第17話 みーこになった日②
秋葉原から少し離れた喫茶店にお姉さんと入る。レトロ感漂う店内、純喫茶と言われる素朴なお店だ。お姉さんの外見からしてお洒落なお店を想像していた。
「この店でよかった?」
「いえ全然よかったです。なんだかこういうお店の方が落ち着きます」
「ここは、小さい時から姉妹揃って来ていた馴染みの店なんだ」
「へーそうなんですか。お姉さんがいらっしゃるんですね」
「ああ、待ち合わせ相手も私の姉だ。近くで仕事があったからご飯でも食べようってなってな」
話しをしていると初老の男性がお水とメニューを持ってきた。
「いらっしゃい。すみれちゃん久しぶりだね」
「マスター久しぶり。今日はお姉ちゃんとここで待ち合わせしようと思って」
「そうかい、そうかい。お姉ちゃん忙しそうだね。少し前まではしょっちゅう来てたんだけどね。そちらさんは?」
「ああ、さっき知り合った、みこちゃん。」
「は、初めまして、三島みこです」
「初めまして、まあくつろいでくださいな。ん-なんだか昔のすみれちゃんをみているようだね」
「どこが似てるんだ?」
「引っ込み思案で、お姉ちゃんの後ろで隠れているような子っだったよ。そうそう、誰っだったか友達の、」
「光か?」
「あーそうそう光ちゃん。光ちゃんの一緒にいるようになって、活発な子になったように思えるよ。光ちゃんは元気にしているのかね?」
「光は今、絶賛引きこもり中だな。書籍化作家様に決まってから忙しくしているよ、早く上げてくれないと私の仕事もないんだけど」
「書籍化?お姉さん作家さんなんですか?」
「いや作家なのは私の相棒だ。私は、イラストレーターだ」
「イラストレーターなんてすごいです。どんなの描いてるんですか?」
「どんなのかか。私も最近イラストの仕事を始めたばかりなんだ」
「そうなんですか?」
「さっきみこちゃんが買ったラノベ、あれ、私が挿絵と表紙描いてるんだ」
「、、、え!!?え!!!?」
私は、ラノベを取り出し表紙を眺めた。
「ば、ばいおれ先生?ですか?」
「ああ、たまたま姉の仕事の現場でそういう話になってな」
「お、お姉さんは一体何者なんですか?」
「ああ、会ってみたらわかるよ」
「会ってみたらですか」
このお姉さんはすみれさんというらしい、そこからばいおれというペンネームだとか。
私はすみれさんのおすすめのナポリタンとアイスティーを注文して出来上がるまで話をしていた。
不思議だった。人慣れしていない私がすみれさんとは心を開いて話せている。
友達の居なかった私が同世代の女の人と楽しく話せているのも小学生ぶりだな。
しばらくすると、カランカランとドアを開ける音がした。
「あーいたいた、ごめんごめん打ち合わせが押しちゃって。わりぃわりぃ」
ふと、声のする方へと顔を向けた。
「え、?。えーーー?!」
驚くのも無理はない、だってさっきまでこの人のサイン会に行ってたのだから。
そう、声の主は『立花かすみ』さんだったのだ。
「あれ?君はさっきの、えーとみこちゃん?だったよね?」
「あ、はい、覚えててくれたんですか?」
一瞬にして、緊張が走った。
でもあまりにもさっきのサイン会とはキャラが違い過ぎる。
「そりゃ覚えてるよ、私は直接あったファンの顔全員覚えてるもの。あ、マスターBセット、コーヒーで」
「はいよ」
「紹介する、私の姉、立花かすみだ。そして私が立花すみれ」
「ぞぞ、存じておりますよ。ななんでさっき言ってくれなかったんですか?!」
「いや、面白いなと思って。私からのちょっとしたサプライズ」
ちょっとどころじゃねー。
ものまね番組のご本人登場レベルだよ。
すみれさん腹黒いな。
でもすみれさんに会ったとき、なんだかどこかで会ったような気がしたのはこれだったのか。
この姉妹は髪が長いか短いかくらいでそっくりの外見だったからなのだ。
私もなんで今まで気が付かなかったんだろう?
