第17話

 約束の日がやってきた。


 本日は土曜日で、愛春あいは慶太けいたは仕事が休みの母さんに任せてるから問題ない。


 待ち合わせ場所には駅前の広場を選んだ。店長に出会った場所で、バイト先の知り合いに遭遇そうぐうする可能性はある。


 ただ、デートである以上、それなりのところに行く必要があるだろう。


 近くの商店街では特別感ない。だからといって、夕方にはバイトがあるから、そんなに遠出もできない。


 以前、プールに行った際、海に行きたいと言ってはいたが、それこそ難しいだろう。行って帰ってくるだけならできるだろうが、それを求めているとも思えないしな。


 そう考えると、ここぐらいしかない。


 最近だとバイトついでに散策することもあるから、ここら辺に詳しくなってるのもあるしな。


「おはようございます。すみません。待たせてしまいましたか?」


 デートの計画を頭の中でっていると、光愛が待ち合わせ場所にやって来た。


 胸にリボンがついているピンクのワンピース。髪もピンクではあるも、それよりも薄い。いちごミルクと同じ色とでも言えばわかりやすいだろうか。


 空気感から気合いが入っているのを感じる。


「いや、今来たところだ」


 気をつかわせないよう無難ぶなんな返答をする。


 本当は待たせないようにと、1時間以上も前にいたんだけどな。


 そのことは光愛には内緒ないしょだ。


 すかさず、その場から離れる。


 光愛には今日のデートプランは内緒で、俺に全部をまかせてもらうことになっている。


 買い物したり、プールに行ったり、したけれど、ちゃんとしたのは今日が初めてだ。


 そう思う度、光愛には申し訳ないことをしていたんだという罪悪感ざいあくかんにさいなまれる。


 デートプランに自信はないが、それでもこれまでのお礼はしっかり伝えたい。


「少し歩くが大丈夫か?」

「はい! 今日はよろしくお願いします」


 人がにぎわう駅前から離れていく。


 休日であり、向かってる先が観光スポットであるためか、駅前を離れても人混みはある。駅前よりかは少ないが。


 車がすれ違えるかどうかも怪しいほどに狭い道を抜け、開けた場所にでる。


純慶すみよしさん、見てください! 浴衣ゆたか、レンタルできるみたいですよ」


 光愛に言われ見てみると「浴衣のレンタルやってます」というはたかかげた店が見える。前に通った時は気がつかなかったが……さすが女の子といったところか、よく気づく。


 表情からして興味きょうみ津々しんしんだ。行き先に神社があることから考えても、こういうお店があるのは不思議ではないのだけれど、今日のプランを考えるとなぁ。


 俺のことを気遣きづかってか、あきらか浴衣ゆかたを着たいという思いが込みあがっているのに、それを言葉にしようとはしない。


 見かねた俺は提案することにした。


「借りるか、浴衣」

「ふぁ~」


 ほおゆるうれしそうな声をあげる、光愛みな


 その様子から今後の予定の事なんてどうでもよくなった。


 なんてったって今日は光愛に楽しんでもらうことが最優先だ。


純慶すみよしさんも着ましょうよ」

「ああ、そうだな」


 せっかくの機会であり、光愛だけに浴衣を着させるのも気が引けたため、俺も着ることにした。


 レンタルだけでなく、着つけもしてもらったため、相応そうおうだ。


 このままではバイト代がすべて飛びかねないと思ったが、そんな日があってもいいだろう。


 着つけを終え、荷物をお店に預けてから目的地へと向かう。


 光愛が着たのは桃色の生地きじ色鮮いろあざやかな花柄はながらの浴衣だ。あかおびむすんでいる。下駄げたの音をらしかろやかなステップをみせた。


 先ほど、歩くことを伝えていたのを忘れているのだろうか。まぁ、店員の口車くちぐるまに乗せられ、同じようにいている俺が言えたことではないが。


「彼女、喜びますよ」


 なんて言われて断れる男はどれだけいるだろうか。


「どうですか?」

「ああ、いいんじゃないか」

純慶すみよしさんも、似合にあってますよ」


 なんだかなぁ。そう快活かいかつかつストレートに言われると、歯切かぎれの悪いことを言った自分をじたくなる。


 実際はかわいいし、すごい似合ってる。


 だからこそ、直視ちょくししづらく、感想も言いづらかった。


 これからこの姿の光愛と一緒することを考えるとドギマギしてしまう。


 きなれない下駄げたのせいで、歩きづらさも一塩ひとしおだ。


 お店を出て少し歩くと、鳥居とりい狛犬こまいぬ出迎でむかえてくれる。参道さんどうに入ったのだ。


 大木たいぼくが立ち並び閑散かんさんとしている。近くに喧騒けんそうに包まれた駅があるとは思えない。


「うわー」


 光愛はくるっとターンを決め、歓喜かんきまいをみせる。動きに合わせてそでも舞う。


 これから神社に向かうシチュエーションとよく合う。


 まだこれからだというのに、すでに嬉しそうだ。大金をはたいたかいがあったかもしれない。

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