第2話

 1学期の学期末テストを無事に終え、これから夏休みに入ることから、俺はバイトすることにした。生活に余裕よゆうがあるわけではないため、少しでも足しになればと思う。


 希望としては土日祝日のみでもシフトを入れてくれるところだ。母さんの仕事が完全週休2日制で平日はほとんど家にいない。愛春あいは慶太けいたのことを考えると、どうしても希望にうところを探す必要がある。


 そうして俺が選んだバイト先は――


 ――メイド喫茶のキッチンだった。


 なぜそうなったのか語っておこう。


 俺は条件を思い浮かべながら駅前を歩いていた。ここならバスで通うことができる。近くの商店街でもと思ったが、いい感じの求人が見つからず、範囲を広げた。


 希望に添うところを見つけるべく、ふらふらしていた時のことだ。駅前の広場に沈痛ちんつう面持おももちで缶ビール片手に溜息を吐いている女性がいた。


 夏本番直前の真昼間まっぴるまという暑い時期だというのに、この人は一体なにをやっているのだろう。一応は木陰こかげではあるも、それでもしたたる汗からして暑そうだ。


「ぷはぁ~。どっかに土日だけでもシフト入ってくれる人はいないもんかねぇ~」

「詳しく話を聞かせてくれますか?」

「あ?」


 うろんな目をしているその人は、缶ビール片手に酔っぱらってさえいなければ美少女としょうしても足りない程の魅力をかもし出している。


 ベンチに腰をかけているため、はっきりとはわからないが女性の平均程の身長だろう。キレイな金髪は染めているのだろうけれど、そう思わせない美しさがある。


 明らかに俺よりも年上であるにもかかわらず、おさなさを感じさせる雰囲気がある。


 こう言っては失礼だろうが、ヨレヨレなおばあちゃんが困っていたらついつい手を差し伸べてしまう。そういう雰囲気を醸し出している。


 だからだろう。反射的に声を掛けてしまった。ところで、声を掛けておいてなんだが、キャバ嬢とかではないよな。


「うっ!」


 口を押さえ、今にも吐きそうにしている。心の中で、おばあちゃん大丈夫? と声を掛けるも、そもそも年寄りが酒を飲みすぎて吐き気をもよおすのは想像しづらい。


 そう考えると目の前にいるのはただの酔っぱらいではなかろうか。おばあちゃんではないことに気づいて幻滅したわけではないが、声を掛けて失敗だったかもしれない。


「すまない少年、肩を貸してはくれないか?」

「別にいいですけど、どこへ?」

「私の店に行く。そこで詳しく話を聞こうではないか」


 どうやら取り合ってくれるようだ。こちらから声を掛けておいてなんだが、心配しかない。だが、肩を貸して欲しいと言ってるし。これは1人では移動できない程、酔っぱらっている、ということか。


 バイトの話を抜きにしても放って置くわけにいかなそうだ。今にも吐きそうだし。言われた通り肩を貸し、彼女のお店へと向かうことにした。

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