第16話 みーこになった日①

 私は星屑みーこ。

 主にゲーム配信をしているⅤチューバーだ。

 約1年であれよあれよと登録者数100万人を超え、新世代のエースⅤチューバーと呼ばれている。


 でも私には実感はない。


 あくまで星屑みーこはゲームでのアバターと同じ。

 実際の私は地味で人前に出るのが苦手なコミュ症の地味な女の子。

 星屑みーこは歯に衣着せぬ物言いをし、アマチュアゲームの大会で 何度も優勝する明るい女の子。まったく逆だ。

 私は星屑みーこを演じている。

 でもたまにわからなくなることがある。

 私は星屑みーこがうらやましい。

 私は星屑みーこが素の自分でありたいと思っているのだ。

 じゃあ結局今の「三島みこ」はいったい何なんだろう。


 私が「星屑みーこ」になるきっかけは私が中学に入学したばかりのころだった。

 引っ込み思案の私は当たり前にクラスにはなじめず、教室の隅で小説読んでいる少女だった。


 そんな私にも一つ楽しみがあったのだ。


 それは、毎週日曜の朝にやっていた魔法少女アニメ『ハロー☆プリティーあすかちゃん』にはまったからだ。

 ハロー☆プリティーシリーズ、通称ハロプリは女子小中学生の間で人気を誇るアニメであすかちゃんはその第三弾。


 話のあらすじは悪の組織ガン・ジ・ガラーメと戦うために魔法の世界からやってきたネズミ型生命体コロルに魔法少女の力を与えられたあすかちゃんがガン・ジ・ガラーメが送り込んでくる怪人たちと戦いを繰り拡げるという、まあよくあるような話だ。

 でも第三弾のあすかちゃんは最初1、2話は同じような感じだったが3話以降、前作の二作とは全然違ったのだ。


 ガン・ジ・ガラーメのボスがあすかちゃんが生まれた時に死に別れたはずの双子の姉だったり、プリティーピンクのあすかちゃんには相方のプリティーブルーのしおりちゃんがいたのだが、ガン・ジ・ガラーメに監禁され改造され後に精神崩壊し、闇落ち、デストロイブルーとしてあすかちゃんの前に立ちはだかったり、味方だと思ていたコロルも実はガン・ジ・ガラーメからの刺客で、あすかちゃんをガン・ジ・ガラーメの幹部にするために魔法少女の能力を呼び起こしたことなどなど。

 ハロプリ史上最大の問題作になったのだ。


「朝なのに胸焼けする」「話が重たすぎて人間不信になりそう」「放送時間完全に間違えてる」など反響もすごかった。

『コロルに殺される』がこの年のネット流行語になったほどだ。

 当然ながら保護者からのクレームも多くあったのだけど、それ以上に反響が凄く、放送後、朝の枠から深夜枠で再放送が決まり、本来の女子小中校生をターゲットに戻したハロプリシリーズ第四弾とは別にあすかちゃんが闇落ちしたifルートを描く「あすかちゃんダークネス」はこの年の年間覇権アニメになったのだ。


 そんなハロプリあすかちゃんにはまり、情報を探っていると、なんと秋葉原のスイカブックスであすかちゃん役の声優、立花かすみさんのトークショー&自筆サインつき円盤手売り販売会があるというではないか。

 私は人の多い場所が得意ではないし、まともにお話しできるかわからないけど、さすがにこれは行くしかないと思い、貰っても使い道がなくて貯めていたお小遣いとお年玉を持って、秋葉原に向かったのだ。


 オタクといっても初めて来る土地、渋谷や原宿など人の多い場所には一切寄り付かなかったし、小説でも漫画でもアニメの円盤でもYamazonでも買えるし、近くの書店にも読む分には手に入る。来たからにはとことん楽しもう、あすかちゃんグッズも沢山買おうとそう思っていた。

