第10話 私達

 大盛上がりだったエンドケープのラストライブを終え、俺達はライブハウスの外に出ていた。

 ーガシャンー

「ほれ!」

 進は俺に向けて、微糖の缶コーヒーを投げた。

 受け取りタブを開け一口流す。

「でさ、どうしてライブハウスの前の電柱に隠れてるんだ俺達は。」

「いや、出待ちに決まってるだろ」


 知り合いなんだからそんな事しなくてもいいんじゃないかとは思う。

 これじゃまるでストーカーじゃないかね?


「ラストライブだぞ打ち上げとか行くんじゃないか?」

「カナン達は高校生だからな。時間的に控え室で軽く乾杯したりファミレスにちょっと寄るぐらいだろ」

「なんか週刊誌の記者みたいだな」

「まあ散々追いかけられたからな」

 そうか進は芸能界引退間近に記者に張られてたみたいだしな。


 俺は腕時計の時間を見た。

「8時か。たしかに時間が時間かそれにしても隠れなくても直接聞いたらいいんじゃないか?」

「バカ野郎、こんな薄暗い繁華街で呼び止めるわけないだろ、変なストーカーだと思われるだろ」

 まあ今も十分怪しいと思うけど。


「まあここじゃちょっと女の子1人歩かせる訳にもいかんか、いやでも他のメンバーと帰る可能性高いんじゃないか?」


 そう話していると、1人ライブハウスから出てきた。カナンだ。

「よし、追うぞ」

「いや、追うって」

 進もヒソヒソ話をし、ばれないようにカナンの様子を見ながら歩き出す。

 ライブハウスは飲み屋が建ち並ぶ裏路地にあり、正直女子高生1人を夜道1人歩かせるにはやや危なそうではある。

 駅前まできたら少し開けていて見渡しも良いのでそれまではばれないように追いかけて、駅前に着いたら声を掛けようということになった。


「それにしてもなんか、元気無さそうだな」


 遠くから追いかけている俺達からみても、カンナはあきらかに肩を少し落とし、よろけているようにも見える。

 カンナなりにこの解散に思うこともあるのだろう。


「おい、准弥」

 進は軽く俺の腕を叩き、カンナを指差す。

「ん、あれは?」

 カンナは少し大柄の男と他の連れ2人に囲まれていた。

 ふぅーとため息をつく

「なぁ進」

「なんだよ?」

「俺って知り合いが誰かに絡まれる呪いとかかけられてるのかな?」

「うーんわからないけど、お前たまにご都合主義の主人公みたいなところあるぞ」

「全然誉められて無いなそれ」

「で、どうすんだよ」

「行くしかないだろ」


 俺達はカナンと所へ駆け寄った。


「暇してるだろ?なぁ飯行こうぜ?」

「ちょっと邪魔なんだけど、どいてくれない?」


 あーナンパか、相手も少し酔ってそうだな。


「おーい!カンナ!待たせたな?」

「じゅ、准弥、どうしてここに?」


 カンナは驚いた表情をみせる


「何、君たち?知り合い?」

「いやーそうなんすよ、こいつと遊ぶ約束してて、待ち合わせ場所に来ないから探してたんですけど、そこで准弥が見つけましてね」

「そうは見えねえけどな、ね?どうなの?」

「それは、その」


 いや、カンナさんそこは口ごもらないでいただきたいんですけど・・・


「ほーら彼女はそうは思ってないみたいだよ?ね?じゃあ俺達と遊ぼうぜ、こんな童貞くんと遊ぶより楽しいよ」


 大柄の男はカナンの腕を掴み引き寄せようとした。


「痛い!やめてよ!」


 プチン

 俺の中で何かが切れた


「やめろっていってんだよ!」


 俺はカナンを掴んでいる男の腕を無理やり肩に抱えた。男がカナンから手を放したその時だった。


「童貞の何が悪いんだよ!!!!!」


 進とカナン、他の男たちは目を見開いて驚いている。


 大男が綺麗に宙に舞う

 完全に決まっていた

 一本背負いが。


 ードサッ!ー

「い、いってえー」

「し、しんちゃん大丈夫かよ!」

「大丈夫ですよ、この人、体格的にアメフトか柔道してたでしょ?受け身も取ってますし、アスファルトなので背中は痛いかもしれないですけど」

