第12話 私も進む


 私は中学校の第2視聴覚室に向かう。

 音楽室も第1第2と2ヵ所あるが、それぞれ吹奏楽部、男子軽音学部が使っている。第2視聴覚室は私達女子軽音学部の練習場所だ。とは言っても私達しか部員もいないので私達が卒業すると部も無くなるだろう。

 私達が作った部活なので無くなろうが特に何も思わない。引き継ぐ後輩がいるのなら話は別なんだけど。


 私が部室に入るとすでにバンドメンバー達は来ていた。

 それぞれ進路先の学校も決まっていたので、今後のバンドについて話し合うのだろうと思っていた。


「うっす」

 明美がそう挨拶をし、少しの間沈黙が流れる。

 何か空気も重たいような気がしてる。

「とりあえず皆、合格おめでとう」

「うん」

「そだね」

「皆でお祝いしなきゃね」

 明美は昼間は仕事をして夜間の学校に行くらしい。

 ベースの真実は私立女子高、ドラムの美紀は地元公立高校。

 それでも高校生にやればライブハウスでライブに参加することもできる。学校が違うことはそこまで問題ではないだろう。

 少なくとも私達のバンドは学園祭やコンクールには出てたので少しは知名度もあるとは思うし。兄貴達も言ったら来てくれるだろう。


 明美が沈黙を破り話し出した。


「あっし、バンド抜けるよ」

「え?」

 私は固まった、1番バンドに情熱を持っていた明美が発した言葉だったからだ。

「え、なんで?」

 私は信じられなくて、明美に聞く。

「一人で挑戦したいと思ったんだ」

「バンドのこと?それなら私も一緒にやるよ」

「いや、違うんだ、あっしさ、カナンが動画で人気になった時に思ったんだ、私も独りで進んでみたいって」

「独りで進む?私が?そんな事ないでしょ?」

「いいや、凄いことだよ。あっし、カナンのこと尊敬してたんだ。なんて凄い子をバンドに誘ったんだって。でもそれが日に日にカナン、あんたが目標になってたんだ。いやライバル視するようになったってのが正しいかな」

 どうして私がライバル?

「いや、それは明美が私に提案したことであって、私が自らし始めたことじゃないじゃん」


 私はあいにゃの正体をこのエンドケープのKANAだとバレてもバンドは続けたいと思いその事を提案することも考えた。でも明美からしたらそれは違うんだろうと思いその言葉は言わなかった。


「うん、今カナンが考えたこと、わかった。でもそれを口に出さないでいてくれた。ありがとね。そうだよね、あっしの我儘だもん。ごめんね。」


 明美の話が終わると、真実と美紀も話し出した。


「カナンごめんね。その私も抜けようと思って、その、私も高校が女子高で校則が厳しくなっちゃうし、バンド活動は長くは出来ないから」

「あたいも、高校進学して、親にはしっかり勉強して、ちゃんとした大学に進学しなさいって言われてて、そのあんまりあたい頭良くないから勉強に力を入れないと行けなくてさ。」


「そっか・・・」

 私はその言葉しか出すことしかできなかった。



 バンドの解散といっても少し先になった。

 それぞれ学校に通い始めて思い出作りも兼ねて、ライブハウスで数回ライブをして、6月の終わりに解散という流れに決まった。


 高校生活も始まり、明美は昼間はアルバイトとボイトレをして、夜に学校に通い、深夜にラップの練習をするというなんともストイックな生活をしているようだ。なんでも高校生女子フリースタイルラップバトルで優勝するのを目標にしているらしい。

 そこで知り合ったDJをしている子を呼んで解散ライブに向けての新生&解散間近のエンドケープの活動となった。


 正直寂しい気持ちでいっぱいだった。

 また私は一人でギターを弾き、兄貴や雑魚どもと遊んだりする生活に戻るのかと思ったんだ。まあ決して兄貴達と遊ぶことが嫌なわけではないけど。


 日程は次々進み、解散ライブ前夜になった。

 正直、未だに解散に納得しているわけでもないし、ライブがもう出来ない悲しさは残っている。解散したら友達じゃなくなる訳でもないし、遊ぶことは続くだろうけど、それでも私は納得できないでいる。

