第9話3つの顔
「あんた、兄貴に何を言ったのよ!」
「えっと、どちら様で?」
突然やって来た来客に恐る恐る聞く。
「私は竜城カナン、竜城龍士の妹よ」
「あー、龍士さんの」
そういえば、昨日帰り際、龍士さんが妹が俺の学校にいるから、仲良くしてやってくれと言っていたな。
俺は学校周りのことには疎く、同じ学年の情報なども全く頭に入っていなかった(よく生徒会に入れたもんだ)
「えっと、龍士さんにはどこまで説明うけたんですかね?」
「解散して、新しくチームを作るって。あと准弥くんと仲良くするんだよと言われたわよ。そしたら朝、学校に来たらドラグーンのリーダーがあんたに変わったって聞いて」
なるほどなるほど、もう少し龍士さん説明しといてくれよな。
要するにチームが解散した、チームが新しくなる、俺と仲良くしろ、そしてチームのヘッドが俺に入れ替わったという間違った噂を聞いてのこれか。
はぁと深いため息をついた。
「いや、俺はリーダーにもなってないし、新しくチームのリーダーも龍士さんのままだよ」
「え?そうなの?」
「まあなりゆきで、新しいチーム名をつける役割を与えられたけど、リーダーの打診は断ったよ」
「はぁ?断った?ん?樫木って、あ?」
カナンは思い出したように俺にこう言った。
「姉御の弟か!?」
姉御の弟。なんだの俺のこの末っ子感は。
姉ちゃんとも面識あるのか。
このカナンって子も姉ちゃんを姉御呼びを普段してるところをみると、樫木って名字だったことを忘れてたようだな。
「そっか、私の早とちりみたいね。悪かったわ」
「いやそれは大丈夫だけど。まあ俺も龍士さんとは気が合うから遊びに行くこともあるだろうしこれから宜しくな」
「怒らないの?」
「どこに怒ることがあるんだよ。それに竜城は、あっ龍士さんも竜城だったな。カナンはあのチームがずいぶん大事に思ってるんだな」
「そ、そんなこと無いわよ、ただ私の大好きな場所だから、兄貴も雑魚どもも家族みたいなものだし」
「カナンって龍士さんに似てお人好しだな」
と微笑ましくカナンを見る
「な、何よ!それ!えっと、私も准弥って呼んでいい?あっあれよ樫木だと姉御も樫木だから」
まあそうだけど、姉ちゃんのことを姉御って呼んでるだから俺は樫木で良いような気もするが。
「おう!宜しくなカナン」
と手を差しだした。
カナンは俺の指先をちょこんと握った。
「わ、私もう出るわ、悪かったわね」
そう言って教室から出ていく。
相当怒っていたのだろう。
耳が真っ赤に染まっていた。
カナンが出て行くと、静まりまりかえった教室も賑やかさを取り戻す。
誤解がとけたから俺に対してのコソコソ話もなくなっている、いや余計に周りがコソコソ話しているような気もするが。
圧倒されて離れていた進が再び近いてきた。
「で、公開初対面ラブコメ展開見せられて俺はどうしたらええんや?」
どういうことだ?そしてなぜ関西弁?
「いや、あれどんな人がみても友達からお付き合い始めましょうって感じに見えたぞ。普通あんなさりげなく、女の子を下の名前呼びねえよ。俺がそんなことしたら一発でチャラ男認定だよ。お前そういうところ凄いとおもうわ」
「まっマジか」
確かに俺は一人が好きではあるが、コミュニケーションが取れないわけではない。
むしろ人より会話が出来てしまうところはある。下の名前を呼ぶこともあまり深く考えない。
俺、なんか余計なことしたか?
「それにしてもお前、2年美女四天王の3人と1年二大美少女と知り合いなんだからな、人たらしもいいところだ。」
「美女四天王ってなに?」
「お前何も知らねえな。2年美女四天王は会長の水嶋光、副会長の立花すみれちゃん、図書委員のつまりそ先生こと羽川愛子、そして文芸部部長の矢野愛佳。1年の二大美少女は竜城カナンそして、みこちゃんだよ」
「みこちゃん?みこちゃんってそんなに有名なのか?確かに超絶可愛いとは思うけど!」
「ああ、生徒会が教室周りしてたときから、あの超絶美少女書記は誰だ?となったの知らないのか?お前、無自覚クソ野郎だな」
「その言い草はないだろ」
そりゃそうだな。みこちゃんならすぐに見つかってもおかしくない。
あー!そうだみこちゃんどうなった?
誤解を解かないと!