「すまなかった、しんちゃん酔うと手がつけれないんだよ」


 進が駆け寄ってきた。

「いや、准弥お前、凄かったぞ、柔道とかやってたっけ?」

「あっいや、格闘技は姉ちゃんの相手を散々させられてたからな」

 そうなのである、キックボクシングのスパーリング相手だったり、柔道の組み手相手だったり、剣道の練習に付き合わされて、俺まで鍛えあげられちゃったのだ。


「でもお前授業ではそこまでではなかっただろ?」

「そりゃクラスメイトの組み手の授業で本気だす必要ないでしょ?」

「まあ、そうだけど」


 そう、姉からはお前の力はストリートファイトの時に使うんだよと教えられていたのである。

 いや、それもそれでおかしいだろ。

 そんな場面生きててそうはないぞ。

 まああったけども。


 ふーっと呼吸をして、しゃがみ込んでいるカナンに片手を出した。

「大丈夫か?」

 カナンは俺の手を取り立ち上がった。

「あの、その、ありがとう」

「おう。進!帰るぞ。カナンも行くぞ」


 カナンも無言で首を縦に振る


 進と俺で並んで歩き、カナンはその後ろについてきた。


「進、今日はよくないか?」

「そうだな、学校で会えるしな」


 駅前についた俺達はここで解散することにした。

「カナンここで大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

「んじゃな、俺達歩きだから」


 あっと思いだした。俺はカナンにこれを伝えたかったんだった。


「カナンのギターめちゃくちゃ格好良かったぞ。それにエンドケープ最高のバンドだな!感動したよ!」



 そう言って駅に背を向けて歩いてた。

 少し離れた頃に後ろから声がする。



「ちょっとまって・・・・准弥!」



 ライブから土日を挟んで月曜日の放課後


「えっと竜城カナンです。今日から生徒会会計としてよろしくお願いします」


「ほう、また准弥が引っ掛けたか?」


「すみれさんまでそんな事言いますか?いや、進がサポートギターとしてスカウトしてそうなると進がHANAUTAということがバレるから、あ?それだったらカナンに生徒会に入って貰えばいいんじゃないか?となって」


「カナン?ねえ?じゅんくん?か、カナンって?」

「いや、カナンの方が呼びやすいじゃないですか?」

「それだったら私もヒ・カ・リって読んで欲しいかな・・・なんて?ちょっとき、聞いてる?」と口を尖らせる。

「え?会長な、なんか言いました?」

「もう!」

「それにしても、金曜日の准弥はかっこ良かったな!」


「「「どんな感じで??」」」


 会長、すみれさん、みこちゃんの声が揃う。


「カナンから男の腕をとって、童貞の何が悪い!!!って大男を投げ飛ばしたんだよ(爆)」


 や、やめろ!!!!!!!!(爆)じゃねーよ。

 色々込められた(爆)はやめろー!!

 自分の顔が熱い、灼熱だ。


「「「童貞」」」

 3人がボソッと呟く。


 会長は何故かストレッチをし始めた。

「会長、急にどうしたんですか?」

「いや、ちょ、ちょっと最近運動不足だから体を鍛えなきゃと思って」

 ついにはスクワットしだした。


 みこちゃんはというと。

「フンス!」と鼻を鳴らし、キーボードに手を置いた、なんとなく熱っぽそうだが顔がPCに隠れて見えない。また糞野郎呼ばわりされるのだろうか、童貞糞野郎と。。


「そうか、女性陣3人によるビーチフラッグか、いや勿論私は参加しないがな」

「すみれちゃん、それど下ネタだろ爆」


 いや、すみれさんも進も一体何の話をしてんだよ?


 そんなどうでもいいやり取りをし、生徒会メンバー全員がカナンの方を向いた。








「「「「「生徒会へようこそ」」」」」


























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