「あ、あの私は、これで」
すみれさんの待ち合わせ相手が来たので、もう私は暇つぶし相手としては用済みなので、退散しようと財布を持って立ち上がろとした。
「ちょ、ちょっと、どこ行くんだよ。せっかく会えたんだからすこし話ししようぜ!」
「ぜ?え、あ、いや、いいんですか?私ファンなのに?」
「いいよ良いよ、ファンの前にみこちゃんはすみれのお友達なんでしょ?妹の友達なら別に良いじゃん」
「え、私、すみれさんとお友達なんですか?」
「あーショックだな、私は友達とは思われてないんだ。がんばろうみこちゃん、いやみこに友達だと思われるように」
「いやいやそんなつもりで言ったわけではなくて、その私みたいな根暗、陰キャ人見知りがそんなキラキラした人たちとお友達なんて、恐縮してしまうというか」
「でも、みこはワイとこうして沢山話せてるやん、それってワイに心許してるって事やないんか?」
なぜ急に関西弁。
この姉妹、急に少年漫画主人公みたいなキャラになったと思えば、急に関西弁になるし、意味わからへん。
いや私も関西弁移ってもうとるし。
「で、なぜこの二人は知り合いになったわけ?」
「あーちょうど、お姉ちゃん待ってる時にスイカブックスで暇つぶしてたら、私のイラストのラノベを取ろうとしてた子がいて、それがお姉ちゃんのファンの子だったんだよ」
「なるほどねー。で、みこちゃんは私のファンなのかな?それともあすかちゃんのファンなのかな?」
うえ、そんな難しい質問。そりゃもちろんあすかちゃんは大好きだ、でもハロプリはオリジナルアニメ、原作があるわけでもないからあすかちゃんの性格も声も大好きだし、声が違うのは絶対嫌だ。だから私は立花かすみさんという声優さんが好きなのかな。とは言っても私は立花かすみさんの手がけたほかのアニメや吹き替えをされてる作品を知らない。
「それでいいんだよ」
「え?」
「今ここにいる立花かすみもハロプリのあすかちゃんも私なんだよ」
「それは」
「よく私は、憑依声優だとか、カメレオン声優だとか言われるけど、声優自体、キャラクターに命を吹き込む仕事だと思ってるんだ。それが私の声優としての責務だと思うから、演じてたり、なったつもりでってより、私はこのキャラクターそのものなんだと思ってやってるんだ」
「プロ意識高いですね」
「そんなんじゃないよ、ただ色んな自分になれるってうれしくない?」
色んな自分になれるか。
私もなれるのかな?
「あの」
「うん?」
「声優になるきっかけの話をイベントでしてましたけど」
「あーあれね。私さ中学の時まあまあ荒れててさ」
「ヤンキーってやつだな、あの頃はお姉ちゃんここら辺で暴れまわってたもんね」
「う、うるさい。まあ決して否定はしないけど。まあその時に一人の同級生に出会ったんだよ」
「そういえば言ってましたね」
「そう、そいつは何でもできて、人望も厚くて、まるでヒーローみたいだった」
「そんな人がいたんですね」
「まあ私もその時荒れてたし、ライバル心むき出しで何度もその子に挑戦したんだよ」
「ぶ、物騒な話ですね」
「あ、いや喧嘩とかではないよ、ボーリングだったり、駆けっこだったり、大食いだったり」
「それは普通に友達なのでは?」
「いやそういうのじゃなっくて、まあ、憧れていたし嫉妬もしてたと思うけど、その子に言われたんだよね。私に張り合おうとせず、私ができないことをしなよって、あんたはいい声持ってるしルックスも私の次に良いんだから、声優とかしてみたら?ってね」
それ褒めてるのか?相手するのがめんどくさくなって言った言葉な気もするけど。
「それで声優を始めることになったんですね。その人は今どこで何してるんですか?」
「さあな。学校も違うし、いろいろ噂話聞くけど、会わなくなったからな。今でもあの子のカリスマ性は超えられてないけどね」
かすみさんは天を仰ぎうれしそうな表情を浮かべていた。
いやその人のこと大好きじゃん、百合じゃん。
〈樫木家〉
「へっくしょん。ん?風邪ひいたかな?」
「いや、姉ちゃんさ。パンツ一丁で言うセリフじゃないぞ。とりあえずズボンはけよ?だから風邪ひくんだろ」
「淳弥が暖めてくれよー」
「や、やめろよこのブラコン女め!」
私、すみれさん、かすみさんとハロプリの話で盛り上がりをみせていた。
「さてと、そろそろ行こうかな」
「あ、それじゃ私もこれで」
「あ、そうだ君も来なよ、すみれも顔出しに行くみたいだし」
「ああ、私もお姉ちゃんと一緒に帰るから」
「えっと、どこに?」
「うーん社会見学かな?」
「社会見学ですか?」
「まあ、行ってみてからのお楽しみってことで。さあさあここは私がごちそうするから外にでたでた」
「え、私払います」
「いいからいいから」
財布を出そうとした私をすみれさんと一緒に店の扉から押し出した。
会計をするかすみはマスターと話していた
「で、あの子どうだと思う?」
「まだ何とも言えないけど、化けるんじゃないか?まだまだ片鱗すら見せてないけどな。雰囲気でわかるかな」
「やっぱりわかる?さすがだね、アカデミー賞アニメ部門の監督してただけはあるねー」
「二十年以上前の昔の話だ、今は古びた喫茶店のマスターだよ」
「でもマスターが社長を紹介してくれなかったら、私は声優になれて無かったんだし」
「いや君は、私がそんなことしなくても、なれていたよ名声優に、さあ、あの子に見せてあげなさい。」
「声優、立花かすみの姿を」
言われるがまま、タクシーに乗り込み、オフィス街へと来た。
一体こんなところに何があるというのか。
案内されるがまま、ビルに入る。
エレベータに乗り込む。
「ここの6階が私の事務所ツーフォースプロダクション」
「事務所ですか?」
もちろん推しの事務所だ、知らないわけない。
けどどうして、私がここについていくことになったのだろうか?
