第7話 ドラゴンヘッド
俺は制服そのままで姉ちゃんに腕を組まれコンビニに向かっていた。
「いや、ちょっと待ってよ、知り合いに見られたら勘違いされるだろ」
「いいじゃん。最愛の弟なんだから」
「で、いつまでいるの?」
「うーん決めてない、今年一杯はいるかな、なんで?ずっといて欲しい?」
「いや、そういうことじゃなくて」
俺の姉、麻友子はこんな性格をしているが、トータルアビリティは異常に高い。
高校入試トップ成績を修めた者は新入生の代表挨拶をするのだが、「めんどくさい」を理由に蹴っ飛ばすわ、某格闘ゲームに嵌まり空手を始め白帯で全国の決勝トーナメントまで上がって、さあ準決勝って時になんか飽きちゃったなって理由で直前で辞退するわで(あの時の師範のポカーン顔が頭から離れない)
姉TUEEEEE系ってやつだ。
性格上「僕、最強だから」って平気で言っちゃうタイプの。流石に領域は展開しないが。
両親の自由な教育方針と姉の自由人気質でこういう感じなのだ。
そもそも姉の職業が何かもわからない、姉に聞いても『旅人』としか言わないし。
容姿端麗、スタイル抜群、勿論芸能業界からのスカウトなんて日常茶飯事だった。
たまに送られてくるLineの写真がドンパチ内紛の起こってる地域だったり、今日は蟹が沢山捕れたよって大量の蟹の写真を送ってきたり、治験ナウって病室らしきところで看護師さんとのツーショット撮って送ってきたあげく「彼氏いないらしいけど准、どう?年下OKだって」って勧めてきたり(紹介してもらうかとも思ったが)
いやほんと何の仕事してんだよ。ジャーナリストか何かなのかな?
コンビニにまで来ると、なんだかどこかで見たことがある人達がタムロしていた。
「お、あんちゃん、ちょうど良いとこにいた!」
「あー、あの時の」
なんだったけ?みこちゃん囲んでた、ドラグナイだったけ?それセカオワか。
「ヘッドがお礼を言いたいらしい、今からアジトに来れるか?」
「えっと、今は姉ちゃんと、、」
すると姉ちゃんが近付いてきた。
「お前らなんだ?うちの弟に手を出したらタダじゃおかねえぞ」
なんて格好いい姉だ。本来なら姉ちゃんがちょっかい掛けられて俺が言う台詞なんだがな、いつか言いたいもんだな。
「ん?」
なんだか、見た目あべし!とかひでぶ!とか言いそうな人達が驚いた表情で姉ちゃんを見ている。
「せ、先代!お、お久しぶりです!」
あべし!とかひでぶ!とか言いそうな、ザコキャいやお三方が深々とお辞儀をした。
「えーと?どういうことでしょうか?」
「お?お前らザコ郎、ザコ夫、ザコ太じゃん!久しぶり!」
「おー!ありがたいお名前を頂戴した上に、覚えてて頂けたとは光栄です」
いや姉ちゃんが名付け親なのかよ、いやいや明らかにディスってるだろそんな名前。
光栄ですってなんのプレイだよ。
「ところで、その子は先代の弟さんなんですか?」
「そうだ、私の最愛なる弟だ」
「いや、弟さんだとは思わず、大変今まで失礼しました」
と深々とお辞儀をする三人。
「いや、それはいいんですけど」
「是非アジトの方へ」
「それ、私も行ってもいいか?」
「も、勿論でございます」
「ハイボールある?」
姉ちゃんは今、酒のことで頭一杯だ。
「ええもちろん、元々バーだった場所ですしお酒をご用意できます」
「ラッキータダ酒、タダ酒」
アジトと言われる場所を案内され、地下階段を降りた。
扉をあけるとバーカウンターが並び、ダーツ、ジュークボックス、ビリヤード台、アメリカのナンバープレートが壁に飾られ、いかにも悪の溜まり場みたいな薄暗い空間が広がる。
「じゃあ私はここで待ってるから。さあザコ吉飲むわよ!」
いつの間にかザコがまた1人増えてるぞ。
姉ちゃんが来てることはサプライズとしてヘッドと呼ばれてる人には伝えてないらしく、俺1人奥のヘッドと呼ばれる人の部屋に案内される。
その部屋は俺が思ってもいない部屋だった。
「これは!」
壁には人気ラブコメラノベ『いくらなんでもお前とかよ!』のヒロイン遠山優衣香のタペストリー、棚にはワルター製のスケールフィギュアがこれでもかと主張している。
棚にはゲームがズラリと並んでいる。
「うわこれ、伝説のPCゲーム『雪姫』の数量限定ボックスじゃんシリアルナンバー付きの。」
「ほう、このゲームを知ってるのかね」
薄暗いその部屋から1人の男が姿を現した。
「君がゲームを譲ってくれたのか、感謝する。私の名前は竜城 龍士だ。赤き竜の群れのリーダーをしている」
どんだけ竜が好きなんだよ。
ややこしいわ。
「僕は樫木准弥です」
「樫木?いや、なんでもない」
龍士さんは顔を傾けながら、斜め上を見た。
「ダクスワは購入できたのかね?」
「いや、色々あって買えてないんです」
「それなら良かった」
龍士さんはダクスワの限定版を俺に渡してきた。
「これは?!良いんですか?」
「ああ、あの後手に入ってな」
「ん、しかもこれ、アニメントの店舗特典のタペストリー付きじゃないですか?すいませんおいくらですか?」
俺は後ろポケットから財布を取り出し、二つ折り財布を開いた。
「いや、いいんだ色々迷惑かけたようだしな」
いや、思ってた以上に良い人なんだが。
「あの、すいませんちょっと最初ビビってまして」
「まあ、あいつらもあんな格好だしな。元々は吹き溜まりの集まりみたいなものだ、先代がここのチームを作るまでは」
先代って姉ちゃんか。
「それにしてもこの部屋は?」
「ああここか、私は先代にアニメ、漫画、ゲームを教わってな。先代がチームを離れてから集めるようになって、それでこんな感じだ。チーム名も先代がつけたんだ」
さっきから先代、先代ってよっぽどなのだろう、姉ちゃんの存在は。それにしてもあの厨二丸出しのチーム名もなんとなくわかった。
そういや今の俺くらいの年に右目が疼くとか、私は魔法の詠唱せずに拳に炎魔法を付与できるとかなんとか言ってたな。
きっとその時付けられたチーム名だろう。
「その先代っていうのがですね・・」
ードガっ!っと大きな音が鳴り、扉が開いた。
「リュリュー!!久しぶりじゃん!」
姉ちゃんが飛び出してきた。明らかにさっきと違う。どんな強い酒ひっかけてきたんだよ。
「え!先代?ど、どうしてここに?」
はぁと深い溜息をつく。
何かありそうな予感が的中したな。
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