第2章

第1話

純慶すみよしさ~ん」


 俺、白木しらき純慶すみよしがアパートの一室にあるリビング兼寝室でくつろいでいると光愛みなから助けを呼ぶ声を掛けられた。


 光愛は転校初日に交際することになった相手で、妹の愛春あいはや弟の慶太けいたの面倒をよくみてもらっている。


 今日もその例にもれず、お風呂場で愛春や慶太と水浴びで遊んでいた。はずなのだが、どういうわけか、ダイニングにあるテーブルの周りを濡れた体で愛春を追い回している。


「光愛お姉ちゃん、こっちだよ~」

「待って~」


 元気なのはいいことだ。なにも問題ない。追いかけっこするのも、ケガさえ気をつけてくれさえすれば許容範囲だろう。


 だが、先ほどまで水浴びをしていて、突如とつじょとして始まった追いかけっこ。ゆえに、小学2年生の愛春のみならず、同級生で高校2年生の光愛までもが一糸まとわぬ姿をさらしている。


 俺は必死に視界から光愛を外そうとするも、


「純慶さん。愛春ちゃん、捕まえてください~」


 どういうわけか、俺に助けを求めてくる。


 小柄で小学生を思わされる体躯たいくであるも、一応は高校生。異性の裸体を不用意に見るべきではない。


 過去に見てしまったことはあるが、あれは不可抗力だ。今回のとは違う。ゆえに、目をらす。


 ねがわくばケガだけはないことを祈る。


「お兄ちゃん、光愛お姉ちゃん、ぺったんこ~」


 禁句とも言える単語を吐きながら、全裸で俺に抱き着く愛春。


 以前、胸がないことを指摘したら、怒らせてしまったことを忘れたわけではあるまい。


 あの時は怒って帰っちゃんだよな。それで愛春は泣いていたというのに。


 恐る恐る光愛の様子を――


 ――今は見れないんだった。


 早く服を着てくれ。


「やっと捕まえました~」


 様子をうかがえないため、声だけで判断すると、どうやら光愛には愛春の言ったことが聞こえていなかったようだ。


 苦手な運動を強いられ、息があがっているからだろう。次第に近づいて来て、俺が正面に抱きかかえている愛春を、光愛が抱えようとする。


 その様子がテレビの反射に映り込んでしまっている。直視ではないからバレない。……ではない。


 ただ、体は正直で、恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じる。


「お兄ちゃん、顔赤いよ。もしかして、光愛お姉ちゃんの全裸に興奮しちゃった? 発情しちゃった?」


 いったい我が妹はそんな言葉をどこで覚えてくるのだろうか。


 お兄ちゃん、愛春の将来が心配だよ。将来といえば、愛春の夢は大統領になることなんだよな。


「……は、はわ、はわぁ」


 愛春の言葉で自身が全裸であることを自覚したようだ。光愛は側にあった布団に飛び込み、身を隠した。


 ただそこは、俺や愛春がいる部屋で、その後の行動をどうするつもりなのだろうか。


 脱衣所に駆け込めば服を着ることもできただろうに。布団にもってしまってはそれも難しい。


「みなおねえちゃんは?」


 遅れてやってきたのは保育園児で弟の慶太だ。光愛の姿がないのを不思議がっている。辺りを見回し、光愛の所在しょざいさがしている。


「愛春も、慶太も、ちゃんと体ふこうな」


 布団に籠もっている光愛のことはひとまず置いておいて、俺は2人の体を拭くことにする。これが今、俺が送っている日常だ。


 父さんを事故で亡くした時はどうなるかと思ったが、楽しい日々を送れている。

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