ただの立花かすみファンな私が。
他のファンに睨まれないか心配だ(そもそも陰キャだから他のファンと交流すらないけども)
「蓬田さんこんにちわ」
「あら、すみれちゃん久しぶりね」
さっきかすみさんのイベントで同行してた人だ。マネージャーさんかな?。
「ん?その子は?」
「あー、私のファンのみこちゃん」
「は、初めまして」
「ってあんたファンの女の子お持ち帰りしたの?」
「語弊が出る言い方はやめてよ、すみれの友達だよ」
「あーすみれちゃんのお友達なのね」
「すいませんお邪魔しちゃって」
「全然いいですよ、私は立花かすみのマネージャーの蓬田です。これからも立花かすみをよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「蓬田さーん、レッスン場空いてる?オーディション用のデモ収録したいんだけど」
「オーディションのデモ?」
「あー声優ってのはベテラン新人限らず沢山のオーディションを受けるんだよ。お姉ちゃんもそこは例外じゃない。オーディションは直接スタジオ審査することもあればデモを送って審査をすることも多い」
「なるほど」
そうか、どんなアニメでも勝ち取っているんだ。
声優業界もアニメブームで希望者の増え、競争が激しくなっていると聞く。
かすみさんも一握りに選ばれたエリートと思っていたが実力でのし上がってきたんだもんね。
すみれさんもすみれさんで人気アニメのノベライズの表紙を私と一つしか変わらない年齢でやってるんだから、この姉妹強すぎでしょ。
案内されたレコーディングルームに入る。
「さて始めますかね」
「それで何の作品なんですか?」
「それは言えないんだなー、アニメ化発表されてない秘密事項だからね」
「そんなのセリフとかでバレたりしないんですかね?」
「確かにそうだね」
「まあ私漫画とかライトノベルとか全然読まないのでわからないですけど」
「あすかちゃん一筋ってことか、それもそれで、あすかちゃんでは無い」
RECランプが点灯し、かすみさんはオーディション用に渡された台本を読み上げる。
すみれさんの一声だけで一瞬にして場の雰囲気が変わった。
「す、すごい」
ブース外、ガラス越しで観ていたけど、ブースにはかすみさんしかいないはずなのに、風景が浮かび上がるような感覚。
わからない、わからないけども、これはすみれさんで決まる、そんな気がした。
一年後、主役にすみれさんが決まり公開されたアニメは世界で最も泣けるアニメと話題になり、この年のアワードではすみれさんが最優秀主演声優に選出された。
「どうだった?勉強になった?」
「はい、か、感動しました。ストーリーはわかりませんが」
「ははは、どう声優の仕事?」
「あの」
「ん?」
「わ、わたしにもできるでしょうか、その、、声優の仕事」
「きっとできるよ、声優になりたくなった?」
私はこのわずか数分で覚悟を決めた。
「はい、私は声優になりたいです!」
初めて自分がなりたいものが見つかった。
そしてなりたい自分を口に出すことができたのだ。
「よしそしたら、私が師匠になろうじゃないか」
「え?し、師匠ですか?」
「冗談冗談、でも応援するし、アドバイスもするよ」
「それでは、かすみさん、私はこれからこれから何をすればいいですか?」
「そうだなー、まずは人前に出て、会話をすることだな」
「で、ですよねー」
ここから私の声優への道が始まったのだ。
とはいっても何からすればいいか何もわからない。
「ということで、この事務所で声優としてってのは難しい」
そりゃそうだ、演技の右左もわからない人見知り、陰キャ、コミュ障がそんな簡単にオーディションや声優学校に行かずして声優事務所にはいれるわけがない。
「でもね、うちの事務所、新プロジェクトをすることになったんだ」
「新プロジェクトですか」
「ええ、Ⅴを始めるんだよ」
「Ⅴ?」
