第10話

 中間テストが終わり数日後。


 全教科の答案用紙が返却された。


 そんなある日の昼休みの教室。


 俺、光愛、カナメで机をくっつけて昼食を摂っている。


 試験内容は、6割は先生が授業中に出題すると話していたこと、3割は教科書や問題集のどこかしらに記載されていること、残り1割は難関大学の入試に出てくるような問題だった。


 ある先生が話していたことだが、あまりみんながみんなテストの点数が良すぎると上から怒られてしまうらしい。


 特に百点を大量に出してしまうとかが問題だ。


 偏差値が低い学校であるため、高得点者大量流出なんて事態はほぼありえない。


 ただ中には大学進学を考えている生徒もいるため、定期試験に難関大学の入試問題を混ぜているようだ。


 試験を受けてみた感想は難しいのか難しくないのかよくわからない。


 それでも各教科、平均点を越えられたのは素直に嬉しい。


「光愛。よく頑張ったじゃん」

「う~……でも……でも、1教科だけ……」


 光愛は数学だけ赤点だった。


 それで落ち込んでいる光愛をカナメがなぐさめている。


 カナメがケンカしてもすぐにいつも通りに戻ると言っていたのは本当のようで仲睦なかむつまじい光景が広がっていた。


 まさに友達といったやり取りだ。


「俺も光愛はよくやったと思うぞ。落ち込む必要なんかない」


 テストの6割を事前に先生が出題すると公言しているとはいえ、勉強しない人は勉強しない。


 そんな中、光愛が直前から勉強を始めて赤点を1教科だけにできたのはすごいと思う。


 普段から勉強する習慣がないことを考えると尚更だ。


「純慶さんがそう言うんでしたら……えへへ」


 光愛は落ち込んでいたのが嘘のように元気になった。


 照れ笑いを浮かべる光愛。


 そんな光愛を見たカナメはむっとして、


「あたしが慰めても落ち込んだままだったのに……」

「いや、なんか……えへへ」

「えへへ、じゃないよ。もう!」

「加奈愛ちゃんのおかげだよ。加奈愛ちゃんがにキレイなノートを見せてくれなかったら危なかった」


 一部引っ掛かる言葉があるが、一応はお礼を言っているようだ。


 それを知ってか、カナメはむっとしつつも、照れくさそうにしている。


「それはどうも」

「そして加奈愛ちゃんは今回もな点数だね」

「……光愛、ケンカ売ってる?」

「そんなことないよ。むしろ安定感あるねって褒めてるよ。たとえ英語はわたしより点数低くても、すごいなぁって」

「もう、光愛にはノート見せてやんない!」

「え⁉ そんなぁ~、加奈愛ちゃんのに良く取れたノートなしにわたしはどうやって試験を乗り切ればいいの?」

「知らない! いつも通り補習でも受けてれば!」

「え⁉ 純慶さん。加奈愛ちゃんが意地悪ですぅ~」

「いや、これは……光愛が悪い」

「あれ? 純慶さんまで。なんなんですか?」


 本当にわからないという風に光愛は困惑している。


 わざとやっているんだと思ったら無自覚だったんだな。


 ちなみに、補習対象になるかどうかは中間と期末の結果で決まる。


 光愛が補修対象になるかは期末が終わるまでわからないというわけだ。


「そういえば、そろそろプールの授業が始まるね」

「そうだな」

「スミヨシくんは泳げるの?」

「まぁな。これでも転校前の学校では水泳部に所属してたからな」

「ふ~ん。確かにいい体してるもんね」


 カナメは俺の胸板あたりをじろじろと見てくる。


 なんだか恥ずかしい。


「それじゃさ。勝負しない?」

「勝負?」

「そう。負けたら方は勝った方の言うことをなんでも聞く。で、どう?」


 勝負ね。


 負ける気はしない。


 ただ、別に俺はカナメにして欲しいことなんてないのだが……。


 そう俺が思案していると、カナメはとんでもないことを口にする。


「ちなみにあたしが勝ったら、スミヨシくんは光愛と別れてもらうから」

「は⁉」

「勝負を受けなかったらあたしの不戦勝とみなす。これ決定!」

「な⁉」

「なに? 自信ないの? 元水泳部でしょ」

「いや別に自信がないわけじゃないがおかしくないか?」

「なにが?」

「なにがって……どうして光愛との交際を賭けなきゃならないんだ?」

「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」

「まぁ確かにそうだが……」


 どうも納得できない俺は嘆息してから現交際相手たる光愛に話をふる。


「光愛も黙ってないでなにか言ってくれよ」


 俺が話をふるも光愛はうつむいたまま1人でブツブツと言っている。


「光愛?」

「はい! なんでしょう」

「光愛、だい――」


 俺が「大丈夫か?」と続けようとすると、カナメが割って入って来た。


「光愛は今の話、賛成だよね! ね!」

「……え、あ……うん。……うん?」


 光愛は一応は頷いてはいるが、なにを頷かされたかわかっていないという風に首を傾げている。


「はい! ということで光愛の了承を得たことだし。やっぱり、これ決定!」

「いやちょっと待て! 今のは卑怯ひきょうだろ! 明らかになんの話かわかってなかったよな!」

「そんなことないよ。光愛はなんの話かわかるよね」


 カナメはなんの話をしていたのかわからない。と、言い出しづらい空気を作って光愛に問う。


「……えっと……純慶さんと加奈愛ちゃんが水泳対決する?」

「そう! そういうこと!」

「……まじか……」


 明らかに重要な部分が抜けているのに、カナメは強引に押し進めようとしてくる。


 当事者の1人であるはずの光愛がちゃんと理解できていないのに『交際を賭けていることを承認した』ことにして進めていいのか?


 いや、いいわけがない。


 というかこういうのは普通、勝ったら付き合うとかじゃないのか。


 そう考えるとカナメが勝ったら、俺とカナメが付き合うということになるわけで…………なんかよくわからなくなってきた。


 とにかく! 光愛にはちゃんと知る権利があるだろう。


「光愛—―」

「さぁ、授業を始めるぞ」


 俺が光愛にちゃんと説明しようとすると、いつの間にかチャイムが鳴っていたのか教師が教室に入って来て授業を始めた。

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