第11話 私とレスポール
「ちょっと待って・・・・准弥!」
帰ろうとする准弥に声をかけた。
特に用事なんてなかった。
ただ、、、
「ん?どうした?やっぱりアジトまで送ろうか?電車の方が安全かなと思ったんだけど」
「そうじゃなくて、番号教えくれる?お、お礼もあるし」
「お礼なんて、良いのに。まあ、ほれ。」
私は准弥とLINEのIDと電話番号を交換した。
私は小学4年生の時に母を亡くした。
それからお父さんとお兄ちゃんと3
人で暮らしていた。
お父さんが外資系企業で働いていたので、不自由のない生活はできていた。
私が中学に上がる時、お父さんの海外赴任が決まった。
お兄ちゃんは大学受験もあるため日本に残るということで私は父と一緒に行かず、お兄ちゃんに付いていくことにしたんだ。
もちろん慣れない海外の環境も不安だったし、お母さんを亡くしたお父さんも海外でのびのび新たな人を見つけて幸せになって欲しいと思った。
私は邪魔になりたくなかった。
お母さんが亡くなってからはお父さん、元気なかったから。
幼いころから炊事、洗濯などの家事は私がやっていた。
お兄ちゃんが受験に失敗して、フリーターを始める時もお父さんの仕送りやお兄ちゃんのアルバイト代をやりくりして生活をしていた。おじいちゃんやおばあちゃんを頼るのも良かったんだけど、受験に失敗したお兄ちゃんは明らかに落ちぶれていた。私もそんなお兄ちゃんの支えになりたかった。
そんなお兄ちゃんも少しずつ元気になっていた。どうやら友達ができたようだ。
私が中学校からいつものように帰る途中にスーパーに寄り、晩御飯の材料を購入し、自宅に帰ってきた時だった。
玄関を開けたとき見知らぬローファーがあった。明らかに女性ものだった。
家の中に入ると、お兄ちゃんの笑い声と、女性の笑い声が聞こえる。
最近元気だなって思ってたけど、彼女出来たんだ。
私が帰ってきたことがわかったのか、お兄ちゃんの部屋が扉が開いた。
「おー!カナン帰ったか、ちょっと来てくれ。紹介したい人がいるんだ」
兄がこの家に人を入れるなんて初めてだし、ましてや女の人を紹介されるなんてね。
私は少し緊張しつつお兄ちゃんの部屋に入った。
そこにはここら辺では有名な高校の制服を来た女性がいた。
お兄ちゃん、いくらなんでも年下の女子高生を自宅に連れこむなんてどういうことよ?犯罪だけには手を染めないでよ。
そう思いつつ女性の顔を見た。
そこにはとても綺麗な女性の姿があった。
艶やかな黒髪にキリッとした目元、グラビアモデル顔負けのプロポーション、街ですれ違うと確実に二度見してしまうだろう。
こんな人が知り合いだなんて、お兄ちゃん騙されてるじゃないか?と思えるほどに。
ちゃんとしていれば顔立ちが整っている兄ではあるが、それでも一緒にいた女性の飛び抜けてオーラがあり、私は圧倒されていた。
そんな私に女性が駆け寄ってきた。
一瞬のことに固まってしまう。
その女性はぎゅっと私を抱き締めたのだ。
「え?どういうこと?」
私は突然のことにビックリしてしまった。
「あなたがカナンちゃんね、リューリューから聞いてたのよ妹ちゃんのこと。頑張ってたんだね」
そう言うと私の頭をヨシヨシと撫でた。
嫌な気は一切しなかった。
甘い香りがした。
そしてなんだか懐かしくもあった。
そう、少しママに似ていたんだ。
「この人は樫木真由子さん、俺達がほんとお世話になってね。色んなこと教えてもらってる。」
「その言い方だと語弊があるわよ」と真由子さんは笑う。
「あの、そのそれじゃ恋人とかでは?」
「ハハハ、それはナイナイ」
「カナン、お前は!」
お兄ちゃんは少し頬を染める
「そだね、リューリューがもっと頼りがいが出てきたら考えなくもない」
ふっと優しい笑顔を見せた。
ふと真由子さんの前に置かれていたケースを見た。
それに気づいた真由子さんは言った。
「あー、これ?これね、私を口説いてきた人に貰ったんだけど、それは勿論お断りしたんだけど、これもらっちゃってね。売るわけにもいかないし」
そう言うと真由子さんはケースを開けた。
私はそのギターに一目惚れをした。
勿論ギターのことは何も知らない、グランドピアノのように光沢を纏った黒いギター。
あとで調べてわかったのだが、レスポールという型らしく、値段も中古でさえ30万を軽く越える代物だった。
「弟なら使うかなと思ったんだけど要らないみたいだし、リューリューも頑なに要らないって言うから」
そりゃ好意をもってる女性からプレゼントされたものが別の男からの貢ぎ物ってのは良い気はしないだろう。
お兄ちゃんは間違いなく真由子さんに好意をもっているし。
「ねえ、カナンちゃん要らない?」
「わ、私ですか?」
