第8話 解散そして、竜の巫女
「ど、どうして、先代が!?」
龍士は目を見開いて驚く。
「どうしてって、たまたま准がザコどもと知り合いで来ただけよ」
姉の日本語が少しおかしい気もするが。
「い、いつまでここに居るんですか?」
「うーん、何にも決めてない」
「それじゃここのリーダーとして復帰していただけるのですよね?」
龍士はさっきのスマートなボス感とはうって変わって子供のように目を輝かせ姉に投げ掛ける。
「なんでよ?嫌よ」
一言で竜也達の希望をへし折る。
「え?、、それじゃなぜ此処に?」
「言ったでしょ、弟の付き添いで来ただけよ、お酒もタダだし、私だってそんなに暇じゃない。いつまた此処を離れるかわからないわよ。それに、」
姉はフゥーと一息整え、真面目な表情に変わる。
「あなた達、私が居なくなった後、何してたの?」
「それはあらゆるゲームをやり、アニメを観たり、ラノベを読み、漫画を読み、先代が帰ってくるのを、」
姉は間髪入れず喰いぎみに痛恨の言葉を発する。
「キッショ。まじで言ってんのそれ?私だからあれだけど、他の女の子にそんな事言わないでよ、キショいから!これだからキモオタは」
いやー姉よ、ちょっと言い過ぎやしないか?。竜也さんと言えどそんな事言われたらライフゼロだぞそれ。
「あんたがやりたいのはこれなの?仲良しこよしのニート集団?まさか、変な仕事して無いわよね?オレオレだのワイワイだの。」
「いいえ、そんな仕事とも犯罪とも取れることは一切してません。アルバイトをして、」
あ、こんな感じだけどアルバイトしてんだ。
「そう、アルバイトをして、目標もなく、ただ私の帰って来るのを待っててくれたんだ。それで私がありがとうと言うと思う?」
「それは・・・」
「私があんた達に色んなことを教えたわ。ゲームもアニメも。でもね、それはあんた達の新しい目標のヒントになると思ってのことよ」
いやー。大人が大人に凄く真っ当な説教をまじまじ見てる気がする。
いや、この人達俺より年上なんだよなぁ。
とんでもなく自由人の姉だけども、こういうところは非常に真面目ではある。
それに姉は常に体現している。
『何事もチャレンジする精神』
飽きようが夢絶たれようが、一歩踏み入れてみる。
それが俺の姉、樫木麻友子なのだ。
何もしようとしない人が姉は大嫌いなのだ。
「そうですが、そうですよね」
竜也さんとザコ達はド失恋をした。
もうこの空間はお葬式か何かと思うくらいに。
あれは四年前だった。
俺は小説家を目指し、国立の文学部を受験し2度失敗した。その時に違う芸大受験に失敗したやつ、プログラミング学校についてこれなく退学したやつらと知り合った。
傷を舐め合う仲間、ただただ冴えない男達だったその頃、繁華街でヤンキー集団にカツアゲをされていた。
他の奴らより一つ年上だった俺は兄貴分として慕われていたが、俺はこの時こいつらすら守れずにいた。
「お前らみたいなザコは道の真ん中歩くんじゃねえよ」
ペッと唾を吐き離れていくヤンキー集団が去って行く姿を見た後。
ボコボコにされた俺は周りに倒れている仲間を視界入れつつも意識が薄れつつあった。
するとさっきのヤンキーが去っていった方向から、鈍い音と男達の声の叫びの声が聞こえ、その後俺は意識を失った。
「冷たぁ!」
頬にあたる冷たさに飛び起きた俺の目の前に、1人の少女が立っていた。
片手には500mlのコーラ、もう片手に持っているビニール袋にもコーラが数本入っていた。
「随分やられちゃったねー、とりあえずこれで冷しな」
完全に意識を取り戻した俺は周りを見渡した。するとさっきまでボコボコにされていたヤンキー達が倒れていて、逆に俺の仲間達は壁に持たれ意識を戻していた。
そこに少女は1人ずつ袋からコーラを出し、置いていく。
あの時確かに出会ったのだ、希望の女神に。
そして俺達は恋をしたのだ。
3つ離れた高校生、樫木麻友子に。
麻友子は倒れているヤンキー達を指先さし、こう言った。
「あっそうだ、ごめんだけどさこれ、あんた達がしたことにしといてくれる?私、高校生だからさ、問題起こしたら、退学なっちゃうし」
そこから俺達は樫木麻友子をヘッドとしチームを立ち上げた。
麻友子とは沢山遊んだ、ゲームもした、おすすめの漫画も読んだ、時には麻友子の空手の組み手の相手、トレーニングにも付き合った。
そうしているうちに喧嘩が強くなった。
服装にも頓着が無かった俺達は麻友子にそれらしいコーディネートをしてもらい、今の赤き竜の群が出来上がった。
それから2年が過ぎた頃
「私、ここを抜ける」
「抜けるって!どこかに行くんですか?」
「うん、私には生きている間にしたいことが沢山あるもん。ここで止まるわけにはいかない。それに、」
「それに?」
「私が居なくてもあんた達なら大丈夫っしょ?リューリューあんたが一番年上でしっかりしてる、あんたがこの子達を導くのよ。あっ私よりも年上だね」
輝かいた笑顔を見せたその少女は俺達の前から姿を消したのだ。
ああ、俺は間違っていた。
麻友子にただ依存していただけなのだ。
俺がやるべきこと、
それは仲間を導くこと、
そして俺が進むことなのだ。
「ふふ」
龍士は少し笑い。目が覚めたように宣言した。
「よし!解散します」
「え?どどういうこと?え?」
俺は何がなんだかわからん。
一件のやり取りと清々しい顔をした龍士の姿も。
「大丈夫そうね」
と笑みを浮かべた姉。
「解散がそんなにハッピーなこと、なのか?」
「いや解散とはいっても麻友子さんをヘッドとした赤き竜の群れ《ドラグーン》を解散し改めて、グループを設立する。そして、」
「そして?」
「初代ヘッドを麻友子さんの弟様である、准弥くんに引き継いでもらう」
「え?!」
なんでそうなるの?いや巻き込まれてるよね?ね?ね?!
