第17話
結局、午前中は泳ぐ練習をせず、昼食を摂ることになる。
レストランで焼きそばと飲み物を購入し、プールエリア内にあるテーブル席で食事を摂ることになった。
光愛は元気よくおいしそうに焼きそばを頬張っている。
「いっぱい動いたあとに食べる焼きそばはおいしいですね」
「ウォータースライダーを滑っただけだけどな」
「これだけ運動したら結構カロリー消費できたんじゃないでしょうか?」
「ウォータースライダーを滑るのは運動なのか?」
「いい汗かきました」
「……よかったな」
光愛は俺のツッコミをツッコミとも思っていないようだ。
ここまで来るともう、わざとボケているのかどうか、俺にはわからない。
2人とも焼きそばを食べ終わり、飲み物をストローですする。
取るに足らない話をしていると、光愛の後方に見覚えのある女性を見かける。
その女性は先日、商店街で見かけた女性だ。
スタイルがよく、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
俺は別にそういう女性が好みというわけではないが、明らかに他の女性と比べると、頭一つ抜けている。
なかなかそんな女性の水着姿なんて見られるものじゃないよな。
そんなことを思いつつ、光愛との会話に生返事をしながら、目で追う。
すると、光愛は俺の視線の先に気づいたようだ。
本日もう何度目かわからない膨れっ面をしながら言う。
「純慶さん。大きいおっぱい好きですよね」
「うっ!」
「この前もわたしが隣にいることを忘れるほど夢中で凝視してましたもんね」
「ぐっ!」
それを言われると痛い。
「あれはだな。なんというか、ただ見てただけだ」
「見てたことには変わりありませんよね」
「かはっ!」
ぷいぷい不機嫌オーラを撒き散らせ、そっぽを向いている光愛。
明らかに俺が悪いのだろう。
俺は光愛を元気づけるべく、言葉をかける。
「確かに光愛は……その……胸は小さいけど……」
明らかに女子に向かって――しかも胸の大きさを気にしている恋人に向ける言葉ではないため、声が小さくなってしまう。
だが、そのあとの言葉ははっきりと胸を張って豪語した。
「だけど! 光愛にはそれを
途端。
興味深そうにこちらに顔を向けてくる光愛。
「たとえば、なんですか?」
「たとえば……そうだな……」
ここでの言葉が持つ重要性を思うと、慎重になる。
だが、いつまでも続く言葉を迷っている場合ではない。
そこで、俺は今までに類に見ないほどの超高速思考を巡らせて光愛の魅力を――光愛がいかに素晴らしい女性であるかを論じる。
「光愛は、そう! 元気だ! いつも元気で周りのみんなを楽しくさせてくれる」
「それで? 他には?」
微かに頬を赤らめ、口元を緩めて嬉しそうにしている。
これはいける!
俺はそう確信して、俺はさらに光愛のことを褒めちぎる。
「あとは、子どもが好きだ! 初めて俺の家に来て、愛春と慶太の面倒をみてもらったとき、あいつらはなんなく光愛を受け入れた。愛春はともかく、慶太は人見知りするのにそんな素振りはなかった。これはあれだ。光愛から溢れ出す母性がなせるワザだ。だれにもできるわけじゃない。現に慶太が通っている保育園の先生には光愛ほど懐いてはいないからな」
保育園の先生に懐いていないのはそれはそれで問題な気がするも、今は気にしない。
光愛を褒めちぎることを優先する。
気づくと光愛はそっぽ向いていた体をこちらに向け、機嫌を直しているようだ。
ほっと安堵すると、周りの視界が開けてきた。
それにより光愛の後方にいる大人な女性が目に入る。
大人な女性というのはもちろんおっぱいが大きい女性のことだ。
視線の先に気づいたのか、光愛は後ろを振り返ると、
「す~み~よ~し~さ~ん」
「あ~」
テーブルに隠れて見えないが、光愛は力強く拳を握りしめているように腕をぷるぷるしている。
「これが男の本能」
「開き直らないでください!」
超高速思考をしてまで光愛の機嫌をとったというのに、俺はまた光愛の機嫌をそこねてしまった。
握りしめた拳でテーブルを叩くと、すたすたと足早に去って行く。
俺はそれを追いかける。謝罪しながら。
とはいえ、俺が光愛を好きなことに変わりはなくそれはこれから先も変わらないだろう。
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