第13話
「まさか、委員長の
「
「どうだろう。馬の被り物をしたメイドさんはいたけど」
「それが沙也花だったんでしょ」
「そうは言うけど普通は気づかないよ」
「そう? バレバレだったと思うけど?」
さも気づかない方がおかしいとばかりに
そうは言うけれど、逆の立場だったら気づかなかったんじゃないかな?
わたしは別にメイドさんを見に来ているわけじゃないし。
そんなことを考えながら、純慶さんがいるであろうスタッフオンリーエリア――キッチンへと視線を向ける。
向けたところで純慶さんの姿を確認することはできない。キッチンの様子は壁に阻まれ、見ることができないんだよね。
見えるのはカウンターに並べられた酒瓶とドリンクの機械。あとは空のグラスが並べられた棚。
そんなのを見たところでなんにもならないと知っているはずなのに、ついつい目を向けてしまう。
だけど、それは、別に無駄ではない。
商品をメイドさんにパスする際に少しの間だけど、純慶さんが姿を現すからだ。
メイドさんが少ない時なんかはカウンターで飲み物の提供をすることもある。
もしかすると、カウンター席の方が純慶さんと接触するチャンスは多いかもしれない。
だけど私はあえてそこには座らない。
物理的な距離が近づいてしまっては仕事の
私は別に邪魔をしに来たわけじゃなくて、メイドさん――若い女と純慶さんがよろしくやっていないかを確認しに来ただけなのだから。
それならば、どこに座ろうと、変わらない。
これは、そう。ちゃんと見てるよ、というポーズなのだから。
今日も私は、純慶さんが他の女に奪われないよう目を光らせる。
すると、加奈愛ちゃんから突然の話題を振られた。
「そういえば、光愛は中学時代、合唱部だったのよね」
「……うん。そうだよ」
「高校でも続けたいって思わなかったの?」
「別に思わなかったなぁ。元々、友達に頼まれてやってただけだし」
「そうなんだ。まぁ、うちの学校、合唱部ないからどちらにしろ、できないか」
「……そうだね」
中学生の時、合唱部のコンクールでピアノの演奏してくれないかと友達に頼まれたことがある。
当時、わたし以外にピアノを演奏できる生徒は部内におらず、顧問の先生がしていた。
そんな折、音楽室でピアノを演奏するものだからバレてしまった。
でもそれは仕方のないこと。わたしは幽霊部員で内情を知らなかったのだから。
ここまでなら、青春を
ただ、正直、いい思い出ではない。
気持ちを落ち着かせるべくいちごミルクをストローですする。
ドリンクにいちごミルクがあるなんてシャレてる。ちなみに、加奈愛ちゃんはバナナミルクだ。
食事をすでに終えてる。加奈愛ちゃんが初めてということで、定番のオムライスを食べた。
純慶さんがキッチンをしているからか、おいしかった。
ママの野菜たっぷりオムライスとは明らかに違う。
だからといって、一般的かと言われると、それも違う。なにかしらのひと手間が加えられている。なにかはわからないけれど。
口の中に広がるいちごミルクの
見えるはずもないのに、調理現場を
すると、キッチンがあるスタッフオンリーエリアから、これから勤務開始であろうメイドさんが姿を現した。
彼女はカウンターにあるタブレットをタップしている。
純慶さんから聞いた話だけど、あれをすることでどれくらいバイトをしたのかの記録を残すことができるらしい。
わたしは彼女を初めて見た。……いや、違う。
厳密にはメイド服姿の彼女を初めて見た。
「え⁉」
彼女は目を見開き、驚きを
わたしも似たような表情をしていることだろう。
まるでスロー再生を見ているかのように、徐々に近づいてくる。
そうして目の前にやってきて、はっきりとその姿を確認したことで、間違いないと確信した。
「……
「……
実菜ちゃんは中学時代、わたしを合唱部に誘った張本人だ。
付けてる名札に「まな」と書かれていて、本名をひらがな表記している。
中学卒業を機に
彼女と再会したことで思い出したくもないことを思い出してしまう。
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