「ちょうどうちのVプロジェクトで募集をかけるつもりだったんだ」
「ところでⅤってのは?」
「Ⅴチューバーだよ」
「Ⅴチューバーですか?な、なるほどでも私にできるでしょうか?」
「できるんじゃない?それにすぐ近くにママになれる人もいることだし」
「ママ、ですか?」
Ⅴチューバーにおけるママというのは、キャラクターを作成するイラストレーターのことらしい。
「ね、すみれできるでしょ?友達なんでしょ?」
「そうだな、面白そう。やるんなら、みこ本人と真逆のキャラクターにしたいな」
これが星屑みーこ誕生秘話である。
同時に友達と師匠とママが同時にできた日になった。
淳弥君たちと別れ、ファミレスから自分の部屋に帰ってきた。
配信用の防音完備のその部屋は殺風景で無機質だ、部屋の照明をつけず、パソコンを起動させると、暗がりにパソコン、キーボード、マウスが鮮やかに光る。
カナンちゃんが言っていたように、しばらくゲーム配信をお休みすることにした。
あらかじめ視聴者には報告することがあると伝えている。
配信を楽しみにしている、ファンには申し訳ないが赤点ついて、補習で配信できないともなれば意味がない。
ここは正直に理由を告げてご理解いただこう。
ぶるぶると軽くリップロールをして、配信を始める。
「さて始まってるかな?こんばんわ!みーこだよー!」
ライブ配信が始まると同時接続の数が上がり始めた。
事前に報告したいことがあるとアナウンスしていたのもあってかいつもより観覧数の伸びが早い気がする。
:お、始まったか!
:いやこっちが緊張すんだけど
:みーこって、ゲーム配信以外ってあんまりないよな?
:報告ってなんだ?辞めるとか無いよな?
次々とコメントが流れている。
私が真剣な報告と言ってたから、少し事が大きくなっているような気がする。
「メンゴ、メンゴそこまで大した話じゃないからね。あとは、ちょうどいい機会だから普通に雑談とか質問返しとかしようかなと」
:なんだよたいした話じゃないのかよ。心配してたんだが
:とりあえず、その報告を先にして貰えないかな?心臓が持たんのよ
:雑談も雑談で楽しみ
:ゲーム配信中の会話しか聞いたことないもんな
「私、星屑みーこは赤点の恐れがあるのでテスト勉強の為、配信を一週間休止します」
少し間があり再びコメントが流れ始めた。
:あ、いや、それだけ?
:まあ、みーこが学力高いとは思えないしな、了解、了解
:とりあえず、さっさと勉強して戻ってこい、不良娘
:てか、ほんとに女子高生だったのかよ。16歳って鯖かと思ったわ
「いやっちょっと皆、反応ひどくないか?結構悩んで決断したんだけどな」
:いや、悩む前に勉強しなさい。
:切り抜きどころすらないぞ(笑)
:とりあえず戻って来るんならそれでよし
:なんなら勉強配信もありか、みーこるずは本人はあーだけど、高学歴多そうだし家庭教師になれるだろ
:ま、とりあえずわかったから、質問コーナー行こうぜ!
「いや、なんだか思ってた反応じゃないんだけど。もっとみんな悲しんだり、行かないでーって泣きじゃくるかと思ってたんだけどな」
本当に配信は落ち着く。
私にとっては、配信を観てくれる人、私のファンの総称みーこるずのメンバーも兄や姉のような存在だ。
生徒会の私も配信の中の私も、私なのだから、どっちも大切なんだ。
報告を終えて、したことのない質問に答えるなどした。
ゲーム配信ばかりだったり新鮮で、新たに企画考えてみたり、なんか大喜利みたいになったり、カラオケ配信?歌枠やってみたらって提案があったり、歌はあまり歌うことが無いから、うまい下手も自分でもわからないけど。とにかく楽しい配信になったな。
これからも声優になるまではこの配信を続けていくと心にそう決めた。
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