「うん、何か部活とか趣味とかある?」
「いや私は何も無いです。家事で手一杯で」
「じゃあちょうどいいじゃん」
「え?」
「ギターを始めてみるのはどう?」
「でもこんな高そうなもの」
「いいよ、置いてたって使う人がいないならあれだし。どう進んでみない?」
「進んでみる・・・」
『進んでてみる』という言葉の意味が私にはこの当時理解できなかった。
でも、私はこのギターに、手にした経緯は良いものではないかもしれない、誰か知らない人が、私ではない女性にプレゼントしたものなのだから。
それでも私の生活をガラリと変えたギターなったのだ。
まあ後々わかるのだけど、そのギターをプレゼントしたって男性はとても有名なバンドのギターリストだった。
知ったときにはその人の裏の秘密を知っているんだと私と思ったもんだ。
誰とセッションするわけでもなく、最初は教本を繰り返し繰り返し、本がボロボロになるくらい練習をした。ギター教室に通って本格な技術も学んだりしていた。
中学2年生の春、クラス替えがあり2年生初日に自己紹介があった。
お母さんが居なり6年生で転校した為、転校先小学校の友達も居なかった。中学校に上がっても小学校からの付き合いの人が多くて、私の中学一年生時点で友達も居なかった。
そんな時だった。私は周防明美という少女に声を掛けられた。
「ねぇ?あんたさ?ギター弾けるんでしょ?」
私は自己紹介の時に趣味がギターと言っていたのでそれに反応したのだろう。
見た目はギャルのような金髪で、中学生ながらピアスも開けている。ちょっと怖い感じだけど。
「うん、合わせて弾いたこととかはないんだけど、お家で練習してる」
「ね、あっしとバンド組まない?」
これが私とバンドのボーカルのAKEMIとの出会いだった。
私達は中学で女子軽音学部をつくって学校で練習をしたりしていた。
中学生ってこともあって、ライブハウスも借りれないし、学園祭で披露したり、コンクールに出たりしていた。
明美と知り合って楽しい学校生活をすることができていた。
「ところでさ。カナンはどうやって練習してるの?めちゃくちゃ上手いじゃん」
「うーんそうだな~。一通り弾けるようになったら、スマホでギター弾いてる所を撮影してるかな。そのあとチェックしてる」
「えー、それ見せてよ」
「え?良いけど」
私のギタープレイ動画を観て、明美はこう提案したんだ。
「カナン、これさ、投稿してみたら?」
「え?いやそんなの恥ずかしいじゃん」
「恥ずかしいも何も首から下じゃん」
「それはそうだけど」
それから明美に言われるがまま、動画をアップしてみた。それが思いの外反響をよんだのだ。
沢山の人が見てくれる、アドバイスもくれる、応援のコメントも沢山きた。
いつの間にか私の動画も50万人に膨れあがった。
ある日、いつものように部活を終えて、スーパーに寄って、自宅に帰って来た。
家は真っ暗だった。
「あれ、兄貴帰ってきてないんだ」
私はリビングの電気をつけた。
「きゃ!」
人影のようなものが見えて、思わず叫んだ。
リビングのソファーに兄貴が座ってたのだ。
「ちょっと脅かさないでよ!電気くらいつけてよ!もう!」
よく見ると兄貴の様子がおかしい。
ずっと下を向いて肩を落としていた。
もしかしたらずっとこの状態で夜になってたのかもしれない。
「ねぇ?なにかあったの?」
兄貴は弱々し声でこう言った
「ヘッドが俺達の前から姿を消したんだ」
「姉御が居なくなったの?」
「ああ、やりたいことできたから、進みたいってさ」
私も姉御には沢山お世話になった。
兄の希望だってのも確かだ。
姉御と兄貴それにドラグーンのメンバーとも沢山遊んだ。
私は真由子さんを姉御と呼ぶようになり、お兄ちゃんを兄貴と呼ぶようになっていた。
私は姉御を尊敬していた。
私にギターを始めるきっかけを作ってくれた、兄貴を明るい兄貴に変えてくれたから。
兄貴の恋はここで終わったんだとそう思った。
しばらく元気がなかった兄貴やドラグーンメンバーも次第に元気を取り戻してはいた。
ただ、姉御が帰ってくるのを待ってるような感じだった。
うーんそれでいいのだろうか?と私は思っていた。
実際のところ姉御はアジトに来て遊んだりはしていたけど、詳しいことは何も知らない。
私と同じ歳の弟がいるってのと、私立凌陽学園の生徒だったってことだけだった。
憧れの姉御の母校、凌陽学園を受験することにした。自由な校風ってのもあるし、何か姉御のこともわかるかもしれないと思ったのもある。
中学3年で見事高校に合格をし、バンドメンバー集まったときだった。
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