第11話
カナメと水泳対決することが決まった日の学校からの帰り道。
光愛は軽く
どこか抜けているところがある光愛らしくなく、明らかに俺に聞こえないよう器用に声音調節している。
……なんだろう。誰かを呪おうとでもしているのだろうか。
顔を近づけて聞く耳を立てればなにをそんなにブツブツと言っているのか聞こえてきそうなものだが、そんな無神経なことできそうにない。
わざわざ小声になるよう声量調節しているぐらいだからな。
それならそれでブツブツ言わなければいいのにと思うも、そう提案する
だからこそ、堂々と正面から「どうしたんだ?」と幾度か問いかけてみるも、光愛は答えてはくれず、ブツブツ言うのを止めてはくれない。
「お~い。……お~い。……光愛……光愛さんや~い」
ダメだ。返事がない。
仕方なしに俺は声をかける以外の手段を取る。
交際しているとはいえあまり多用したくはない。
少しばかり後ろめたい気持ちを抑えつつ、俺は光愛の肩をトントンと叩いた。
いくら声をかけても気づいてはくれなかった光愛だが、肩を叩かれたことでさすがに気づいたようだ。
「純慶さん、なんでしょうか?」
「聞きたいのは俺の方なんだが……さっきから声をかけても返事がないし、なにかあったのか?」
俺はカナメとの水泳対決で光愛との交際を賭けることになったことをちゃんと話したい気持ちを抑えながら、光愛が思い悩んでいることについて聞く姿勢を整える。
カナメと対決を約束した際に光愛はいたが、上の空って感じで聞いていなさそうだった。
早めに光愛に確認を取りたい。
だが、光愛が上の空になっている理由を知るのが先だ。
じゃないといくら話したところで内容が頭の中に入らないだろう。
光愛はしばらく逡巡する素振りを見せてから話してくれた。
「来週からプールの授業が始まるじゃないですか」
「始まるな」
プールという単語を聞くだけで思わず気持ちが高揚してしまう。
これが元水泳部の
そんな俺の
光愛の話に耳を傾ける。
「それがどうした?」
「それがですね。わたし—―」
そこまで言ったところで、光愛は言葉を止め、言い
俺の顔を凝視して、頬を赤らめている。
なかなか光愛が続きを話さないため、不審がって「ん?」と言うと、あわあわした感じに答える。
「え……えっと……わたし……」
なにか言いたくない理由でもあるのか、なかなか続きを話してくれない。
それからしばらくしてから、ハッとなにか思い立ったような顔をして、ようやく続く言葉を述べた。
「わたし! 泳げないんです! そういうことにしてください!」
「おう。……ん? そういうことにしてください?」
「はぅ⁉」
「本当の理由は別にあるってことか?」
「うぅ⁉ 違うんです! 本当に泳げないんです! 信じてください!」
「ああ。別に疑っているわけじゃないんだが……なにか別の理由があるんなら聞くぞ」
「はぅ⁉ いいんです! 純慶さんには関係ありません! というか関わってはいけない領分です!」
「? そうか。なんかよくわからんが、わかった」
「わかっていただければいいんです」
光愛は胸を
結局、光愛がなにに悩んでいるのか俺にはわからなかった。
だが、本人が関わって欲しくないというなら、これ以上踏み込むべきではないだろう。
俺と会話をしたことで、光愛は考え込むのを止めたようだ。
正面を向いて歩いている。心なしか、吹っ切れたように見える。
そんな光愛の表情を見て、俺はほっとする。
人通りが少ないとはいえ、考え事をしながらぼーっと歩いているのは危ないからな。
変な人にぶつかって面倒なことになっても嫌だし。
例えば、そうだなぁ。
現在、俺たちは商店街の通りを歩いている。
どんな人がいるかと1人1人見て、すれ違う人を吟味する。
するとある1人に目がいってしまう。
その人はいわゆるヤクザだとか、ヤンキーだとか、とにかく頭にヤがつく危ない感じ……ではない。だけれど目がいってしまう。
その理由はこれから徐々に暑くなる6月だというのに時期尚早に薄着で堂々と歩いているからだ。
特に胸。大きいというだけではない。
角度によっては谷間が見えてしまうだろうほどに開けている。
あんな恰好していて寒くはないのだろうか。
すれ違い
大人な女性という
大人な女性というのは要はあれだ。
スラっと背を伸ばし、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
ボンキュッボン――おっぱいとおしりが出ていて、お腹は引っ込んでいる。
男の本能的に目が引き寄せられてしまう。
しかも、胸は強調され谷間さえ
俺は隣に光愛がいることを忘れ、思わず凝視してしまう。
完全にすれ違ってから正面を向き、改めてヤバそうなやつを探す。
するとすぐ横からなにやら殺気のようなものを感じた。
その先にヤバそうなやつがいるのかと思い、元をたどり、目を向けると光愛がいた。
おっと? 先ほどの殺気は? と不審がっていると光愛が不機嫌そうに口を
「おっきいのがいいんですね」
光愛が隣にいるのにも関わらず、反射的に淡々と答えてしまった。
「まぁ~な」
光愛は頬を膨らませて不機嫌ですアピールを強調してくる。
それに気づいた俺は、
「は! 違うんだ! 大きいのは確かに好きだけど、大きいだけでは意味がないというか」
「どうせ私は小さいです! 大きくさえありません!」
「悪かったから、そんな
「大丈夫ですよ。ちゃんとわかってますから」
「理解ある風に言われるのはそれはそれで複雑だ」
心なしか、光愛が元気を失くしたように見える。
ただでさえ光愛はなにか思い悩んでいるというのに、わざとでないのしろ、悪いことをした。
嘆息し、軽く
今回のは声量調節がうまくいかなかったのか聞こえた。
「やっぱり大きい方がいいのか」
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