と前のみこちゃんの席に目を向ける。
ん?さっきのカナン並みに耳が真っ赤だな。
「ねぇみこちゃん?」と声をかける。
みこちゃんの席の前に行き、声をかけたその時
ガガガと椅子を引き立ち上がったみこちゃんは顔を真っ赤にして衝撃的な言葉を叫んだ。
「もー!!知らない!!無自覚クソ野郎!」
みこちゃんはそう叫び、走って教室を出て行った。
え、え?いやえーー!!??何今の、、いやいや無自覚クソ野郎って。
俺はみこちゃんが去っていった席の前で呆然と立ち尽くしていた。
後に『美少女、無自覚クソ野郎事件』という俺とみこちゃんの黒歴史になるのであった。
その日の放課後、俺は進にライブに誘われた。
「で、なぜ俺を誘ったんだ?すみれさんでも良かったんじゃないか?」
「すみれちゃんも今日は手が離せない用事があるみたいでな、チケット二枚もらったし」
「そうか。でも俺はあまり音楽には詳しくないぞ」
「まあ俺のスカウトの助手をしてくれれば良い」
「スカウトねー。これこのバンドの解散ライブみたいだけど」
「ああ、准弥さ、『あいにゃ』って知ってるか?」
「あーあれか、ギターの弾いてみたってのをやってる」
「そうそれ、正体不明のギターリストあいにゃが今日解散するエンドケープのギターじゃないかって話でな、レコード会社の人に聞いてここにきたって話だ」
「あいにゃじゃないか?ってまだ確定的ではないのか?」
「そう、そのエンドケープってバンドは覆面女子バンドでな、皆ガスマスクみたいなものを被ってて誰も顔がわからないんだよ。あいにゃも顔から下しかでてないから、顔から下の感じで女性じゃないか?って話でな。あとギタープレイを見た感じと、あいにゃとエンドケープのギターKANA愛用のギターが同じらしいんだ」
「でスカウトってのは?」
「うちのレコード会社も狙ってはいたみたいなんだけど、新しくバンド組ませたりとかな。でもそのKANAが乗り気じゃないみたいでな」
「ふーんでも、何でそこに進が関係するんだ」
「そこなんだよな、俺はHANAUTAとしてサポートギターを探しててな、同じ配信系のギタリストに興味があったのもあるし、これだったら引き受けてくれんじゃねえかなって思ってな。」
なるほど、俺もあいにゃの動画を観たことがあるが、素人の俺から見ても目で追えないような早弾きをしたりしてたし、音にも迫力があった。
確かにHANAUTAの楽曲にあのギターサウンドが交わればとても良い曲ができるかもしれない。
会場が暗くなり、エンドケープの出番が始まった。
ゴソゴソと暗がりで準備する音。
アンプの音合わせの音も聴こえる中。
ステージにスポットが灯る。
そこにはライダースにチェックのミニスカートにマーチンブーツのギター。
ボーカルはTシャツにボクサーパンツのゴム部分が見えるぐらいデニムをダボっと腰履きし、伝説のバスケプレーヤーのバッシュを履いていた。
その他にターンテーブルがいて(音楽詳しくないから何担当と呼ぶかはわからない)、あとドラムがいて 、ベースがいて。
見た目の感じはこれくらいだが、その中で異彩を放っていると言えば、全員ガスマスクなところだろう。
挨拶が始まる前にドラム音と共に曲が始まる。
曲が始まると会場の客が前に前にと押し寄せる。
後ろの方で見ていた俺達だったが、どんどん飲まれて前の方に押し流される
人に挟まれ息苦しいが、凄まじい熱気と共に、ボーカルがラップを織り混ぜた激しい歌声が鳴り響き、女の子が弾いているとは思えない重低音とドラムを叩く振動。
初めての体験だったが、一言めちゃくちゃ格好良かった。
正直ここで解散は勿体ない。
バトルもののアニメの主題歌とかやって欲しいと2次元脳が思ってしまうぐらいに。
「すげえな、これこんなに熱くなれるのかなんか新しいものが開けた感じがするぞ」
「そうだろ?これがミクスチャーバンドって言うんだよ」
ミクスチャーバンド。定義は曖昧だが、パンクやメタル、ヒップホップ等色んなジャンルの要素を混ぜたものと進は説明してくれたが、普段JPOPしか聴かない俺にとっては新鮮で刺激的だった。
立て続けに三曲を歌い切り、MCが挟まれた。
基本的にはボーカルが話をし、ベースやドラムが相槌をうったり話をしたりしていた。
だがギターのKANAは一言も話さないままだった。
そしてMCが終わりボーカルが最後挨拶をした。
「本日は私達エンドケープのラストライブに来てくれてほんとにありがとう。今の私達があるのはほんとにファンの方々のお陰です。いつも応援ありがとう。エンドケープはこれからそれぞれ目標に頑張っていきます。これからも応援宜しくお願いします。」
ボーカルの最後挨拶を終えて、バンドメンバー達は深くお辞儀をし、そして被っているガスマスクに手をかけた。
「うぉーー!」と会場のが沸き立つ。
それはそうだ、仮面を脱いだメンバーたちは、とてつもない美少女集団だったからだ。
いや、顔を出して活動していたら、もっと人気が出たんではないかと思うくらいに。
いや彼女達は色眼鏡に見られるのではなく、パフォーマンスで勝負したかったのだろう。
「おい!准弥!あれ、あれ見ろよ!」
進は俺の汗でクタクタになったTシャツの袖を引っ張り、ギターを指差した。
俺はギターを見て、目を見開いた。
「・・・あれ・・・カナン・・・じゃないのか?」
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