「いや!何言ってるのよ。弟を巻き込まないでくれる?」
「え!?だ、ダメですか?」
「だ、ダメに決まってるでしょ?!なに?その世襲制度。まあ准の意向にもよるでしょうけど」
龍也さんとザコどもは俺の顔を目を輝かせ見ている。
「・・・・・いや、普通に嫌ですけど」
姉が何をしようとしていたか。
小説家を目指していた龍士さん。
イラストレーター、プログラマー志望などのザコども。
そして、姉がアニメ、ゲーム、ラノベ、漫画をこの人達にオタクを叩き込んだ理由。
姉はこの人達と行動を共にすることでわかったのだろう、この人達に才能の芽があることを。
それを導こうとしたのだ。
龍士さんからリーダーへの打診を丁重にお断りし、その代わり姉は何か俺にあった時に協力することを竜也さんに頼み、そして俺はリーダーにならない代わりに、新チームの名称を頼まれた。
「そうですねーうーん」
姉の厨ニセンスを生かしつつ
新たに歩み始めた竜達
「《ドラゴニュート》ってのはどうでしょうか?」
「ドラゴニュート、ああ良い名称だ。」
『ドラゴニュート』が同人ゲームサークルから日本のゲーム業界を席巻させるクリエーター集団になるのは、まだしばらく先の話になる。
アジトを後にした俺と姉は再び腕を組み帰っていた。
「あーなんか酔いが覚めちゃった。准!コンビニ行こー!」
「まだ飲むのかよ!ったく」
「准、」
「ん?何?」
「あの子達を宜しくね。あいつらさ、良い奴らなんだ。たまに様子みてあげて」
「ああ、そうだな、良い人達だよな、ゲームもいっぱいあるし、貸してくれるみたいだから、たまには遊びにいくよ。」
翌日、昨日ことがあり疲れが確変していた。
教室に入るとなにか雰囲気がいつもと違う。
なんだかザワザワしてるな。
「みこちゃんおはよう」
「あ、お、おはようございます、、、」
ん?なんだかよそよそしいな。
いつももよそよそしいけど、更に今日のみこちゃんはよそよそしく感じる。
それに周りの視線が俺に向いてる気がせんでもない。それになんかコソコソ言われてる気もするが。勘違いか。
椅子に座り、机に突っ伏している俺に進が寄ってきた。
「お前昨日なにしでかしたんだよ?」
小声で話かける進の話を聞き顔をあげた。
「昨日ってなに?!」
「お前、なんか噂になってるぞ?」
「何が」
「昨日の夜、クラスの奴がお前が金髪美女と腕組んで、ドラグーンの連中引き連れて地下に入って行くところを見たらしいんだよ」
「え?」
「それでお前が新たにドラグーンのヘッドになったって噂になってんだよ」
「え!?いや金髪美人って姉ちゃんなんだけど、まああながち間違ってもいないけど、ヘッドは断った」
「まあそうだとは思ったんだけど、お前ドラグーンと交流があったのか?って断ったってどういうことだ?」
「いやーそれは話すととてつもなく長くなる、後で話す」
あーー!!みこちゃんがよそよそしかったのはそれか!?
金髪美人と一緒に歩いていた上にドラグーンの連中を引き連れててたら、何か勘違いされてるかもしれん。
あとで弁解しなきゃ。
そう考えていると。
バン!と激しい音をたて教室の後ろのドアが開いた。
「ん?」
なんかとてつもない殺気めいたものが近づいてくる。
足音が止まると俺の机をバン!と叩く。
静まりかえる教室。
顔をあげるとそこには、黒髪ボブで真っ赤なメッシュの美少女が敵対心を剥き出しに立っていた。
「え?」
「あんたが、樫木准弥?、あんた兄貴に何したのよ!!」
「え?なに?!」
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