろうな」


 光愛の願い……この前、漫画「私たちのコーラス」のキャラ、叶華のあみたいになりたいと言っていた。


 それを言ってもよかったが、ぬすぎしていたところがあるから気が引ける。


 堂々どうどうとすぐ隣にいたのに盗み聞ぎというのも違和感いわかんがあるも、当人とうにんが気づいていなかったのだから間違まちがいではないだろう。


「なにをお願いしたんだ?」

内緒ないしょです」


 髪を大きくらしながら嬉々ききとした表情でこたえるものだから、よっぽどその願いがかなうのが楽しみなのだろう。


 いかけておいて、その答えが内緒だとは……。


 興味がないわけではないが、当人に答える意思がないのなら仕方がないだろう。


「あ! 純慶すみよしさん、おみくじですよ。引きましょう」

「そうだな」


 光愛みなが指したのは参拝さんぱい箱の横。人が大勢いて取りに向かうのは難しそうだ。


 光愛みなもそれはわかっているだろうにけ出し取りに向かおうとする。


 しかし、やはりと言うべきか、人の壁にはばまれ目的地に到達するのは困難だ。


 それでも、どうにか手に入れようとしている。


 そんな光愛を横目に辺りを見渡す。


 おみくじ、なんて木箱きばこに紙が入っているだけ。なら他の場所にも設置されていてもおかしくはない。


 そう考え探してみる。


 思った通りあった。


 お守りや札などが購入できる授与所の隣にそれらしき木箱がある。おみくじのみがあり、流れ作業で購入できるからか、人はいるも列と言えるほど混んではいない。


 光愛にそのことを知らせようと――


「手に入れました」


 ――したところで、おみくじを手にした拳を高々と掲げた光愛が参拝箱横に立っていた。


 待てば人だってさばけるだろうにせっかちなのか、それとも高揚がそうさせるのか。


 なんであれ嬉しそうな笑みを浮かべた光愛を見られて、幸福が胸を満たす。


 はしゃいだ足取りで、しかも下駄げたで、階段を下りようとするものだから、足を踏み外し転びそうになる。


「すみません、ありがとうございます」


 急いで駆けつけたかいあり、転んでしまう前に支えられた。


「大丈夫か?」

「……はい」


 転びそうになったのを恥じているのか、ほおを赤らめている。


 上目遣うわめづかいで見てくるもんだから俺まで恥ずかしい。


 視線を感じ見回してみると注目を集めていた。


 耐え切れんばかりに羞恥しゅうちが込み上げてくる。


 急ぎ、光愛の手を引いてその場から離れることにした。

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