第16話
「
もういい? いや、なにが?
そこには光愛がいて、あろうことか、スカートの中を
目のやり場に困りつつも、なにをしているのか観察しにかかる。
集中しているようで、こちらにはまだ気づいていないようだ。
なにをしているのかといえば、漫画を読んでいた。
タイトルは『私たちのコーラス』で、内容は確か、
タイムリーな。やはり光愛は中学生時代のことを
にしても、これは想定外だ。集中しすぎて目の前にいるというのに、まったく気づいてくれない。
「
言うだけ言って光愛母はどこかに消えていってしまった。買い物にでも出かけたのだろうか。
なんにしても光愛と2人きりのようだ。
姉の所在はわからないが、たとえ家にいたとしても、わざわざ近づこうとは思わないだろう。
今は家が狭いから難しいが、父さんが亡くなる前に住んでた
あいつらも同じで俺の友達が来た時、顔を出すことはなかった。
恐らくだけど、どこも同じだろう。知らずに対面することはあるが、話し声でもすれば、むしろ
会いたくない、とまでは言わないが、得するわけでもないからな。実際、以前に来た時、おそらく姉に会っている。その時は軽い
光愛母がいなくなり、本格的にどうしたものかと思い悩む。
このまま光愛が気づくのを待とうものなら、
とりあえずとばかりに近づいてみる。正面から行く勇気はない。そもそもローテーブルがあるため、
気づいてもらおうとしているはずなのに、不思議と物音を立てないよう
すぐ隣まで来たというのに、まったく気づく
仕方なしに、俺は光愛が読んでいる漫画を1巻から読んでいくことにする。
全部で何巻あるのかは知らないが、ここにあるのだけで14巻ある。
光愛が今、読んでいるのは4巻だ。じっくりと読んでいるようで進みはそんなに早くない。俺は追いつくことがないよう同じぐらいのペースで読み進めていく。
主人公の女子、
数々の部活動を体験し、どれもいいと思うも、どこか決め手に欠けていた。
そんな時にある女子に出会う。名前は
演奏を聴いた蓮菜が一緒に合唱部に入って欲しいと
入部手続きをしようと、先生に
そして、友達の友達なんかも含めて
しかし、校内の部活動の規定は5人以上であるも、コンクール出場には6人以上必要であることが発覚する。
顧問の先生が
そんな折、近隣中学に同じく人数不足に悩まされているところがあると、顧問の先生から知らされた。
コンクールには2校以上が合同で参加することもできる。
歓喜するのも
そんな時、少女が立ち上がる。叶華だ。彼女は最初こそ気乗りせず、コンクール出場が
ところが、本番中に叶華が気分を悪くし、途中でステージを降りてしまう。
自ら説得しておいて、と
本番から間もなくしてから
それを聞いた蓮菜が叶華が演奏できるように協力していく。
ここまでで10巻の内容だ。
ゆくゆくは
俺が10巻を読み切ったタイミングで、光愛はこの場にある14巻を読み切っていた。
「叶華みたいになれたらなぁ」
俺が未読である11巻から14巻の間になにがあったのかわからないが、おそらくは叶華がコンサートという大多数が見ている前で堂々と演奏をやりきる様子が描かれているのだろう。
そう予想し、俺は光愛にできることを考えてみる。
系統は違うけれど、俺も水泳をやっていた。
速さを競うのが常であるも、キレイなフォームや、そもそも泳ぐ様を見せることを思うと、共通点はあるだろう。
なにか力になれるはずだ。
「まかせろ。どうにかする」
「いまさらどうにも…………?
「ずっといたぞ。
「そんな前から!? 声かけてくださいよ」
声はかけたと言おうとしたが、してなかったことに気づき、言葉を換える。
「いや、悪い。声かけても気づかないと思って、認識されるのを諦めてた」
「
自身に照らし合わせ、嫌なことを思い出させてしまったか、しょんぼりと
やはり
俺はいまだ具体的な解決策に思い至らないも、それでもなんとかしようと考えを
「それで? 純慶さんはどうしてここにいるんですか?」
「特にどう、ということはないが……遊びに来た、ってところかな」
「……そうですか。でも、すみません。わたしが気づかなかったばかりに。この時間ではなにかしようにもなにもできませんよね」
この時間というのは、すでに夕暮れ時で、真夏である今だと18時を過ぎている。
確かに今からなにかするのは難しい。特に俺の場合は弟や妹のことがある。母さんに任せておくこともできるだろうが、仕事で疲れているだろうことを思うと、気乗りしない。
家族のことを考えるのならば、今すぐにでも帰路につくべきだろう。
だが、俺は光愛が心配でここまで来た。なにもせずに帰るわけにもいかない。だからといって、すぐに解決できることでもなさそうだ。
考えをまとめていると、光愛から提案された。
「さすがにこのままというわけにもいきませんし……よろしければ今度、日を改めて、ということでどうでしょうか」
「そうだな。なら、今度の土曜日はどうだ? バイト前なら時間あいてるし、お金も入ったから。2人でどこか行こう」
「デートですね!」
「……お、おう」
思い返してみると、2人で出かけるのは久しぶりな気がする。
俺はバイトで、
そう考えると、光愛になにかあった、というよりも、俺の気が回らなかっただけなのかもしれないな。
だとしたら約束を取り
とはいえ、
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