 秋葉原の土地は私にはピッタリの場所だった。

 あすかちゃんしかまともにアニメは知らなかったけど、いろいろな発見があった。

 何をしていても咎められない場所、好きなアニメ、キャラクター、声優、グッズ、いろんなものがここには揃っていた。

 立花かすみさんの出演している他作品も興味が湧いてきた。

 街を散策し、ゲームセンターの前を通るとあすかちゃんのノボリを目にする。

「あ?あすかちゃんのゲーム」

 それはアーケッド格闘ゲーム『ハロプリレボリューション~漆黒のあすかちゃん~』

 だったのだ、初めてゲームをする私に衝撃が走った。

 もちろん私はあすかちゃん(ダークネスバージョン)を選択、相手は初代ハロプリの主人公、ハロプリレッドあかねちゃんだ。

 こんなことがあっていいのか!絶対交わることのない世界線でこの二人が戦うなんてなんて豪華なのよ。

 初めてプレイしたゲーム。結果はボッコボコだった。

 悔しい、悔しい、悔しい。ホントのハロプリならダークネスあすかちゃんが最強なんだから。


 後にこのゲームは家庭用ゲーム機とパソコンにも移植され大会が行われることになったのだ。悔しさのあまり練習続けた結果、後に日本チャンピオンになるんだけどね私。


 そんなこんなで、楽しんでいると、イベントの時間が来た。

 事前に予約をしていたので、店舗での支払いを終えて、用意されたステージ前の席に座る。

 やばい、最前じゃん。私は物陰で覗くだけでいいのに。


「それでは、立花かすみさんに来ていただきました、どうぞ!」


 司会進行の方のアナウンスが入り、女性が壇上に上がる。

 紫がかった茶色の髪、メリハリのある体、そして色気を醸し出したその姿に私は見惚れてしまったのだ。

 この人が立花かすみさんか。

 もちろん、アニメ雑誌や声優雑誌のハロプリ特集などに写真付きでインタビュー記事などで見たことはあるけど、実際会うととてつもないオーラを感じる。

 確かすみれさんはまだ高校生だったはず。

 それなのにこの色気、私も高校生になったらこんな色気が出るのだろうか。


 すみれさんのトークライブでは、ハロプリのアフレコの時の裏エピソードやハロプリのオーディションの時の話など、ここでしか聞けない話がたくさん聞けた。

 声優になるきっかけも聞けた。

 中学生の時のライバルであり尊敬している同級生の一声がかすみさんが声優になるきっかけだったらしい。

 かすみさんにカリスマとまで言わしめたその同級生てのも気になるが。

 約三十分程のトークショーは終わり、いよいよサイン付き円盤のお渡し会だ。

 私は最前のど真ん中、最前の上手側から案内される。

 息つく間もなくその時間が訪れる。

「次の方どうぞ」

 案内され向かった先に彼女の姿があった。

 やばい、緊張する。

「初めまして」

「は、はい!は、初めまして」

「あら、緊張してるの?かわいいわね」

「い、いやそそそ、そんなことは」

「お名前は?」

「み、みこ、み、三島みこです」

「みこちゃんって言うんだ。かわいい名前ね」

「あ、ありがとうございます」

 だめだ。このコミュ症の私が話をこんな限られた時間で話すことまとめられるはずないじゃない。

「お時間でーす」

 時間が来てしまった。でも少しホッとしている自分もいる。

「あら、もうおしまいなのね。もう少しお話してみたかったわ」

「あ、ありがとうございます、お、応援しています」

「ありがとう、また次会うことになったらお話しましょう」

「は、はい!」


 はぁ緊張した。

 たいしたことはほとんどしゃべれなかったけど。


 イベントは終わったけどスイカブックスで買い物をしようと思い、2階のフィギュアコーナーに足を運ぶ。ガラスケースに飾ってある高級スケールフィギュアを眺める。

「あ、あったダークネスあすかちゃん、ややばい、クオリティ半端ない。こっちの無印あすかちゃんもかわいい」

 展示しているフィギュアを見て、目を輝かせている。

 値段を見ると、全然かわいくない。

 さすがに私には手が出せない値段だ。

 少し作りは落ちるかもしれないけど、コンビニくじかクレーンゲームにもダークネスあすかちゃんのフィギュアはあったはずだから、それで我慢しよう(獲れる確信はあるのか?)


 缶バッチ、アクリルキーホルダーを購入し、1階に戻って書籍コーナーに向かう。

 お目当ては、

「あ、あったあった」

 ライトノベルコーナーだ。

 最近、あすかちゃんのノベライズが発売されたからだ。

 発見したラノベを手に取ろうと手を伸ばした時だった。

 同じタイミングで違う人の手が当たった。

 これってラブロマンスでよくある運命の出会いみたいなやつじゃ?

 いや待て待て、手を伸ばしている本は魔法少女あすかちゃんだぞ。

 出会ってもオタク確定だぞ。


「あ、すまない」

 聞こえた声は、女性の声だった。

 声の主に顔を向ける。

 そこには、ショートの女性の姿があった。

 綺麗な人。でもどこかで似た人を見たような。

「あっすいません」

「あ、どうぞ」

 その女性は手に持っていたラノベを渡してくれた。

「い、いいんですか?」

「あー大丈夫だ。置いてるかどうか確かめたかっただけだから」

「ありがとうございます」

「君はあすかちゃんが好きなのか?」

「はい、今日も声優の立花かすみさんのイベントでここに来たんです」

「へー、立花かすみのファンなのか?」

「そんなファンなんておこがましい。憧れというかなんというか」

「君は声優志望なの?」


 声優かー。その発想は無かった。

 そりゃそうだ、まともに人と話せないコミュ症陰キャの私に出来るわけもなく。


「そんな声優なんてとんでもない、私みたいな根暗の芋女がそんな煌びやかな世界には」

「いや、そんなでもないだろうよ」


(ぐるぅぅぅ)

 そんな話をしてると、お腹が鳴ってしまった。

 や、やばい恥ず死にする。


「ふふ、お腹すいたのか?」

「あ、はい、朝から何も食べて無かったので。あとチキンなので一人でご飯屋さんにも行けなくてですね・・・」

「ちょうど私も待ち合わせまで時間が空いてるから、もし良かったらどこかランチに付き合ってくれないか」

「いいんですか?私で」

「もちろん、話も色々聞きたいしな」

「私の話なんて。私、友達もいないし、陰キャだし、話なんてつまらないですよ」

「それじゃ君にとって、楽しくなる話を私がするよ」

「楽くなる話?」



 ということで私は綺麗なお姉さんとランチをすることになった。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る