 ライブをするとライブ終わりにレコード会社の方に声をよく掛けられた。

 どうやら私があいにゃってことを勘づかれているみたいだ。

 そりゃ音楽関係の人なら動画のギターの弾き方の癖などでわかるだろうね。

 でも私は明美みたいに明確に何かしたいとか、目標があるわけもなくて、そのスカウトのようなのはうまく誤魔化して断ってきた。


 久々にアジトに来た。

 ライブには兄貴達の力を借りてチケット捌くのも協力してくれたのでお礼もしときたかったから。

 私は解散ライブには知り合いを呼ばなかった。解散を実感したくなかったから。

 悲しい顔も見せたく無かったから。


 アジトには兄貴だけだった。

 でもいつになく元気でどこかスッキリしているようにも見えた。


「なんかあったの?」

「ああ、ヘッドが、いや真由子さんが帰って来てるんだよ」

「姉御が!?」

「そう、それでな、一旦ドラグーンを解散することになった」

「ど、どういうことよ」

「たまたま弟の准弥くんと知り合ってねそれで」

『解散』の兄貴言葉以降はほとんど耳に入らなかった。

「わかった、私先に帰るわ」

 兄貴の会話の途中だったが遮るかのように私は入口のドアを開けた。

「おい!ちょっと、カナン!どうしたんだよ!」


 アジトから外にでた私は早足で家に帰る。

 なんでよ、なんで、、、

 皆、どうして私から離れて行くのよ。

 なんで、バンドの解散ライブ前日に、チームが解散するのよ。

 私、居場所なくなっちゃうじゃん。

 止まらない、我慢していた思いが溢れてしまう。涙が止まらない。



 翌日の朝、私はいつもより早く兄貴が起きないうちに自宅から出た。


 今日はエンドケープ解散ライブ、学校が終わると直ぐに着替えて、ライブのリハをしなければならない。早退しようと思っている。

 早く家から出たといってもいつも私はギリギリの時間だ。なので、今の時間は学校でピークに登校する生徒が多いのだ。


「な?聞いたか?」

 登校中の生徒の会話がチラホラ聞こえる。

「樫木っているじゃん生徒会の。あいつ美女と不良引き連れて、地下に入って行くとこ見たんだよ。なんでも不良グループ1つ潰したとか、そのグループのリーダーになったとか」

「マジで、すげえなあいつ、そりゃモテるよな」



 とそんな話を聞いた途端、私はあいつ《准弥》のいる教室に向かったんだ。

 そう、全くの噂であって本当のことではないのも理解している。

 ただ私の八つ当たりなんだ。


 でもそんな私に嫌悪感を抱かず接してくれたんだ。


 そのあとライブハウスから帰る私に絡んでくる酔っぱらいから私を助けてくれた。


 私は樫木准弥という男の子を知っていた。

 ずっと姉御から弟の話は聞いていたから。

 入学式から私は樫木准弥を探していたから。


 きっかけがああなってしまったけど、やっぱり樫木准弥は樫木真由子の弟だ。


 無事ライブハウスから帰って来た。

 リビングには兄貴がソファーに座りビールを開けてテレビを観ている。

 普段兄貴はカッコつけているが、自宅ではスウェット上下で決して貫禄があるリーダーではない。


「おー帰ったか。どうだった解散ライブ」

「んー楽しかったよ、まあ寂しくはなるけど」

 私は兄貴が座っている三人掛けソファの隣に座った。

「兄貴、昨日はごめんね」

「んー?何が?あーあれは俺の言い方が悪かったな。真由子さんに怒られたんだよ。私が居ない間何してたんだ!って 」

「なるほどね、それで解散しようとしてたんだ」

「ああ、なんだか目が覚めたよ。待ってたって何も始まらないってな。進んでみようと思ったんだよ。信頼出来る仲間達で」

「進んでみよう、か」

「ああ、カナン、俺はな、今から頑張って真由子さんに認めてもらって、プロポーズする!」

「おお、兄貴、良く言った。骨は拾ってやる」

「いや、撃沈してるじゃねーか」

 久々の兄妹の会話だったかもしれない。

「兄貴、私、樫木准弥に会ったよ」

「准弥くんか、、惚れたか?」

 とニヤつきやがら言ってきた兄貴にウゼぇと思いながらも。

「別に、そんなんじゃないから」

 少し顔が熱くなった。


 兄貴との話が終わり自室に入る。准弥にお礼を言わないとと思いアプリを立ち上げる。

 ひょっとして、兄貴と雑魚ども以外で男の子のID知ってるの准弥だけじゃないの?

 急に緊張してきた。


「あれ?」

 立ち上げたアプリに准弥からメッセージが先に届いていた。

(カンナ、無事帰れたか?)

 先手打たれた。

 でも先にメッセージが准弥から来たので少し気楽にはなれた。

(うん、帰って来た。ありがとう)

(そうか、今時間空いてるか?電話していいか?)

 ええ?何?積極的なアプローチみたいなやつ?ちょっと緊張するのだけども。

(い、良いけど?)

 直ぐに私のスマホに准弥の名前が出た。

「もしもし」

「あ、ごめん大丈夫だった?」

「ううん。全然問題ない」


 准弥と姉御のことや、兄貴達のことを話した。

 一緒にいた千渡進がHANAUTAだったことも衝撃的だった。しかも私と組みたいということも。

 躊躇はしたけど、こんなチャンス受けないと明美や兄貴達に怒られそうだもの。

 私も進まないといけないとそう思った。

 だから引き受けることにした。


「それでなんだけど、あの、」

 准弥は何か歯切れが悪い感じだけど。

「どうしたの?」

「カナン、生徒会入らないか?」

「わ、私?」

「そう、いやHANAUTAの正体知っちゃったし、家の家計とかカナンがやってるんだろ?生徒会で会計探しててな」



 そんなこんながあって私は生徒会に入ることになったのだ。


 これから私の高校生活がやっと始まるんだろう。


 生徒会はちょっと変わった人が多いけど、それでも私を必要としてくれる仲間だと思ってくれている。


 私は生徒会に、樫木准弥に救われたのだろう。

























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